異世界でマッチ売りの少女
※注意点:
「なろう」のテンプレ展開多数です。お嫌いな方には合わない可能性がありますのでご注意下さい。
▼第1章 ~ある寒い冬の日、マッチが売れずに凍死した少女を哀れに思った天使が彼女にチート能力を与えて異世界に送り出しました。そんなプロローグ~▼
少女が目を覚ますと、そこは何もない真っ白い場所でした。
「こ、ここは?」
真っ白い大地と真っ白い空が延々と続いているような、そんな場所、よく見ると本来あるはずの自分の影すらも見えません。
少女は一瞬、雪かと考えましたがどうやら違うようです。その証拠に全然寒くなく、むしろポカポカと春の陽気のように暖かかったのです。
「お目覚めのようですね」
「え? て、天使様、ですか!?」
突然声をかけられて、振り向いた少女は相手の姿にビックリしてしまいました。真っ白い衣を身に着けた、背中に翼の生えた人が居たのです。綺麗な金髪に理知的な眼鏡をかけたその天界の住人っぽい存在は、優しく笑いかけると少女に説明を始めます。
「少女よ、少女よ。これから私が語ることをよく聞きなさい」
「は、はい!」
「まず結論から言いますと、あなたの命はマッチと共に燃え尽きてしまいました。寒さの厳しい、雪の降り積もる夜に……」
「あ……」
少女は思い出しました。マッチを売らないと家に帰ることができず、それでもこの年末の忙しい時期にわざわざ足を止めてマッチを買ってくれる人も居るはずも無く、そんな中で少しでも寒さを凌ごうとマッチに火を灯し、そして……
「ですが、あなたはまだ若く、そして天界でもあのような理不尽な状況で命を散らせたあなたを哀れに思う声が強かったので、少し事態に介入することにしました」
「は、はあ……」
「あなたが望むのでしたら、これまでの不幸に応じた特典付きで別の世界に送り出し、第二の人生を歩むこともできます。望まないのでしたら……あなたの悪事ポイントは規定値を大幅に下回ってますのでこのまま天の御国に入って貰う事もできますが、正直なところ若い人には退屈だと思いますよ」
「そ、そうなんですか?」
余談ですが、ほんの僅かに積み重なった悪事ポイントの正体は業務上横領、つまりは売り物のマッチに勝手に火をつけてダメにしちゃった件のことです。
「食べ物は毎日マナばかり。事件もイベントも起こらず、縁側で茶飲み話するしか娯楽の無い所です。若い人でしたら平均1週間で飽きて次の転生を願うようです」
「特典付きの方でお願いします!」
少女は即答しました。自分の思ってた天国と違……わないっぽいですがリアルに考えると結構退屈な所のようです。それなら特殊能力を貰って異世界で無双する方が良いと思いました。
「承りました。それでは……」
天使さんが少女の肩を抱くと、そこから何やら心地よい熱さが少女の身体を駆け巡ります。それと共に、少女の意識も遠くなって行き……
「今度こそ、幸せにおなりなさい。私だけでなく天界の皆があなたの行く末を気にかけています」
「……え?」
薄れゆく意識の中、少女が聞き返そうとしたその時、眩しい光が包み込み、遂には何も見えなくなりました。
▼第2章 ~新天地で新たな人生を始めるマッチ売りの少女は何を想い何を為すのか~▼
気が付くと、少女は見覚えの無い草原に立っていました。
「こ、ここは?」
草の絨毯の上にところどころ黄色い花の咲いた、のどかな風景です。青い空には白い雲が気持ち良さそうに漂い、鳥の声や水のせせらぎの音が耳をくすぐります。
少し離れた場所には丸太小屋のような家が集まった、村のような集落のようなものも見えます。
きっとここが、天使さんの言っていた別の世界なのでしょう。
きっとここで、少女は新たな人生を送ることになるのでしょう。
「ん? 誰だおめえ? この辺じゃ見ない顔だな」
あれこれ考えていると、大柄なおじさんがこちらへと駆け寄って尋ねてきました。背中には銃を持っていますのできっと不審に思った猟師さんが見回りに来たとかなのでしょう。
「あ、あの、あたし、気が付いたらここに居て……あ、そうだ、マッチ! マッチは要りませんか?」
敵意が無い事をアピールしつつ、少女は営業スマイルで手に提げたカゴを掲げました。酷寒の夜に使い切ったはずのマッチですが、天使さんが気を利かせてか補充してくれたようです。
「う~ん、マッチは今のところ在庫あるから、無くなったら頼むよ。ところでそのマッチ、ちゃんと火は着くのか? 最近のマッチはロクに火が着かないわすぐ消えるわって質の悪いものが多いからよ」
「お任せ下さい。このマッチは着火しやすく暖かく明るく長持ちと三拍子揃っております」
この世界のマッチは質が悪いと見た少女は営業トークに打って出て畳み掛けます。ですがそれ、三拍子じゃなくて四拍子ですよね。
「一つ実演してみますので、良かったらご覧になって下さい」
足元からざらざらした石を選んで拾い上げ、マッチを勢い良く擦りました。すると。
きゅぼっ、と、予想以上に大きい音を立てて、目も眩むような光が辺りを覆います。まるで真夏の太陽のように明るい火花がマッチの先に灯ったのでした。
「ひゃあっ!」
驚いた少女は思わずそのマッチを遠くに放り投げてしまいました。
どっかーーん! マッチが地面に落ちた場所で、火山が噴火したような火柱が立ちました。半径3フィート、高さにして15フィート以上を包むような紅蓮の炎です。下級モンスターのゴブリンやスケルトン程度なら、一撃で消し炭でしょう。
それを見た猟師さん、どうやら腰を抜かしてしまったようです。
「な、な、何者だおめえ! ちょっとステータス見せてみろ!」
「す、すてーたす? って?」
「ステータス知らないのか? 手を目の前にかざして『ステータスオープン』って言ってみるんだ」
「は、はあ。す、すてーたす、おーぷん」
半信半疑で少女がその魔法の呪文を唱えると、手の先から半透明の板のような物が現れてにょきっと広がりました。そこにはまるで本のように、文字が整然と並んでいます。
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ニックネーム : マッチ売りの少女
ねんれい : 13さい
せいべつ : 女の子
せのたかさ : 4フィートと6インチ
おしごと : マッチ製造および販売業
ちから : E(もっとがんばろう)
はやさ : D(ちょっとにがて)
きよう : B(わりととくい)
おつむ : C(まあふつう)
まほう : A(ちょうすごい)
からだげんき : 20/20
こころげんき : 47/50
一般スキル:
≪家事とかお料理とか≫LV3
≪炎の魔法≫LV1
≪マッチ作り≫LV2
特別スキル:
≪天使の加護:聖魔煉獄炎≫
このスキルの所有者が<炎>属性の攻撃を行う時、効果範囲と持続時間と与ダメージをそれぞれ10倍する。
また、その時のダメージはヒドラやトロウル等が持つ自己再生能力で回復できない。
訓練次第で倍率を伸ばしたり、また逆に自分の意志で威力を抑えたりすることが可能。
※本名、体重、スリーサイズ等プライバシーに関わる項目を非表示にしております。全て表示する場合は【こちら】をタップして下さい。
【とじる】
「こ、これだ! 天使の加護! まさか加護持ちがこんな辺鄙な村にやって来るとは!」
「え? ええ!? これがあの時天使様が仰ってた特典ですか!?」
「なあ、おめえ、行く所が無いんだろ? じゃあ俺達の居る村で暮らしなよ! 加護持ちが居れば天使様の祝福を受けて村も更なる発展を……ぐへへ」
「は、はい。是非宜しくお願いしますっ!」
こうして、少女はこの村でマッチ売りをして生活することになったのです。
▼第3章 ~マッチから始まる異世界無双物語~▼
大鍋に煮詰めたエーテルに砕いた硝石とリンとファイヤーフラワーの花粉を入れ、よくかき混ぜます。
全体に均等に行き渡ったら、次は寒天を溶かしてとろみを加えます。
それから冷やしてエーテルが薬泥状に固まってきたら、マッチの軸木になる細い棒の先を浸して、着火部分を構成させます。
あとはよく乾燥させて、マッチの完成です。
「これでよし、と」
作ったばかりのマッチをゴザの上に綺麗に並べて窓際で部屋干しして、代わりに既に乾燥しきった分を100本ずつの束に纏めてカゴに入れました。
そうして、少女は今日も営業へと出かけて行きます。
「マッチは要りませんかー。着火しやすく暖かく明るく長持ち、しかも『聖火』属性つきですので死霊系や悪魔系に1.5倍のダメージ補正もある高品質マッチですよー」
「ああ。そろそろ無くなりかけてたところだったんだ。1束貰おうかね」
「はい! 毎度ありがとうございます!」
早速一つ売れました。ですが、マッチは生活必需品とはいえ一家で使う分には1束あれば1ヶ月から2ヶ月は保ちますので、小さい村の中で飛ぶように売れるという訳ではありません。
とはいえ、彼女の作るマッチの品質の高さは近隣でも有名で、たまに行商人さんが纏めて仕入れに来たり旅の冒険者さんや勇者さんがモンスター退治用に買いに来たりするのです。
また、村の近隣にモンスターや害獣が現れた時なんかは、得意の火炎魔法を活用して猟師さんと一緒に退治しに行ったりもします。そんな日は兎や猪の丸焼きをお腹一杯食べられるんです。
そういう時の臨時収入も含めますと、贅沢はできないまでも3食ちゃんと食べられて特別な日にはお洒落も楽しめるので、少女にとっては充分恵まれた暮らしなのです。
こんな風に、素朴で平和な生活が続いていたある日のこと、村に豪華な馬車がやってきました。
馬車から降りてきたのは、立派なお髭をたくわえたお役人様で、彼は村人全員を中央の広場に集めるとこう言いました。
「諸君! 私は国王陛下の命を受け、天使の加護を持つ人材を探す鑑定官である! 先日、宮廷占い師がこのように予言された! この国のどこかに『ムスペルヘイムの魔女』なる者が居て、彼女を宮廷魔導師に招聘すればこの先どんな戦争にも決して負けることがないと!」
それで、行く先々の村や町で住民を≪鑑定≫して修得スキルを調べてるのだそうです。
ああ、なんということでしょう。天使の加護にムスペルヘイムという二つのキーワード、きっと彼が探している人材とはマッチ売りの少女のことに違いありません。
「ここのような辺鄙な村に天使の加護を持つ者が居るとは非常に考えづらい! だが王命であるからには手を抜かず実直にやり遂げるしかない! しかし今日は長旅で疲れた! 一晩の宿を取ってまた明日に本気を出すものとする!」
そこまで言うと鑑定官さんはさっさと宿の方へと馬車を向けました。少し太り気味の方でしたので運動不足がたたって疲れやすいのでしょう。
「良かったな、大出世じゃないか!」
猟師さんは少女の肩をばしばしと叩きましたが、少女の表情はどんどん曇っていきます。
「良くないです。あたし、戦争なんか行きたくないです。この村も離れたくないです」
これまで真剣に考えたことはありませんでしたが、少女の持つ天使の加護はあまりに強力すぎます。
今の少女が特別スキルの≪天使の加護:聖魔煉獄炎≫を全開にしてマッチを擦って投げたら、着弾点から半径50フィートの範囲を焼き尽くし、期待値で350点ものダメージを叩き出せます。
たとえ地上最強と名高いドラゴンが立ちふさがったとしても、炎に弱いアイスドラゴン相手ならマッチ3本でやっつけるほどの威力なんです。
その力が戦争の目的で振るわれたなら、いったいどうなるでしょうか。
地獄のような炎は兵士さん達を薙ぎ払い、町や村を焼き尽くし、強固な城壁すらも吹き飛ばし、そして世界中に親を亡くした子供たちが溢れることでしょう。
少女はかつての自分を思い出しました。両親を亡くし、優しかったお婆ちゃんにも先立たれ、親戚の養父に引き取られ、マッチ売りの代金は全て養父の酒代へと消えた、寒くてひもじくて辛い日々でした。
そんな思いをする子供たちは、もう出てきて欲しくありません。
「あたしは、どうすれば良いのですか? 天使様……」
気が付けば、少女の頬を涙が伝っていました。
▼最終章 ~チート持ちが平穏な暮らしを求めるのは間違ってるでしょうか~▼
その日の夜、少女は眠れませんでした。
明日の朝になると、鑑定官の人が≪鑑定≫で少女の能力を暴いてしまいます。
≪鑑定≫を無効化する≪隠匿≫のスキルは残念ながら少女は覚えていません。仮に覚えていたとしても相手は王宮付きの鑑定官、彼を欺くのに必要な≪隠匿≫のスキルレベルは如何程のものなのでしょう。
「天使様……」
気が付くと少女は、庭に出ていました。寝間着の上からガウンを引っ掛けて、夜空を見上げます。
漆黒のビロードに満天の星達が銀貨のようにキラキラと輝く、とても美しい空でした。
「天使様。あたし、考えました」
決意を込めた表情で、少女は夜空に向かって語りかけます。
「最初は、凄い力があれば今度こそ幸せになれる、そう思ってました。実際に、こっちの世界に来てからは信じられないぐらい毎日が楽しいです」
少女はいつものマッチを1本取り出し、それに火を着けました。
「ですが、あたし、今まで気がつきませんでした。大きな力は悪用するととんでもない大災害になると。もしこの力が戦争の為に使われることになったら、あたし……」
マッチの火は炎の渦となり、太陽のフレアのように次第に明るさを増していきます。
その光はコロナのように優しく激しく辺りを包み込み、その炎はプロミネンスのように少女の周囲をぐるぐると巡ります。
「天使様が、あたしの幸せを望んでこの力を授けて下さったことは解ってますし感謝もしています」
光が収まった時、少女の手の先には炎の鳥が1羽、まるで臣下の礼のように頭を下にして佇んでいました。
≪炎の魔法≫スキルレベル7以上で扱うことのできる大魔法『サモン・フェニックス』です。
聖なる火を触媒にして炎に包まれた霊鳥を呼び出し、何か一つお使いを頼むことが出来ます。しかし手紙みたいな可燃物を運ばせることはできないので微妙に役に立たないことで有名です。
「ですが、あたしにはこの力は大きすぎてこれからも上手く使えるかどうか自信ありません……なので、この力は天使様にお返しします」
少女はフェニックスに、特別スキルの≪天使の加護:聖魔煉獄炎≫を託して頭を一撫でしました。
フェニックスは「本当に良いの?」と言いたげに頭を少女の頬に摺り寄せてきましたが、少女は迷いの無い笑顔で頷きます。
やがて、少女の決心の固さを知ったフェニックスは、「ぴゅい」と鳴くと夜空へと飛び立って行きました。
美しく輝く真っ赤な鳥が夜の空を昇っていく様子を偶然見ていた人は皆、あの鳥は天使様の使いで無事役目を果たして天へと帰っていったのだと噂したそうです。
そして翌日。
「なんと!? ≪炎の魔法≫レベル8とは! ふむ、娘が望むなら王都の魔法学院に通ってゆくゆくは宮廷魔導師として働くよう取り計らうこともできるのだが!」
「ありがとうございます。ですが、学校とトーナメントには行くなというのがお婆ちゃんの遺言なのです。それに、あたしはこの村での生活が好きですので……」
「なんと、欲の無いことよのう! だがそれも一理ある! なまじ才能のある平民が名門の魔法学院へと入るなら貴族家のご子息から様々な試練を賜ると言う! 波乱万丈の人生を望むのでなければ無理強いするものではないな!」
「はい。あたしは平穏な暮らしが良いです」
こうして、少女は無事に鑑定官さんの調査をやりすごす事ができました。
一つ心残りがあるとすれば、折角貰った特別スキルを突き返して、天使様は怒っていないでしょうか? それだけが少女は気がかりでしたが……
「大丈夫。天使様はそんな心が狭くないって。きっと分かって下さるさ」
村の人たちは皆、笑顔でそう言ってくれたので、それを聞いて少女も心が軽くなっていきました。
もう迷いません。後悔もしません。特別スキルは天使さんに返してしまいましたが、少女にとってはこの村で送る平和な生活が何よりの宝物です。
そしてそんな少女もまた、村にとっては確かに宝物です。
だからきっと、少女はこれからずっと、この村で平和に穏やかに健やかに暮らしていくことでしょう。
~異世界でマッチ売りの少女・Fin~
▼蛇足の章 ~Side:天使たち~▼
特別スキルの≪天使の加護:聖魔煉獄炎≫を託され、空へと羽ばたいていく1羽のフェニックスを見て、一人の天使さんが怒りに燃えた声を出しました。
「どうして!? 何で折角の特別スキルを手放すのよ!? あの子何考えてるワケ!?」
真っ白い空間の中に大きなテーブルが無数に並び、それぞれのテーブルを数人ずつの天使さん達が飲み食いしている、いわゆる忘年会の席の話です。
頭上に大きく映し出された特殊な魔法による映像から、これまでの少女の人生やフェニックスの様子を見ていたところでした。
そして、忘年会の司会を務める、綺麗な金髪に理知的な眼鏡の天使さんが声を上げました。
「はい。ではここで勝者決定ですね。少女の未来を最も正確に予想したのは332番で『チート能力を忘れてまったり平凡に生きる』でしたー!」
「いよっしゃあ!」
先程怒声を発した亜麻色ツインテールの天使さんの隣の席に居た、銀色のロングヘアをした天使さんがガッツポーズと共に立ち上がります。そんな彼女の元に白い鳩が賞品のプ●ステ4を運んできて、番号札と交換しました。会場に大きな拍手が鳴り響きます。
「くそー。普通に考えてチートを捨てるなんてありえないわよ。頭のネジがカッ飛んでるんじゃないの? あの子もそれを予測したあんたも」
亜麻色ツインテール天使さんが半睨みの目でジョッキに注がれた神酒を一気飲みしました。
「あら。価値観の違いを認めないのは独善で天使失格、堕天使化の第一歩よ?」
対する銀髪の天使さんは賞品を大事そうに抱えて余裕の表情です。
「惜しくも次点になりました『平凡な暮らしを望んだけど戦火に巻き込まれたのでしょうがなく無双して周囲の国々を併呑し初代統一帝になる』と予想の685番には、残念賞の翼お手入れセットが送られますー!」
再び鳩が飛んできて、亜麻色ツインテール天使さんが渋い顔でそれを受け取りました。
それを見て、同じテーブルで飲んでいた黒髪に黒ドレスの堕天使さんが一言。
「そのお手入れセットも良いメーカーのブランド品だから充分な値打ち物なんだけどなー。ボクなんか掠りもしなかったんだよ?」
堕天使さんが取り出した紙に書かれていたのは『540番 地下迷宮の奥底に放置されて闇の力に目覚め、養父に復讐する』というなんともじわじわくる文章でした。
あ、ちなみに天使さんは普段が凄い激務なので、年に一度の忘年会ぐらいは多少ギャンブルに興じたり堕天使さんが混ざったりしてもお目こぼしされるのです。
それに、やってること自体は、不幸な境遇の子に少しの加護を与えてその後を見守るだけですので、社会正義に反することにはならないのです。
「さて。では来年の成り上がり少女はこの子になります!」
頃合を見て、司会の人が再び注目を集めました。同時に頭上の映像装置が、可愛らしい人魚の女の子を映し出します。
「片思いの王子様をポッと出の要領の良い女の子に寝取られて失意のままに海の泡と消えた哀れな人魚の少女。次の人生ではどんな未来を予想するか、皆さんお好きに書き殴って下さいー!」
誰が書いたか判るよう識別機能を備えた特殊な羽ペンを手に取り、天使さん達が真剣な顔つきで手元の札へと向き合います。
「くそー。来年こそは特賞をゲットしてやるんだから」
亜麻色ツインテールの天使さんは手堅く『悪役転生で逆ハー築くも前世のトラウマから恋愛に踏み出せずにじれったい学園生活を送る』と書きました。
「やっぱり、こういう展開の方が面白くなるわよ」
銀髪の天使さんは一発勝負に出て『男性不信になって冒険者の道を歩み、ドラゴンとか狩って百合ハーレム』と書きました。
「ボクとしては、ダンジョンは外せないポイントだね」
黒髪の堕天使さんは自分の感性に正直に『海底にダンジョンを構築して世界一深い場所に位置する深淵ダンジョンマスターとして君臨』と書きました。
「はい。では書き終わりましたら回収させて頂きます。結果発表はまた1年後のこの場所でー!」