変わり者
朝日が雲に反射して眩しい。
目を細めながら裏を歩く。あ、そういえば帰ってくるとき、人身事故の件は厳重な装備をした『桃色頭』の連中が取り締まってたよ。
裏から聞こえる大通りの賑わいは、市場より盛況だ。
朝食どきには、表からパンのいい匂いが漂ってくる。
表と裏の境目。その境界線上にはポツポツと建物が存在するが店の類は一切ない。商業などは表通りで行われる。つまり、治安の良い場所にしか開けないのだ。しかも柵や物理的な段差(落差)だけでは飽き足らず、境界には幅、深さ共々広い水路が配置されるという、裏からの侵入を完全に排除する徹底ぶり。
そんなに裏の人間が嫌いなのか。いっそ清々しいね。思わずシニカルな笑みが浮かぶ。
点々と置かれているものの中にひときわ大きく、幅をとっている建物がある。
ギルドだ。
ギルドと書かれた大々的な看板を取り付ける、ネジ丸出しの鉄扉を開くと。まだ朝だというのに薄暗い赤ネオンの中、煙やら酒の匂いやらが充満していた。そのせいで視界も悪い。 んー、相も変わらず胡散臭い場所だなー。煙たいよ。
「けほっ」
慣れているはずのこの匂いも、野原での新鮮な空気を吸った後ではちょっと肺が受け付けなかった。あちこちからのぞくむき出しの鉄が冷たい雰囲気を醸し出している。いや、鉄がむき出しなのはこの都市ではどこもそうなんだけどね。
「お!来たな、万年寝不足野郎!」
でも、そんな中でも温かさというものもやっぱりあるんだよね。笑顔で迎えられた。
「お前もっと寝とけよ。そして以来に遅刻してマスターにぶっ飛ばされろ。」
「そうだよ。お前最近稼ぎすぎ。ずるい。飯おごりなよ。」
・・・温かさ。そんなものはなかったです。ハイ。
つか、なぜに上から目線?
みんなが付いているテーブルに向かうも・・・。
「そのくせ貧乏くさい宿に泊まってるしね。」
「女も連れ込む勇気もないときた。」
「字汚いし」
「最後の関係ないよね!」
開口そうそう悪口しか言ってないじゃん!ふざけんな、俺のライフがもう削られ始めた!
「傷つくなー。お前らだって人のこと言えないじゃん。」
カラカラと笑って流していくも、心の中の俺がいじけ出す。
「どこが傷ついてんだよ。気持ちよく笑いやがって。」
「はは。相変わらずのほほんとしてるね君は。」
がはは、と口を大きく開けて陽気に話すのはザルド。くすんだ赤色の髪に薄い茶色の目をしている。骨格がよく図体のでかいし顔も厳ついからよくベテランだと見られるが、これでも15歳らしい。いやいや、ひげ生えてるんだよ?実年齢に顔が合わないにもほどがあるでしょ。
「おい、今めっちゃ失礼なこと考えなかったか?」
しかも野生的な勘の鋭さ。どうどう、睨むな睨むな。怖いから。
「アンジーがいつもヘラヘラしてて失礼なのは今に始まった事ではないよ、ザルド。」
「おう、そうだな。」
「えー、納得しちゃうんだ。」
さらっと毒を吐くのがコウ。桃色頭に暗めの桃色の眼。口元にはいつも微笑を浮かべている。細身で弱そうに見えるけど、これでも獰猛な性格をしている。敵にも味方にも一切容赦はしない。肉体派のザルドとは反対の頭脳派で、常にメンバーのまとめ役。いじり役でもある。つまり、ドS。綺麗な顔なのに中身はドロドロなんだよね。これでもメンバーさ最年長。人間、見た目で判断しちゃいけない。
「で、今日は何色にするんだい?」
「んー、ちょっと疲れてきたから昨日より下げて、『桃』にするよ。」
「ええー!『緑』やろうぜアンジー!なんでわざわざ下げるんだよー!」
ブーイングを盛大に行っているヴィート。黒色の髪に大きいこげ茶の眼。仕草やせわしない行動から犬をよく連想させる。喜怒哀楽が激しいメンバー最年少。犬だからなのか、(いや、犬ではないけど)すばしっこくて人になつきやすい。誰にも分け隔てなく接するから、結構な友人関係の広さがある。よく突っ走るので問題児認定。だが、それを言うとみんなにそろって、
「「「いや、お前の方がよっぽど問題児だ!!!」」」
て言われる。ハモらなくてもいいじゃん。ひどい奴等である。
それは置いといて。
「昨日も『緑』やったじゃん。たまには一人で『桃』やりたいんだよ。」
この世界は色を中心に作られていると言っても過言ではない。住人はみんな色を基準に階級や種族を判別している。体格や形などは個性の表れでしかない。目の色彩でその人の等級を判別するのだ。わかりやすいから便利だね。ただ、髪の色に関して、桃色と青色、白色以外はランダムで現れる。つまりそれも個性の範疇になる。
色の基準はギルドでも同じ。
茶→下級下 新入りの下準備期間
橙→下級上 新入りのちょっと上達した期間
桃→中級下 半人前
緑→中級中 一人前
赤→中級上 達人
紫→上級下 ちょっと人間逸脱
黒→上級中 超人
白(金)→上級上 神or災厄
青→罪人or排除対象
と、このように区別される。
この世界では底辺が青とされる。底辺というか、もう排除対象。この世に存在してはいけないものらしい。理由は、かつての悪の根源とされたものの色であるかららしい。なんという単純な理由。海も不吉なものとして忌避される傾向にある。自然だからどうこうしようもないけど。
白は逆に髪の色とされるから貴重らしいよ。髪の色が白、目の色が金に生まれた子は髪の生き写しとされ、神の遣わされた者として保護される。実際に信託も授かるという。
桃色の髪はさっき言った『桃色頭』の連中がそうだ。
警ら隊である彼らは桃髪の種族で構成される、機関に忠誠を誓うものたち。商人にも多く見られるが、彼らは商人に適した頭脳、話術を取得しているため自然とそうなったのだとか。そのせいで詐欺師になったものもいるらしい。そんな一部がなぜ機関に忠誠を誓うようになったかはまた今度。話せば長くなるから。
「今日はのんびり一人でやってくるよ。」
そう言って四人で囲んでいたテーブルから離れようとした時。
「なぁ、お前何でそんなに欲がねぇんだ?上がる気ねぇだろ。」
んー?欲がないわけじゃないんだけど。どこをどう見たらそうなるのかな?
「しょうがないじゃん、楽したいんだもん」
「だもん、じゃねぇよ。ったく、お前周りの奴らからどう思われてんのか知ってんのか?」
知ってるよ。
「でもさ、みんなから好かれるのは無理だよ?ヴィートじゃあるまいし。」
「そうだけどよ・・・。」
「それともザルドたちもそう<・・>思ってる?」
「「「んなわけないだろ!」」」
おおう、ハモった。仲良いね君たち。
カラカラと笑いがこみ上げる。
「そう。じゃ、俺はそれだけでいいや。」
ニヒッと笑うと、彼らはそれ以上何も反論しなかった。
「本当、13歳とは思えないセリフだね。サバ読んでる?」
んなわけないじゃん!男がサバ読んでどうすんだよ。
三人とも立ち上がり、しゃーないなー、という感じで付いてきてくれる。いや、ダメダメな子供を見るような生暖かい目で見るのやめてくれませんかね、お兄さんたち?
ヴィートだけは口をとんがらせたまま、不満をつぶやいていたけど。
というか、一人で行くって言ったのに、君たちも付いてくるの?
問題児を放っておいたら何をしでかすかわからないって?
そうですか、手綱を引く人が必要ですか。
でも俺、犬というより猫派なんだけどね。猫は自由気ままなんだよ。
「「「お前がすぐにいなくなるからだろうが!」」」
一番の問題児が何を言っている、という視線。
えー。
ま、いっか。
何事にも切り替えは大切なのだよ。
「さて、と。やりますか。」
「なんでホント、こいつは能天気なんだ・・・。」
ザルドが起きれた顔で額に手を乗せる。
小さいことをいちいちきにするなよ、ストレスでますます老けるよ?
そんなことを思っていたら、頭を思いっきりはたかれた。