14 春過ぎて夏が来て秋のある日、不意に出会ったのは
どんどんどん、と三回扉が音を立てた。僕ははっとしてノート代わりのスケッチブックから目を離した。
「おーい、ちょっと開けてくれよ」
僕は2Bの鉛筆ごとスケッチブックを床にぱん、と置いた。
「ケンショー? 何だよあんた、鍵持ってないの?」
「いやそういう訳じゃないけど」
何だろな、と思いながら、僕は鍵を開けて、扉を開けた。
確かに両手がふさがっていた。僕はその光景に一瞬呆れた。
「…何それ」
「何って、お前、誕生日とか何とか言わなかったっけ」
「言ったっけ?」
そう言えば、去年、そんなことを言ったような気がする。ああそうだ、去年は、誕生日が過ぎてから、それを言ったんだ。
そういう奴の右手には、ケーキ屋の四角い、やわな箱。そして左手には…花束。
これじゃあ確かに、扉を開けられない。
「ってことは、これ、僕に?」
「他に誰が居るっていうんだ?」
そりゃあまあ、確かにそうだけど。この男は、こんな、露骨に、…恥ずかしくないんだろうか。
いや、きっと恥ずかしくないんだろう。それはずっと一緒に居れば、判ることだ。僕が持つためらいがこの男にはさっぱり無い。
「ありがと、でも、女の子じゃないんだし、僕が花、好きでも何でもなかったらどうするつもりだった訳? 高かっただろうに」
「好きじゃねえ?」
「や、好きだけど…」
「綺麗なものは好きだろ、お前」
僕は花束を両手で抱え込む。奴は空いた片手で扉を閉め、カギをかけた。
「だったら、花は嫌いじゃないだろ」
「単純」
「でも間違ってないだろ?」
間違ってはいない。女の子みたいな趣味と言われようが、こんな、かすみ草いっぱいの中に、赤やピンクのばらやら黄色いぽんぽんした花、青い小さな花が散りばめられている花束は、綺麗だと思う。
そして綺麗なものは、僕は好きだ。…何で、判ってしまうんだろう。僕はぎゅっ、と花束を抱え込む。
「おい、そんなぎゅっと抱きしめたらつぶれるぞ。何処か水…おいめぐみ、お前、泣いてるの?」
「え?」
僕は右手で頬に触れる。外した指が、濡れていた。
「あれ?」
「あれ、じゃないだろ」
あれ、だよ。何で僕は泣いてるんだろう。泣きたくないのに、何か、目が熱い。喉が詰まる。思わず、花の中に顔を伏せる。
「おいばらがあるんだから、花に埋もれるのはよせってば」
ケンショーはそう言って、ケーキの箱をテーブルに置くと、僕の顔を少し強引に上げさせた。ああくちゃくちゃ、と言いながら奴は花粉まみれの僕の顔を指でぬぐう。乾いた、暖かい感触。
「何で泣いてるのかよく判らんけど… せっかく買ってきたんだし、開けようぜ?」
僕は花束を流しへと持って行き、ついでにそこにあったタオルで顔をふいた。本当に、どうして僕は泣いてしまったんだろう?
ついでに、と皿とフォークを取り出して、僕はテーブルに置いた。
「僕こっち用意したから、あんたはお茶沸かしてよ」
「俺かい」
「いいじゃない。僕の誕生日なんだろ?」
仕方ないですねえ、と言いながら、それでも奴は嫌がらずに一度降ろした腰を上げた。100円ショップでその時々に適当に好みを買ってるから、この部屋の食器は一つとして同じものがない。
ふたを開けると、そこには15センチホールの、果物がどっさりと乗ったケーキが現れた。わあ、と僕は声を立てる。そうそうお目にかかれるものではない。
「ケンショー、あんた甘党だっけ? 自分で選んだの?」
「いんや。美咲の見立て。あいつはさすがに詳しいよ」
だろうね、と僕はうなづいた。ケンショーが自分でこれが美味そうだ、と選んで来る図は想像ができない。ちゃんとケーキ、であるだけでも上等だし、そうゆうのに詳しい美咲さんを使うあたり、周到だ。
「…あ、おいし」
「だろ? あまり甘すぎると食えないんだけどさ、俺でもいけるわ」
うんうん、とうなづきながら、僕は南国の果物の香りと、生クリームのとろける感触と、カスタードクリームのとろりとした懐かしい甘さを同時に味わう。
「そう言えば、こないだ、のよりさんに会ったよ」
「のよりに? お前知ってたっけ」
「あんたが最初に言ったじゃない」
何気なく、僕はできるだけ何気なく言おうとしていた。すると奴は言った。
「言ったかなあ」
「言ったよ。前のヴォーカルが、逃げた、って」
「そう言われれば、言ったような気もするなあ。そうか…元気だったか?」
「元気だったよ。何か結婚式のしたく、忙しいらしくって、そんなに時間長く取れなかったんだけど」
「元気なら、いいんだ」
「元気だったよ」
僕は繰り返す。あまりにもあっさりした奴の反応に、少しだけ気が抜ける。
「だけど、昔はつきあってたんでしょ?」
「ああ。でも今はお前が居るし」
僕はフォークを動かす手を止めた。
「そういうもの?」
「俺は、そういうものだと思うけど」
迷いの無い、言葉。きっとそれは、嘘ではない。
「…あ、ちょっとそこの、口の端にクリームがついてる」
「あ? どこだ?」
ぺろ、と僕は身体を動かし、そこに舌を這わせた。
「…ちょっとヒゲが伸びてる」
うるさいよ、と奴は言って、僕のおでこを軽くはじいた。
*
春が過ぎて、夏が通り抜けて行った。
実家には相変わらず戻らず、ただ毎日を、バイトとバンドで過ごしていた。
バイト先の厨房では、フロアに出たらどうだ、というマネージャーの勧めをいつも丁重に断っている。時給が100円上がると言われても、それはできない。
変わってるね、と彼は言った。
だけど厨房での就業態度は良かったし、休暇を取るにしても、ちゃんとあらかじめ日にちを指定して、急に休むということは滅多にないから、僕は結構重宝がられていた。
僕自身としても、白いお仕着せのばりっとした調理服を着て、教えられた手順を、きちんきちんとこなしていく「仕事」は結構気楽で、気に入っていた。
マニュアルには理屈もついてくる。そういうのをきちんと説明できるのが、マネージャーらしい。
まあ正直言って、普段のバンド活動の反動もあった。今でこそ、ステージであんなこともこんなこともやっても平気になっているし、メイクするのは当然だし、まず普通の昼ひなたには恥ずかしくて絶対着られないだろう衣装を身につけて大声張り上げてるんだから。
昼ひなたの「仕事」の時には、できるだけ地味に、じっとしていたい、という気持ちが沸いてくる。埋もれていたい。
だけど何故そんなことを思ってしまうのかは、僕にも判らなかった。
ただ、バンドに一生懸命になればなるほど、こういう「仕事」の時間をどうしてもとっておきたい自分が居るのに気付いたのも確かだ。
ケンショーに聞いても、何でそんなこと考える訳? と一蹴されそうで、言えない。
奴だったら、「そんな仕事」など綺麗さっぱり辞めてしまって、音楽一筋で食えたらそれが一番で、万々歳なのだ。
だけど僕は、それでいいんだろうか、という気持ちがいつも心の底にあった。バンドは大切だ。確かにメジャーデビウできる程の、そんな人気も実力も欲しい、とは思う。
だけどその一方で、それでいいのんだろうか、と思う自分が…時間を追うごとに大きくなって来るのも確かなのだ。
夏が終わるのが、僕は怖かった。暑い夏のうちは、そんなことを考えていても、部屋の中がうだる程に暑いから、それだけで僕は大丈夫だった。人に構われるのもうざったく感じる程、この夏は暑かった。
だけど、夏が終わる。
*
あれ?
ぽろん、とピアノの音がしたので、僕は引き寄せられるように、店の中に入っていった。
小雨の降る九月のある日、僕はケンショーと、ASID-JAMに来ていた。ここのところ、夏の他の行きつけのライヴハウスのイベントの出演とかでご無沙汰していたから、秋からのスケジュールを組む関係だった。
やることは色々あった。単純に練習もあったし、曲出しもあった。僕は、と言えば、ケンショーが部屋の中でぽろぽろと作る曲に、ふらふらと歌詞をつけることが多くなった。
言葉をつけていくという作業は、僕にとっては決して簡単なものじゃなかったけれど、何となく、パズルみたいな感覚もあって、面白い。今までやったことの無い作業だっただけに、面白さを見つけてしまうと、ついはまりこんでしまう。
そしてそのはめ込んだ言葉を、奴がぽろぽろと弾くギターに合わせて、メロディらしくしていく。何となく、ああ音楽を作ってるんだなあ、という気にはなる。
「おーいケンショー、ちょっと」
はいよっ、と奴は元気良く答えて、事務所の方へと消えていった。つまりは「面倒くさい事務的なあれこれ」だ。僕はそういうことにはノータッチだった。
じゃあ何で僕がついてきたか、と言えば。
暇だった、ということもある。バイトもバンドの練習も無い日。そんな日に、僕はどうしていいのか判らなくなる。
そうすると、つい奴が行こうというところにはふらふらとついてきてしまう。それでどうするということではない。だけどそれで一人で部屋の中にいるというのは、それも嫌だった。
僕は何かをしたがっている。だけど、それが何であるのか、よく判らない。
ピアノの音に誘われるようにして、僕は奥へと入っていった。ステージの方。近づいていくうちに、本物のピアノの音ではないことに気付く。キーボードの音を、ピアノの様にしている。
だけどそれを弾く誰かの腕は、ピアノをみっちりとやった様な。よくその辺りで見る、基礎も何もせずに、自己流で覚えてキーボーディストのそれではなかった。
何だったろう、と僕は思う。何処かで聞いたことのあるような曲だった。クラシックの、僕が聞き覚えのあるくらいだから、ひどくポピュラーな曲なのだろう。
ただその曲を、ひどくゆっくりめに弾いている。そんなことができるのかあ。
…ふと、その音が止まった。
「誰?」
ピアニストが問いかけてきた。
姿を現そうと、一歩、ステージの方へと足を踏み出した時。
背後から、ぐっ、と誰かの手が、僕を引き寄せた。そしてもう片方の手が、口を塞いだ。
何いったい。
僕は思わずもがいた。だがびくともしない。僕より大きい、男だった。
そしてその男が、ややかすれた声で囁く。
「黙っててくれ」
何のことやらさっぱり判らない。僕はむーむー、と塞がれた口から声にならない声を上げながら、もがく。
「頼むから、今日だけは、奴に思う存分、ここでピアノを弾かせてやってくれよ」
え、と僕は動きを止めた。
判った? とその声がつぶやく。もがくのを止めたのに気付いたのか、背後の男は、ゆっくりと手を離した。
ずいぶん大きい、と思っていたが、そうでもない。僕よりは大きいけれど、ケンショーよりは小さい。それに、ずいぶん若い。薄暗い、こんな場所でもそれは判る。
「…ピアノ」
「うん、ピアノじゃなくてキーボード、だけど、でも、どうしてもここじゃないと駄目なんだ。今日は、命日だから」
「…命日?」
「奴の、大切なひとが、去年の今日、亡くなったんだ。このライヴハウスで、ずっと、演ってた人だから」
それって、もしかして、あのひとだろうか。去年の今頃、ケンショーから聞いた、BELL-FIRSTのベーシスト。
「上手いね」
「そうだね。奴は、ずっとピアノを弾いていたから」
「今は、違うの?」
「今は、ベースだよ。俺達のバンドの、とびきりの」
僕ははっとして、そういう男の方を改めて、見る。まさか、…ね。
「…ここから、どいた方が、いいかな?」
僕はおそるおそる、相手にそう語りかける。この薄暗がりでは、相手の姿がはっきりしない。それが、僕の知っているひとであるかどうかも。
ありがと、と相手は言った。僕は機材の横をすり抜けて、通路の方へと向かった。蛍光灯の明かりが、その時ようやく、相手の姿をはっきりと見ることができた。
確かに若い。僕より、ずっと。高校生?
「あんたも、何かバンドやってるの?」
相手はそう僕に訊ねる。うん、と僕は答える。
「ちょっとね。あんたは、何のパートやってるの?」
「俺? ヴォーカル。楽器できないし」
あははは、と相手は笑う。
「へえ。何ってバンド?」
「SS」
短く、彼は言った。
「え?」
思わず僕は問い返していた。
「SS。でも知らないよねー。まだやっとメンバーそろったばかりだし。でも、やっとそろったんだし、これからは何か、色々動けるから…って俺の話ばかりだな」
ふむ、と彼は頬を人差し指でひっかいた。
「あんたのバンドは? 何やってるの?」
「あー、内緒」
僕ははぐらかした。
「何、教えてくれたっていいじゃないの」
「判る時には判るって」
ふうん、と彼は肩をすくめた。
「まだ高校生?」
「あ、そうやって言うってことは、あんた高校生じゃないの?」
「…ひどいなあ… これでももう二十歳になったんだよ?」
「あ、ごめん。だけど、うーん」
まあいいけど。メイクも何もしない私服の時の僕は、だいたいそう見られるんだ。歳より下。高校生に見られることも時々ある。
そういえば、それを愚痴ったらナナさんあたりは逆にうらやましがってたな。若く見られるなんて、って。そんなものだろうか。
「…あ、でも、今日ピアノ自由に弾いてて、いいの?」
僕は彼に問いかける。
「うん。ナナさん… って知ってる?」
知ってる、と僕はうなづいた。
「彼女が、いいって言ったから」
「顔なじみなんだ?」
「まあね。と言うか、俺よっか、あいつの方が、結構前から知り合いだったから」
間違いないな、とその時僕は確信した。
「…もしかして、亡くなった人って、BELL-FIRSTのベースの人?」
まるでたった今気付いたかの様に、僕は彼に問いかける。
「やっぱり、判っちゃう?」
「うん」
「うん、そうだよねえ。だって去年のあの時は、結構ここでも噂になったし」
「うん、僕もそれは聞いた。その人に? ピアノは」
「去年は、意識して弾いてなかったから、って。だから、今年は、ちゃんと、あのひとの好きな曲を弾いてやりたい、って言ったんだ。…でも、いいことだよな」
「え?」
「そうやってさ、誰かの亡くなったことを、ちゃんと受け止められるようになった、っていうのは」
「…よく言ってる意味が、判らないけど」
「うん、これは俺の独り言。ごめん。ただ、奴もずっと沈んでたようなものだから、友達としてはね」
ふうん、と僕はうなづく。
「あんたは、ベルファは好きだったの?」
「俺?」
彼は自分自身を指さした。僕はうなづいた。
「俺は、奴のように個人的つきあいはなかったし、音的には、ややずれてたから、何だけど」
「じゃあ、何か好きなバンドってある? ここに出てるので」
「あるよ」
「何?」
「RINGER」
心臓が止まるかと、思った。そして気付かれたか、と背中から一気に血が引く感触が。
だがそれは考えすぎのようだった。僕はつとめて平静な声を立てる。
「へえ… でもあそこって、結構よくヴォーカル変わるじゃない。前のヴォーカルの時から?」
「や、俺がライヴハウス通うようになったの、去年からだから… ちょうど、今のヴォーカルが入ったあたりかなあ」
それでいて、僕に気付かないとは。
「何が好き? 曲? 音?」
「うーん」
彼は首をひねる。
「曲… はまあまあ。だけど、音、には、うん、俺すごい、惚れてる」
「音、ねえ」
「何かね、あのバンドは、ギターがすげえ歌ってるんだ」
「ギターが、歌ってる?」
「何かね、確かにヴォーカルも面白い声だなあ、とか思うんだけど、俺には、伝わってこないの」
ぎく。
「何で?」
「何で、って… まあそれは、俺の好み、って言ってしまえばおしまいなんだけど… とにかく、ギターが飛び出してんの。伝わってくるの。何だろ… うーん…」
「強い、力で?」
「そう、強い。…だから何だろ、極端に言っちゃえば、ギターだけでも、何か、その中で、言いたいことは伝わってしまうような… そんな感じなんだけど」
「ギターだけでも?」
「うん」
彼は迷いなく言う。
そう、本当に感じているのだろう。僕は自分達のことを言われている様が気がだんだんしなくなってきた。何か別のバンドの話をされているみたいだった。
「…って言うと、例えば、フュージョンのバンドって、インストだよね? だけど、何かその一番中心にあるメロディを奏でてる楽器って、音だけで『何か』を言ってるみたいじゃない。それに近いのかなあ?」
「うーん、それとはちょっと違う気がする。だって、ケンショーさんのギターは、どっちかというと、そういうものじゃないし」
それは確かにそうだ。
一応「歌もの」なのだ。ウチのバンドは。
ギターは…悪い言い方になるけど、やっぱり「バック」という感じが大きくなる。そりゃあまあ、間奏とかでは、がぜんはりきるんだけど。
「ま、でも好きずきだと思うよ」
「そんなに、そのひとのギターが好きなんだ」
「うん」
あっさりと彼はうなづく。
「何か、最初だったからかもしれないけど。ほら、えーと、鴨のすり込み」
「?」
何のことだか判らない。
「あ、ごめん。生物か何かでさ、卵からかえったばかりの鴨が、初めてみたものを親と思ってとことことついてく、っての。ああいう感じかもしれないってこと。俺、最初にライヴハウス体験した時に、出会ったから」
「いつ?」
「去年の春。だからまだ、本当にメンバーチェンジした頃じゃない?」
「ふうん」
そう確かに、その頃だ。
「で、何度か、俺通ったんだけど。うん、そのヴォーカルさんもだんだん、いい感じになってる、と思ったけど…やっぱり最初に耳に飛び込んできたのが、あのギターだったから、俺はどうしても、あの音を追っかけてしまうんだ」
「…耳に残る」
「うん、そう。耳に残る。だから、俺は、彼と対等に話せるような立場になりたい、って思った」
「対等に?」
「うん。だってさ、ファンの子達って居るだろ?」
確かに居る。だいたいウチのバンドだと、フロントの僕か、ケンショー、で、結構昔っから慣れ親しんでるファンの中には、オズさんとかナカヤマさんに静かに声援を送ってるひともいる。でも大半は、僕かケンショーだ。特に、年下の女の子達に関しては、間違いなく。
「すごいよね、あれって。すごいエネルギー」
「うん。だけど、俺はああいうんじゃ、やなんだ」
「やだ?」
「ああいうのは、所詮、ファンだろ? 俺は、俺の持ってるもので、奴と勝負できるくらいになりたいの」
勝負、って。そんな、スポ根じゃあるまいし。面食らってる僕に、彼は苦笑した。
「あ、ごめん。初めて会った人に、俺、何言ってるんだろ」
「ああ、いいよ、面白いし。うん、…そうだね、何か僕とは違う意味でバンドやってる人って、やっぱり居るんだ」
「ふうん。じゃああんたは、どうしてバンドやってるの?」
どうしてって。
思考が止まる。
それは。
「…あ」
口に手を当てる。忘れていた。僕が始めたのは。




