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彼まで×××  作者: 森草華
1/6

彼まで37センチ

 …今日もこの時がやってきた。

 桜は目の前に広がる光景を見て低く唸った。


「むむむーっ」


 …私はただ今、戦場にて戦ってる真っ最中である。…ただお昼のラッシュ時に購買に来てるだけなんだけど。

 しかし、それすら桜にとっては地獄なのだ。なんと言っても身長146・6(ここ重要です)センチの桜にとって、周りにいる生徒たちはみんな巨人にしか見えていないのだから。

 そんな中、桜は肩までの黒髪を振り乱しながら、上手く人混みをすり抜けてやっとの思いで購買のおばさんに勢いよく下から手を差し出す。


「おばちゃん!いつもの下さい!」

「あら、桜ちゃん来たね。はいよ、いつものね」


 高校に入ってから毎日のように購買に通っているため、購買のおばさんたちとはすっかり顔馴染みになってしまっている。中でも一番の馴染みのおばさんが桜を見て、すぐさま桜にいつもの品を手渡した。


「おばちゃん、いつもありがと!」

「はいよ!明日もよろしくね!」


 お目当ての物を手に入れた桜は巨人たちに押し潰されそうになりながらも腕を上に掲げて合図した。するとすぐに聞こえてきた低くてよく通る声に向かって、桜は手を振る。


「桜!」

「あ、煉!こっち、こっちー」


 背伸びをしながらひらひらと手を挙げれば、周りの人よりもさらに頭一つ分大きい煉にぐっと手を引っ張られる。すると先程までの圧迫感からすぐに解放される。桜は未だ手を握っているその人を大きく見上げて微笑む。


「救出成功だな」

「いつもありがとね、煉」


 身体も大きく、切れ長な瞳でわりと整った顔を持つ煉は、黙っていれば周りの人が避けて通るような容貌である。しかし、生まれもっての社交性のおかげで周りから距離を置かれたことはない。一部の女子からは別の意味で遠巻きに見られてはいるが、本人は素知らぬ顔である。

 そんな煉は桜の笑顔につられて柔らかい笑みを浮かべた。


「どういたしまして。それより買えた?」


 煉の言葉を聞いて桜は、もちろん!と笑う。そして今日も戦場から持ちかえった品物を高らかに掲げた。


「バッチリ買えたよ、牛乳っ!」


 きらきらと純粋な瞳を輝かせて桜は煉に笑いかける。煉はそんな桜を見て優しく笑った。


「よかったなー」


 桜は煉の笑みを見て少し照れたように笑う。そんな二人の周りにいる生徒たちの砂を吐きそうな雰囲気にも気付かないまま、二人の世界がじわじわ出来上がっていく。そこへ騒がしい声が響く。


「あ!凸凹コンビ、ここにいたし!」


 顔を覗かせたのは、茶髪でお調子者の佐竹だった。人懐っこい性格の為、桜と煉の所にたどり着く前に幾つも他の生徒から親しげな声がかけられる。佐竹はそんな声を軽く交わしながら、後ろから着いてきている他の二人に知らせる。

 桜は近付いてくる佐竹を見てぐっと眉を寄せた。


「凸凹言うんじゃないよ、ボケ佐竹」

「俺の桜が不機嫌になるから言うなって言ってんだろ、ボケ佐竹」

「本当に口が悪いな、二人とも」


 遅れてやって来た、黒髪にメガネの西尾が桜たちのやり取りを見て苦笑する。煉よりも少し小さめだが、高身長な西尾を桜は見上げて唇を尖らせる。


「だって、佐竹が悪いんだもん!」

「まあ、そうだけどね」

「おいおい!西尾までそういうこと言う?俺、可哀想…」

「ふんっ」

「桜、馬鹿は放っておきなさい」


 桜がツンと横をむくと同時に、西尾に続いて真未が現れる。その瞬間、僅かに男子たちから感嘆の声があがった。真未は桜の親友であり、同性ですら見とれてしまう美少女である。そんな真未は桜を猫可愛がりするように愛でるのが趣味である。

 真未は桜の頭をよしよしと撫でる。

 桜は真未に慰めてもらったあと、自分に言い聞かせるように宣言する。


「今に見てなさいよ!絶対、煉に似合うモデル体型になってやるから…!」


 …煉までは37センチ。それに少しでも近付けるのならば、大っ嫌いな牛乳だって何だって飲んでやろうじゃないの!

 桜は牛乳パックにストローを一気に捩込んで、本日三回目の牛乳を口に含んだ。


「俺は別にそのままの桜が好きだよ?」

「煉…!」

「…バカップル」


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