〈序*1〉
亀な見切り発進。
今回はファンタジーテイストの恋愛ものです。
最後まで頑張ります‼︎
王国歴1001年3月…
〈西の大陸〉の一角を担う《グランディル王国》…。
その王都・ディルキアのほぼ中央に位置する王城にて、春まだ浅いその夜、国王主催の夜会が華やかに催されていた。
* * *
『…ホント、田舎貴族は羞恥心というものがありませんのね?』
『確か未婚であるはずですのに、あのように大きなお腹を堂々と晒して…』
『…しかも、今宵のように一際華やかな席に…』
主催者であるところの国王の臨席までまだ時間がかかるのは、このような夜会ではいつものことで、今宵も主だった招待客はほとんど会場となるホールにその姿を現している。
そんな中、色とりどりに鮮やかに着飾った貴婦人たちの、明らかに悪意を纏った冷やかな視線は、ホールの奥まった壁際にひっそりと佇む一人の年若い女性に集中していた。
女性の名前は、レイリア。王国の東の国境地方を治めるジョゼフ・マッケイン辺境伯を父とし、東に接する隣国・シェルファン公国の公女を母にもつ、身分的には王国内においても申し分なく高位にある貴族の令嬢の一人と言える。
またその容姿も、整った面立ちもさることながら、父譲りであるところの漆黒の艶やかな髪をシンプルな髪飾りのみで背の半ばまで自然に流し、母譲りの深く透明感のある紫の瞳で真っ直ぐ前を見つめる、一般的な女性の身長に比べやや高めながらピンと背筋を伸ばしたその立ち姿は、他の貴婦人たちとはどこか一線を画した凜とした美しさを醸し出していた。
そんな彼女が、何故悪意ある視線に曝されているのか?
確かに、静かに佇む彼女の腹部は膨らみをおびており、明らかに身重であることが窺える。
とはいえ、身重の女性が夜会に出席することが別段禁忌となっている訳ではない。
もしそうであるならば、悪意の視線は女性のみならず男性からも向けられるはずだ。だが実際に、レイリアに悪意を向けているのは女性のみ。しかも、既婚未婚を問わず若い女性だった。
その原因はただひとつ。
その夜会への登場の仕方にあったのだ。
当代国王の下、数多いる貴族たち ーー 特に貴婦人方 ーーの注目を集め、人気を二分する青年貴族が存在する。
二人の青年は共に、その知力能力は元より、生まれ持つ身分にその容姿まで、神々に寵愛されているのではないかと実しやかに囁かれるほどの美丈夫でもあった。
その二人のうち一人は、現国王の年の離れた異母弟でありながら十代のうちに王位継承権を早々に放棄し、大公位を拝命し臣籍へと下ったカイル・ローディン・フォルトゥナーである。
弱冠23歳という若きこの大公カイルが王位継承権を放棄することになったのには、ある特異な理由があった。
それは、彼がグランディル王国を守護する神獣である竜の呼び掛けとも伝えられる〈竜ノ咆哮〉に導かれ、竜と絆を結び〈竜騎士〉となったことである。
* * *
かつて、西の大陸の空には多くの竜の飛翔する姿が見られたという。竜の生命力は人間を遥かに凌駕する為、その知識は神話に謳われる神々のソレにも匹敵すると言われるほどであり、人間は竜を神に次ぐ尊い存在として崇めていたのだが、長き生命を有すといわれた竜の姿は、いつしか西の大陸から激減していき、今やその存在はグランディル王国の一部にしか確認されていない。
竜たちは、決して人間に害為すものでは無い。それどころか、長き生命を有する彼らは、時として〈思念〉を飛ばし、その〈思念〉を受け止めることの出来た人間と絆を結び、守護する力と知識を与えるといわれており、その〈思念〉こそが〈竜の咆哮〉と呼ばれるものであり、竜と絆を結んだ者を〈竜騎士〉と呼ぶのだ。
即ち、グランディル王国における〈竜騎士〉とは、竜を使役して戦う騎士などではなく、竜と共に在ることで己れの属する地を守護する力を得た、ある意味選ばれし者であるのだ。
減少した竜が今、どれほどの数生きているのかはさだかではない。だが、竜に選ばれし騎士は常に百名を下ることなく存在しており、その騎士たちを通じて得る竜の守護により、グランディル王国は千年を超える平和を保っていると信じられているし、事実でもあった。
グランディル王国の周辺国は、そんな竜の存在を知るからこそ、その守護の力を欲しはするもの、その守護力故に強硬に攻め入ることも出来ず、友好を示すことで周辺国もまた平和の恩恵を受けるようになっていった。
西の大陸のただ一角を担うグランディル王国。決して領土の大きさからみれば大国とは言い切れぬ国と言える。だが、絶大なる守護力を持つこのグランディル王国を中心に、西の大陸が安定していることは間違いようのない事実で、それ故竜は、王国を守護する神獣として全国民から敬われている。
説明文が多くなってしまいました。
もう少し、〈序〉が続きます。