魔法理論
「……そろそろ来ると思っていたの。さあそこに座るの」
突然の来訪にも関わらず、シャールは落ち着いた対応を見せた。というか俺が来ることを分かっていたらしい。何故だろう。
「まずは適性を見るの。両手で四角形を……」
「あ、それはフィレスとやったからいいです」
「そうなの?じゃあ適性を教えるの」
「はいよ。えーっと、四元素が全部1、光と闇がどっちも4……」
ガタッ!
音を立ててシャールが椅子から転げ落ちた。その顔には驚愕の表情を貼り付けている。
「ひ、光と闇が4と言ったの……?それは本当なの?」
「あ、ああ」
「なんでヒカルばっかりそんなに良いのが出るの……」
世の中運なの、と溜め息をつくフィレス。え、なに?そんなに凄いの?
「……口が過ぎたの。まずは複合魔法について説明するの。決まった組み合わせの二つ以上の魔法が全てレベル3以上であれば複合魔法になるの」
「なるほど……?」
「……分かってないの。例えば、私の召喚魔法は四元素全てレベル3以上が条件で、私は四元素全部レベル4なの」
「へえ、そんなに凄いのか、シャールは」
「私は家中の本を読み漁った……食べ漁ったことで知識が増えてレベルが底上げされたの。元々は四元素はレベル3だったの……まあ、こんな固有スキル持ってるからできることなの」
常人にはできないの、と俺に釘を刺す。う、やろうかと思ってたのに。
シャールが人差し指を一本立てた。シャールの癖だ。話を仕切り直すときによく使っている。
「光と闇は相反するものなの。だから、二つともレベルが高いのは珍しくて、それでできる複合魔法はえげつないの」
「えげつない……?お前みたいな数の暴力で攻められるのか?」
「それは私の魔力が多いだけで、別に魔法とは関係ないの。そんなのじゃなくて、もっとえげつないの。光と闇の複合魔法、『神託魔法』は神の力を借りられるの」
いまいちピンとこない話だった。神の力を借りられる?それはどういうことだ?
「この世界には神が居るの。抽象的なものでなく、最上位の生物として存在しているの。その神達の力を借りられるのが、神託魔法なの。……要するに、超強い人が力を貸してくれるの」
「な、なるほど……?」
まあ、ざっくりは理解できた。それに、この能力を持っている理由も。
間違いなくあいつだ。俺をこの世界に送った神。名前は知らんが、何かしやがったな。
「……使ってみるのが早いの。神、と言われて思い付く神は居るの?」
「そうだな……えーっと、名前はわからないんだが……」
俺はあの女の人相を伝える。すると、シャールは少しびっくりしたように「それはアーラーマ様なの」と答えた。
「そんなマイナーな神を知ってるなんて驚きなの……彼女は召喚魔法が得意な神様なの。神託魔法を使えば召喚魔法が使えるかもしれないの」
「なるほど、やってみる。どうすればいいんだ?」
「一番最初は難しいの。……詠唱したら楽だけど、癖になるから無詠唱なの。初回は無詠唱でやった方がいいの。まず、目を閉じるの」
言われた通りに目を閉じる。シャールの声が少し大きく聞こえた。
「そのまま、体の中に巡っている血の流れを、それに沿って動く魔力の流れを感じるの……」
催眠のような語り口調のシャール。脳内でそれが反響する。
「心の中にアーラーマ様を描くの。アーラーマ様に魔力が届くように……魔力が届いてくるように……道を作るの……」
抽象的な実態の無い言葉。しかし俺にはそっちの方が伝わりやすい。もとより魔法とはそういうものなのだろう。
と、突然。
思い描いたアーラーマがぐにゃりと曲がった。それと同時に体に力が沸いてくる。なんと、アーラーマの声すらも聞こえた。
「なるほど、なかなかの魔力ね」
「あ、ババア」
「殺すわよ」
こんなに離れてて天罰も何も無いだろう、と思っていたら本当に体の中から痛みが生じた。電撃のような痛みだ。
「な……」
「私が貴方に力を渡すのよ?貴方が奪うんじゃないんだから、攻撃魔法とかも直に与えられるでしょう」
やれやれ、といった感じのアーラーマ。……アーラーマ?
「そういやあんた、名前は無いとか言ってなかったか?」
「あんなの雰囲気出すための冗談よ」
「あんたを殴る権利をくれ」
貰わなくてもその資格はあると思うが。……ん?アーラーマから電撃か送られてきたってことは、見ず知らずの神様に焼き殺される可能性もあるってことか?
「貴方の懸念は正しいわ。その可能性は大いにあるわよ。せいぜい普段から祈りを捧げる事ね。……まあ、あの人たちも常識があるから大丈夫だとは思うけど」
「そーいや、こっちにカグツチが居るんだが、どうすればいい?」
「あー、カグツチ今そっちに居るの?その子は貴方の世界の神よ。とはいえ、その気になればその子から力を借りることもできるし、気に入られておく方がいいわよ。……そうそう、貴方はなにもしなくていいわよ、気がすんだら戻ってくるでしょうし」
え、あいつ自分の意思でここに居るの?瓦礫に埋められてた癖に。
「っていうか、コンタクトそろそろ切っていい?私トイレに入ってる所なの」
「あんた排泄とかするのか」
「レディに向かって失礼よ。じゃあね」
ぷつりと電話が切れた音がした。きっと、俺が交信として真っ先に思い付くのが電話だからだろう、と思った。




