憎しみの形
シャールことシャーロットのパーティ加入が決まったことで、俺としては戦力増強万々歳で終わりたかったのだが、しかしそうはいかない。俺たちはシャールにどうしても聞かなければならないことがあった。
「なあ、シャール。お前、なんであんな所に居たんだ?」
今でこそこうやって元気だが、さっきまで彼女は衰弱して餓死寸前だった。理由が無いなんてことはまず無いだろう。というか、フィレスが「あ、それボクも気になるー」とのたまっているが、この質問がある種地雷だということが分かっているのだろうか。
質問を受けて、シャールはしばらく俯いていたが、やがて諦めたように話し始めた。
「……私は、昔捨てられたの」
俺としてはまあ予想通りな答えだったが、それでも本人の口から聞くと少し重みが違った。全くシリアスな展開だと思っていなかったのであろうアホ、フィレスは見るからに驚いている。いつ「びっくらこいた」と言うのか心配だ。
「びっくらこいた」
代わりに言ってみた。
「びっく……?ま、まあいいの」
ツッコミが来なくてむなしい。
「私が捨てられたのは、一年くらい前になるの……。あ、言ってなかったけど、私は13歳なの」
「13?もっと幼く見えるが」
「いわゆる欠食児童なの。大量にあった本を食べて生活してきたの」
「あの空本棚はそれでできたものだったんだね」
フィレスが頷く。……まあ、有機物だし、食えないこともないのか?
「だから、本の知識が大量に入ってるの。でも、使えたのは召喚魔法だけだったの」
「ああ、アレか……」
「勘違いしないでほしいの。魔力が無いからあんなのしか出せなかっただけなの。本当はもっと強いの出せるの」
「わかってるよ……」
聞き流しながら、しかし少し考えていることがある。
「なあ、フィレス。もしかして、この船さ……」
「うん……。多分シャールの両親のだよね……」
地図にあった印。やはりあれはシャールの事だったのだろう。おそらく、彼女の親はミールに襲われたのだ。
「なんつーか、マジ極悪だな、ミール……」
「誰なの?」
「知らんなら知らん方がいいような奴だな」
さて、どうしたものか。シャールに、親の事を伝えるか、伝えないか。
少し考えて、決めた。
「シャール。そりゃ確かに許せんな。俺も復讐に協力しよう」
「ヒカル!?」
「本当なの!?」
隣からシャールが非難がましい視線を送ってくる。どうやら理解していないみたいだから解説してやる。
「フィレス、シャールの目を見てみろ」
「うん……?……うん、暗い、悲しい目だね」
フィレスの答えに少し驚く。俺は目から相手の感情や心の動き、ひいては次の動きを読み取る術を持っているが、フィレスと分かるとは思っていなかった。
それならば話が早い。
「今、あいつの自我は復讐心だけで持ってる。ここは待った方がいい。ここで復讐の相手が死んでることが分かると、あいつの自我は……崩壊する」
俺は、何人も見てきた。
産まれたときから剣に全ての時間をかけてきたのに、俺に打ち砕かれる奴を。
砕くのが俺の仕事だった。何の罪もない奴の心を、砕くのが。
プライドを砕かれ、そんな俺に復讐もできない法治国家で。
「……ヒカル?」
フィレスの声で、昔を思い出していた俺は顔を上げる。危ない。こんな楽しい世界に来たんだ。昔の事なんて忘れてしまえ。
「……ともかく、復讐よりも大事なことができるまで伏せておくべきだ。あいつのためにも」
俺たちのためにも。
嫌われたくないので、最後は言わない。正直、ここでシャールに逃げられたくはない。そんな打算も込めて。
「あんまり二人で話してるのは好きじゃないの」
気づくと、シャールはむくれていた。まずいまずい。この話は、シャールの話だ。
「すまん。まあ、ともかくだ。俺たちのパーティに入るんだろう?歓迎するよ。よろしく、シャール」
「よろしくなの!お互いの目的のため、頑張るの!……そういえば、聞いてなかったの。ヒカルとフィレスの目的は何なの?」
「ボクの目的は特に……ヒカルに着いていくことかな?そういえば聞いてなかったけど、ヒカル」
「ん?ああ、言ってなかったか?俺の目標はーーー」
ーーーリンダの統一だ。
俺は、自分でも分かるほど不敵な顔で言った。




