其の二
そして本日、結婚式です。
まさかこの歳で十二単を着る羽目になるとは……。
いえこの正装、実は3貴神からの贈り物なのですよ。
レンタル衣装で済ませるつもりが、いろんな意味で有名な元邪神、現引きこもり系ロリ姫神の「専属おかん巫女」と「保護者というかもうこれパパで良いんじゃね勇者」の結婚式ですから、関係各所が勝手に張り切ってくれて……。
いえ有難いんですが、正直分不相応な気がしてなりません。
衣装は桐箪笥ごと送り付けられて来て、しかもその箪笥ごと輝いている始末。
天上界仕様ですね分かります。
一方元職場、いえ今度から一応復職扱いな地上の役所も、それはもう張り切ってくれました。余計な事を……。
公式動画を作ったり、各主要メディアも巻き込んでのお式だそうです。
以前あった姫神様の大社への巡礼騒動、忘れた訳では無いですよね?
観光誘致の為なら何でもやる、というその姿勢と情熱は、元職員として痛いほど良く分かりますが。
「ああ、疲れました。二度とこんな重いもの着たくないです」
いくらMade in takamagaharaで、羽衣の様に軽く浮く素材をふんだんに使用しているとはいえ、重い物は重いのです。
「お疲れ様です、真帆路さん。体調はどうですか?どこかおかしなところは?」
十二単に最後まで懸念を示していたのは、何を隠そうこの勇者様ご本人でした。
「お腹に負担がかかるから」と、それはもう熱弁をふるってくれたのですが、他に言を尽くすべき場所はあったと思いますよ……?
「大丈夫です。今のところ特に気分が悪くなったとかはありません」
「ようやっとつわりが収まった所なんですから、無理しないで下さいね」
「あはは」
貴方がそれを言いますか。
「そんなに心配しなくても、何かあったらちゃんと言うようにしますから」
「そうしてください」
若干乾いた笑いが出ましたが、それ以外の本心は心の中に仕舞って置く事にします。
心配しなくても大丈夫だという様に、にこりと微笑むと、優しい微笑みが帰って来ました。
勇者様が嬉しそうならまあいいか、と思ってしまうあたり、この状況に慣れ切っているのかもしれません。
「まほーーーーーー!!!」
「姫神」
「姫神様」
私と勇者様が落ち着いてほのぼのした所で、後ろから姫神様にタックルされてしまいました。
「すっごく、すっごく綺麗だったのじゃ!わらわもいつか大人になって、あんな風に奇麗な衣装を着るのじゃ~~~!!!」
見上げて来た姫神様のその瞳は、とっても輝いていました。
勇者様が呆れた顔でひっぺがします。といっても抱き付かれただけなんですけど。
「姫神、真帆路さんは今とても大事な時期なんですから、そうやって乱暴な態度取っていると……」
「わあ!ごめんなのじゃ!だいじょうぶかや?ややこはぶじかや!?接触禁止なんて嫌なのじゃ~!!」
こうしていると何だか家族みたいですね。
ほっこりしてしまいます。
「あら、重金先輩はどうしました?」
新たな巫女が正式に就任するまでの間、重金先輩が調整を図ってくれるとの事で、姫神様の元にずっとそばにいたのですが……。
「まほの花嫁衣装を見たら、いてもたってもいられ無くてのう……」
「つまり撒いたんですね?あの方がいなくては、貴女今地上でまともに人の形も取れないじゃないですか。何て事を……」
勇者様が額に手をやって溜息を吐きました。
……衣装も相まっていちいちカッコいいのですが、どうにかなりませんか……って、言っている内容、ちょっと不味くないですか?
「ひっ、人聞きが悪いぞ勇者!あやつも忙しいじゃろうからと思うて、じゃな、わらわひとりでやってきたのじゃっ!それに、今日はハレの日で封印も緩んでおるし、ちょっとの間くらい気合でどうにかなるのじゃ!わらわだってやればできるのじゃぞ!?」
「はあ、動揺が隠し切れていませんよ、姫神」
あらら、どうやら勇者様による説教タイムが始まってしまったようです。
今からこんな調子では、エトワール様が正式に巫女を引き継いだら姫神様、ますます立場弱くなるんじゃないでしょうか……?
私が気にする所じゃないのかもしれませんが。
「……大丈夫ですから落ち着いてください。勇者様も、何も脅かさなくても……」
「駄目ですよ、こういうのはきちんと教えておかないと。このうっかり姫神の事ですから、いつ何が起こるか始終心配する破目になってしまいます」
「うう~、だからごめんなのじゃ」
「ほらほら、姫神様もしょげないで下さい、いつものお元気はどこへ行ってしまったんですか?いつもなら「そんなことないのじゃ、わらわだってやればできるのじゃ」とか何とか、言い返しますよね?」
しゃがんで視線を合わせますが、すっかりしょげてしまったみたいです。
「じゃが、勇者が……」
「勇者様は過保護なだけですよ」
「失礼な、心配し過ぎて何が悪いんです?他でも無い貴女と貴女のお腹に宿る命の為でしょうに。それと、何時になったら名前で呼んでくれるんですか?」
しまった、ヤブ蛇というやつですか?
どうやら余計な所まで刺激してしまった様です。
「えっと、それは……」
しどろもどろになる私に、ずい、と身を乗り出して追撃をしてくる勇者様。
うう、大人げないです、勇者様大人げない。
脇から「あいかわらずじゃのう」などと呆れた様な声が聞こえてきた気がしますが、余計なお世話ですから!
「名実ともに夫婦になったのですから、今度こそ名前で呼んで頂かないと。でないと“おしおき”ですよ?ふふっ、“お仕置き”の間だけは貴女も素直に私の名前を呼んでくれますからね」
「!!!!!!ちびっこのいる前でする話じゃないでしょう!自重してください!」
仮にも幼女の前で何という話を!?
とんでもないと憤る私に、勇者様は余裕でとぼけ、
「何の話か分りましたか?姫神」
「さあてのう、わらわお子様だから分らんの~」
まったく、仲良くなるのも考えものですね!!
「2人とも、いい加減にしないと」
我慢の限界を迎えた私が、お説教の最終兵器を繰り出そうとしますが、
「「晩御飯抜き!!」じゃな!」
勇者様と姫神様が、目配せし合って同時にハモりました。
そして、何がおかしいのか2人して笑い転げます。
「もう!」
子鬼や邪神を従える最終兵器「晩御飯抜き」
そんなにおかしいですか?
2013.7.24 設定調整等の為、一部変更。
姫神「もう終わりとはつまらんのう。そうじゃ、座談会とやらはやらんのか?」
暑さにめげました。
代わりに主要人物の紹介でも。
崎守真帆路 巫女
四捨五入して三十路の公務員。ちなみに上か下かは御想像にお任せします。ぅゎ後ろ怖い。
都内の短大に行っていた割にはあまりはっちゃけなかった『イモねーちゃん』。元彼さんと距離が出来たのもその辺りが原因。
姫神(ヒルコ水蛭子、蛭子神、蛭子命:wikiより) 邪神
みかけは幼女、中身は2000歳越えのロリババryハイ、スミマセン。
世事には疎いが、恋バナ関係は別に疎くない。というか、仕えていた巫女ちゃん達の年齢がもろ“そういう”年代だったので、結構相談とか受けていた模様。あんまり当てにはされていなかったようだが……。
勇者 佐々木大地=クロード
変態。「ちょっと!?」
……じゃあ、変?「人でさえないんですか!?」
キラキラしてる勇者。「ま、まあそれなら……、って真帆路さんも何か言って下さいよ。フォローくらいあってもいいでしょう?」
「……いえその、どこをどうフォローすればいいのか……」(真顔)
「……ひどいですよ…」
オチがついた所でおしまい!




