決着
戦場は、静かだ。
踏み込みの音、衣擦れ、たまに当たる刀の音。あと、俺の左腕から血が落ちる音。
そんな楽しい戦いも、終わろうとしていた。
「そろそろ決めようぜ、カイン!」
「ああーーーそうだな、化け物!」
いくら楽しくとも、早く終わらせなければならない。俺の中の血液は、そろそろ枯渇してきた。
だから、終わらせる。すぐに。
秘策を、使って。
「喰らえ、化け物!」
来る。間違いなく。放たれた斬撃は、俺をーーー俺の左腕を狙ってきた。
明らかな死角。圧倒的な弱点。
だからこそ。
だからこそ、分かる。
最後の一手は、ここに来るだろうと。
「が、あああーー!!?」
上げられた悲鳴は、しかし、俺のものではなく、カインのものだった。
「な、何故!どうやった、化け物!」
「くははっ、刀使いに死角は無いのさーーーまあ、結構頑張ったがね」
「しーーーしかし!拙者はお主が刀で防御するのに間に合わぬタイミングで……!」
「忍者が横文字使うなよ。瞬間、だろ?まあでも、その読みは当たってたぜ……というか、そのタイミングを作ったんだが」
その通り、本来間に合わぬタイミングだった。最短ルートを通らなければ。
その最短ルートの代償として、右胸から左胸にかけては薄皮一枚が斬られており、肩は深い刀傷がついていた。
「か、肩に自分の刀を刺して、切り裂いたというのか!」
「くははっ、駄洒落みたいになったな」
笑いながら、しかし自分の命の長さを考える。
左腕の出血は止まらない。肩にも傷が増えた。そろそろ意識も朦朧としてきた。
あー、これはもう、駄目かなー……。
「使え」
ぽい、と包帯と薬、それに腕が投げられた。
「その薬をかけておけば多少の傷はふさがる。腕にもかけて、包帯で固定しておけ。さすれば、すぐに治るだろう。そうだな、3日といったところか」
「……いいもん持ってるな」
「これでも、この島で最強だからな」
なんと。
つまり、こいつと互角に戦い、一応勝利を納めた今(フィレスかシャールを起こせば勝てるだろうから勝利だ)この島で恐れるものは無いということだ。
「そう簡単にはいかんぞ。お主らは三人編成だ。つまり、三人までなら向こうもーーー拙者からするとこちら側だがーーー手を組んでくる可能性があるということだ。あるいは金で雇えばもっとだな。用心しておくことだ」
「なら」
ならば、人を増やせばいい。
「なら、うちに入らないか?男一人で肩身の狭い思いをしていたんだ」
「……生憎だが、やめておく。こんな子どもに負けたのだ。修行だな」
「そうか……残念だ」
「それに、フィレス殿といったか。彼女と恋仲になったのだろう?他の男を近づけてもいいのか?」
「寝取ったら殺すよ」
「恐ろしい話だな……。お主があらゆるものを捨てて戦えば、さぞかし強いのだろうな」
「どういうことだ?」
「分からぬのか?お主は今回、常に眠っている女性陣との間に入って戦っていた。それに、拙者を殺さないようにしていた。……お主、何を狙っておるのだ?拙者を殺すならば、もっと早く殺せたはずだろう。ーーーさては、まだ人を殺したことが無かったり……」
「殺したよ」
純然たる初体験の記憶。
人の命を刈り取る、嫌な感触。
「殺した。ミールって悪徳貴族を」
「さっきも言っていたな……。ミール?誰だその男は?」
「ロードで幅を効かせていたやつだよ」
「む、お主らロードから来たのか。今まで知らなかったのも頷けるな」
納得したようにカインが腕を組む。そんなところが気になっていたのか。
「それと、もう一つの質問にも。俺たちが狙っているのは、このリンダ。リンダを征服するのさ」
「な……!それはまだ誰もやったことのない偉業だぞ!」
「知ってるよ。だからやる」
そう言うと、カインは諦めたようにため息をつき、首を振った。
「ならば言うことは無い。ーーーああ、そうだ。教えておいてやろう。最近、妙な奴が出たらしい。なんでも、見たこともない魔法を使うとか……。まあ、直に見たわけではないのだがな」
「そうか……。わかった。気を付けるよ」
「うむ。ではな。拙者はそこの山で修行することにする。困ったことがあれば、そこへ行ってくれ。拠点は頂上だ」
「……まあ、頂上に行くほどの用事なんか無いと思うがな」
「そういうな。何かあるかも知れんだろう」
そう言って、カインは笑う。そういえば、彼が笑ったのは初めてかもそれない。
「では、達者で」
「ああ。じゃあな。薬、ありがとう」
「礼には及ばんよ」
ぼふん。
煙玉だ。煙幕をつくって帰っていった。
「……おお、すごい。肩の傷がもう塞がってる。腕も軽くは繋がってるな……」
俺は、彼の薬の効果を実感するのであった。




