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第二話:いざ、隠しダンジョンへ!・一

「魔王様、少しよろしいでしょうか」

「おお、ゴランドか。うむ、丁度暇をしていたところじゃて」


 魔王城5F、玉座の間。

 魔界随一の怪力と称えられるキリングオーガ、ゴランド=デューカスと、魔界史上最高の魔王クロムウェルが向き合っていた。

 勇者の恐怖を欲しい侭にするキリングオーガは、忠誠を示すように玉座に座する王に片膝をついている。

 

 未だ誰も超えた事の無い絶峰は、優しそうに笑う。


「よいよい、楽にせよゴランド。わしとお前の仲じゃろう」

「……弱りますな。では失礼して」


 楽しげに笑う魔王と、苦々しげながらも楽しそうなキリングオーガ。

 ゴランドは言われたとおりに立ちあがると、一枚の紙切れを取り出した。


 そこには──現在魔王城を静かに騒がせている青年、ガローズ=オラシオンの名が一番に書いてあった。


「隠しダンジョンの構成員が決まったようですので、お伝えに参りました」

「ふむ、ふむ……そうか、楽しみにしておったぞ。

 この老いぼれに早く見せてはくれんか。

 早くせんと寿命が尽きてしまうぞい」

「御冗談を、あと1000年は生きられるおつもりでしょう?」

「ほっほ、バレておったか」

「こちらです。……くくく、驚きますよ?」


 楽しげに冗談を言い合いながら、ゴランドは魔王へと歩みを進める。

 1000年は生きるつもり──というの箇所には冗談が含まれていない事を、お互いに知っているが故に出来るやりとりだ。


 失礼の無いよう、慌てずに平常の速度でゴランドは魔王にその紙を手渡した。

 優しげに細められた魔王の眼が、見開く。


「おお、素直に驚いたぞ……」

「……くくく、どうです、面白いでしょう?」

「面白いも何も……最高じゃ。

 やはりガローズに任せたのは成功じゃったのう」


 魔界でも有数の実力者たちは、その顔に刻まれた皺など気にせず、子供のように笑いあっている。

 ──書類に刻まれている名は、以下の通りだった。


 最高責任者 ガローズ=オラシオン

 補佐 ソフィア=トラジディ

 アナスタシア=フェレ

 アヒム=キーレンツ

 イゾウ=アマギ

 エレノア=キルスティン

 ガン=ハン

 クラウディア=イステル

 ジギスムント=クラヴェル

 ダニエル=ハイン

 ヒルダ=アスタウェイ

 ブリギッタ=シュミット

 ブリュンヒルデ=ヘイロウ

 ユスティーナ=フォルケル

 ライムント=アーレンス

 以上十五名。


 候補生全員分の名前と、責任者二人の名前。

 二人が見て笑ったのは、そんな豪快な書類のよくばりさ加減だった。


「こりゃ楽しくなるのう。

 数名と言っておいたのにまさか全員連れていくとは。

 こんなことなら後五人くらい候補生を増やしておくべきじゃったわ」

「まったくです。いや、中々珍しい奴だとは思ってましたが……

 校長に聞きましたが、即興で面白い演説を行ったそうですな」

「なんと、わしも行っておくべきじゃったかのう。

 是非とも見ておきたかったわい」


 未だ、腹の底の笑いを吐き出しきれない二人は、顔を見合わせてまた豪快に笑い始めた。

 玉座に、笑いの声がこだまする。

 二人の大爆笑は、ソフィアの部下のメイドが大きな扉を叩くまで続けられた。





「それでは点呼を行うぞ。

 俺が自分の名と番号を言うから皆、打ち合わせ通りの順番で続いてくれ」


 あの面接から四日が経過した。

 予想以上に隠しダンジョンに連れていく人員が多かったため、アカデミーを中心に大わらわだったらしく、出発は俺が辞令を受けてから遅くとも──と言っていた一週間後である今日になった。

 現在地は魔王城の大ポータル──魔界各地へと結ばれたワープポータルのある部屋だ。


 ……俺を含め総勢十五名。改めてみると凄い大所帯になっちまったな。

 元々は候補生の中から選ばれるのは三人から六人ほどを予定していたらしい。

 それをまさか全員引き抜かれるとは思っていなかったらしく、校長は嬉しいやら寂しいやら、と言っていた。


 とにかくそんな事もあって、今俺の眼の前には十四人の仲間達が居る。

 ……こいつらと、魔界の歴史に残る、か。我ながら大それた事を言ったもんだ。


「一番、ガローズ=オラシオン」

「二番、アナスタシア=フェレです」

「三ばぁん! アヒム=キーレンツ参上!」

「四、イゾウ=アマギにござる」

「五番、エレノア=キルスティンですー」

「六番、ガン=ハンだ!」

「七番、ガローズ様、貴方のクラウディア=イステルです!」

「八、ジギスムント=クラヴェル」

「九番、ダニエル=ハインです!」

「十、ヒルダ=アスタウェイ、いるわ」

「十一番のブリギッタ=シュミットいます!」

「十二番、ブリュンヒルデ=ヘイロウ、ここに」

「十三番、ユスティーナ=フォルケル、いるよ」

「十四番、ライムント=アーレンス、確かにここに」

「最後、十五番、ソフィア=トラジディ。

 全員確かに居りますね、ガローズ様。

 あとクラウディア=イステル、後で貴方に話があります」

「あら、怖いですね。まだ(・・)実力ではかないませんが、お話なら受けて立ちますよ先輩」


 ……なんか、早速喧嘩になりそうなんですが。

 これ本当に大丈夫なのかよ……頭を抱えざるを得ない。


 ええい、話を進めるしかない。

 幸い、この二人なら何故か俺の言う事は聞いてくれるし……問題の先延ばしでしかないが、この場はこうして収めるしかない。


「やめろソフィー、クラウディア。

 今から今後の事を話すんだ、静かにしていてくれ」

「御意にございますガローズ様」

「分かりました、申し訳ありません」


 ……うーん、実力的に勝る二人を前にこの口調はやっぱ怖いな。

 ソフィーはともかくクラウディアは何を考えてるか分からんし、強くなって本物の威厳を身につけんとな……


 とにかく、二人が静かにしてくれる内に話を進めよう。

 手元に握られた、要項を纏めた紙を読み上げていく。


「さてと……これから我々はポータルを通って隠しダンジョンへと移動する事になる。

 移動時間はさほどかからぬし、魔王城へもすぐ帰ってこれるらしいので、引っ越すにあたって荷物の多い者は各自で引っ越し作業を行ってくれ。

 向こうに付いたら各自個室が与えられる事になる。元から追加人員を加える予定だったらしく空きはあるらしいので、これは話しあって好きな部屋に住んでもらって構わん。

 スケジュールなどは向こうについてから説明したいと思うが──何か質問はあるか?」

「おう、ちょっといいか」

「ガンか、どうした?」


 質問を投げかけてきたのは、筋肉が良くついた、がたいの良い青年──ガン=ハンだった。ごつごつした輪郭を隠さない深い緑の短髪が、力強さを感じさせる。

 浅黒い肌と言い、膨らんだ筋肉と言い……まあ健康的な事だ。

 経理をやっていた俺とは大違いだな。


「食事についてお聞きしたい、まさかこっちに戻って来て食うわけじゃねえよな?」

「ふむ……食事か。一応向こうにも食堂があると聞いている。清掃や食堂の運営をする人員が既に向こうで準備をしているそうだ。

 一応部屋にもキッチンがあるとのことだから、自炊も出来るらしい。

 ポータルがあるから、此方に戻って来て食べても構わないぞ。

 他にあるか?」

「いや、()え。ありがとうなガローズ様」


 準備の良い事で、戦闘を行う者以外は既に向こうに待機していて、住む環境を整えてくれていたらしい。

 食事の質問はもっともだ。食事はすべての活力の元である。うまい食事と言うのは日々に欠かせないものだ。

 しかし、自分で言っておいてなんだが、キッチンがあるのは嬉しいな。これでも料理・掃除・洗濯などの家事は結構好きな方だ。機会があれば彼らに振る舞ってみるのもいいかもしれない。


「他にはあるか? なにかあるのなら遠慮せず、今の内に聞いておくといい」

「は、はい。では少しよろしいでしょうか」

「ブリュンヒルデだな。いいぞ」


 次に手を上げたのは、ブリュンヒルデだった。

 真面目な彼女の事だ、何が気になったのか、それが少し気になる俺。

 だが、その顔は朱に染まっていて、やむにやまれず恥を忍んで手を上げているような様子だ。

 ……一体なんだ? 気になるとはいえ、それを指摘すること無く、彼女の言葉を待つ。


「その……ペットは可能でしょうか?」


 すると、彼女の口から飛び出したのは意外な言葉だった。

 あー、まあなんとなくわからんでもない。クールビューティーを体現したような彼女のイメージからすると、あまりペットを飼っていそうには見えないもんな。

 うーむ、しかしどうだったか……確かこの紙に載せた様な気もするぞ。

 ああ、あったあった。


「ペットは可能のようだ。大型でなければ自室で飼えるし、馬に乗る魔族などに考慮して、大型ならば専用の小屋がある。ただし自分で世話をし、周りの者に迷惑をかけぬ事。散歩などは勇者の来襲予定が無い日などは自由にしてよい。ただ、念を押すがこれも周りに迷惑をないように」


 勝手に無いとは思っていたのだが、返答を用意していて正解だったな。

 それを伝えた瞬間、ブリュンヒルデの顔に満開の花が開く。

 年頃の女の子だからな。ペットと離れなくて済むとあれば嬉しかろう。

 ……ん? アカデミーって寮生なのにペット可だったのか。今となっては関係は無いが。

 ちなみに、これを聞いたジギスムントも小さくガッツポーズをしていた。案外ペットを飼っている子が多いんだな。


「では次は誰か居るか?」

「はーい、宜しいでしょうかー?」

「エレノアだな。ああ、大丈夫だ」

「休日とかってあるのでしょうかー?

 あと外出時に門限などはありますかね?」


 ふむ、休日か。

 身体を休めるのも大切な訓練の内だ。


「勿論あるぞ、両方な。

 一週間の内、ルクスの日がそうだ。門限は夜の九時まで。

 少し早いがついこの先日まで学生の身のお前達だ、我慢してくれ。

 先の話になるが、200歳以上の者は十二時までが門限になる。

 配偶者や子供などに考慮しているとのことだ。……まあ、この中には該当者はいないがな」


 200歳以上とは言うが、最年長の俺ですら186歳だ。まして平均160歳の彼らにとっては、少し気の長い話となるな。


「では次に行こう。何かあるか?」


 しばらく反応を待つ。が、今度は静けさが晴れていく事は無かった。

 ……うむ、どうやら終わったようだな。

 

「よし、無いようなのでそろそろ移動しようか。

 ソフィー、陣の起動を頼む」

「畏まりました。では皆さん、陣の中にお入りください」


 ソフィーに促し、隠しダンジョンにつながる陣を起動させる。

 淡い紫の光が、地面に描かれた魔法陣をなぞっていく──

 数秒後には、魔法陣全体が淡く輝くものへと変わっていた。

 ……十五人と荷物を、顔色一つ変えず一度に転送する、か。流石は宵刻姫だな。見れば、クラウディアの顔がやや苦々しく変わっていた。


「……困った、これは強敵です」


 そんなクラウディアの呟きを皮切りに、ポーターが起動する。

 瞬きをしたような錯覚の後、俺達は先ほどの薄暗い魔王城ではなく、やや青味がかった白を基調とした荘厳な部屋の中にいた。


 ……ここが俺達の隠しダンジョン、か。

 数日前に一度下見をしたのみである場所を見回し、壁に向かって歩く。

 感慨深さを感じながら、滑らかな肌触りの壁に触り、俺は大きな声で宣言した。


「それではみな、道なりに沿って進んでくれ。

 少し歩くとエントランスに出るので、そこで待機。いいな?」


 幾つもの返事が返って来て、生徒達が歩き出したのを確認し、俺は再び陣を見た。

 ここで少し、俺達で創ってゆく隠しダンジョンに足を踏み入れた余韻に浸るつもりだったのだが──


 未だ陣の上に残っていた、悔しそうなクラウディアと、これでもかと言うほどのドヤ顔をするソフィアが眼に入る。

 ……余韻くらいあってもいいんじゃないかな。


「お前達も早く移動してくれ」

「ぐぬぬ……はぁ。分かりました」

「ええ、申し訳ありません。すぐに移動しますガローズ様」


 絞り出したような声と、弾むような軽い声。

 対照的な声の持ち主達がこの転送室から姿を消したのを見て──俺は、盛大にため息を吐いた。

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