未来への邂逅・ロック
俺は無抵抗で倒れた。というのも、体を動かせなかったから受け身も取れなかったのだ。倒れ伏せ、しかし鮮明な意識によって状況を確認する。標的が俺なのなら、フィレスに手は出さないだろう。
「ふははは……。まったく、楽だな。カインというらしいリンダで一番の使い手を倒した男、ヒカルだったか……。どんなものかと思ったが、実に他愛ない。この程度の吹き矢で参ってしまうとは……」
男が姿を現す。黒いマントに黒い髪、黒い手袋、黒いシャツ、黒いズボン。顔以外の全てが漆黒に塗りつぶされたような男だった。そこから立ち上る気配は、間違いなく、悪。
悪。
「……それに、甘い男だな。駒を庇って攻撃を食らうとは。駒に食らわせればいいものを」
駒。
その物言いに少しカチンと来たが、しかしここは我慢だ。
「おい、ヒカルの駒一号。えーっと、どっちだ。フィレスか?シャーロットか?……まあどっちでもいい。お前は何かやらないのか?今やリンダで一番の男の手駒だ。何か凄いことができるのだろう?」
ブーツをカツカツと鳴らして男がフィレスに近づく。武器の吹き矢も捨て、両手を広げるスタイル。完全に舐めきっている。
「……ボクは別に、そんな強いのは使えないよ」
「ほう、ボクっ娘か!なるほど、なかなか面白い駒を持っているようじゃないか、ヒカル」
「それより、さ。見もしない人から駒とか言われるのはちょっと気に障るかな!」
完全な無詠唱。術の名前すら言わないからなんという魔法なのかは知らないが、地面から炎の柱が上がる魔法のようだ。なるほど、炎によって男は黒こげにーーー
ーーーならなかった。
燃えたのは男が懐から出した紙一枚。男は黒こげどころか煤も付かない。
「そ、そんなーーー」
「面白い魔法だな。固有能力も使っているな?強いわけだ。……だがしかし」
俺の能力には、勝てない。
そう言って、どこからか取り出した紙をフィレスの額に貼ろうとーーー
「させるかボケ!」
一刀両断。今回こそ確実に男は二つに割れた。上半身と下半身が分かたれた体からは、しかし血の一滴も出ない。
「どーーーどういうことだ?」
『なかなかやるな、ヒカル』
どこからともなく……違う、脳に直接声が聞こえる。フィレスにも聞こえているようで、耳を塞いだりして実験をしていた。
『俺はロック・トランドル。座右の銘は善人ほど損をする、だ。ヒカル、お前のことは覚えておいてやる。それと、フィレスかシャールか知らんが、そこの女』
「ぼ、ボク?」
『そうだ。駒と言ったこと、訂正しよう。申し分ない一撃だった。あれを撃てるものはそう居らん。お前はどっちだ?』
「フィレスの方だよ。舐めたら火傷するよ?」
『文字通りーーーだな。お前らを狙ったのは他でもない、ただの興味だ。今リンダで最も強い者を見てみたかったのだ』
そんな迷惑な理由か。
『……まあ、そんな顔をするな。詫びと言っては何だが、そこから家が見えるな?……そう、その廃墟だ。その地下を漁ってみろ。面白いものがあるぞ』
「……なんでお前が俺たちに親切にするんだよ」
『なんだか、長い付き合いになりそうだからな。どうだ?お前もこちらに来ないか?なかなか大きい組織を作っているんだが、目標が上手くいかなくてな』
「目標ってなんだよ」
あまりに誇らしげに語るので、もしかするといい奴なのかもしれない、なんて思うが全くの嘘だ。不意打ちで吹き矢吹くような男だからな。
しかし、それでも油断はしていた気がする。
少なくとも、この答えは俺の予想とかけ離れていたからだ。
『世界を、滅ぼす』
絶句、とまではいかないが、驚きはする。それにたいして俺は、皮肉を返すので精一杯だった。
「……スケールのでかいこって」
『本気だぞ。俺も別にこの世界に恨みは無いんだが、それが俺の使命のような気がしてな。だから、お前に止められるならばそれは俺の使命ではないのだ』
「……つまり、俺に止めてもらいたいがために手助けするんだ、と」
『そういうことだ。止めてほしい訳では無いがな』
面倒なのに関わってしまった。が、どうやら俺たち以外にこいつを止めることのできそうな奴も居ない。
「分かった。じゃあありがたく家探しをさせて頂こうか」
『そうしろ。じゃあな。また会うこともあるだろう』
そう言い捨てて、声は止んだ。
「……結構いい人?」
「騙されるな、フィレス。あれはそんなんじゃない」
二つ可能性がある。
狂信者と、中二病。
どちらでもいい人でないのは確かだった。




