其の二
「えっ!?あの」
そう言った勇者様の表情は、茶化すでも無く、割に真面目そうな顔でした。
「前回の様な事が再び起こらないとも限りませんし、何より貴女年齢が……」
「わーっ!!」
年齢については言わないで下さい!!気にしてるんですよ!!これでも!!
「私も、そろそろ子供が欲しいなーと思っていた事ですし」
にっこり微笑む勇者様。
子供、ですか。勇者様が子供……。そ、そうですか……。
何というか複雑な気分です。
追っかけていたアイドルが、子持ちになったような違和感と言えば一番近いでしょうか?
想像だけなら穏やかな家庭を築きそうですが……。
その母親の立ち位置に私が入るのは、それこそ違和感以外の何物でも…。
それに、勇者様を旦那様にするには、1つ大きな問題があってですね。
「だから、そういう事は余所で引っかけた女の人に頼んで下さい!いくら私でも知ってるんですよ?勇者様がそういう事でも百戦錬磨、いえ、千人斬りの猛者だって事は!!」
密着するほど近づいて私の手をさり気無く掴んだ勇者様キッと睨み上げ、そう反論します。
勇者様の噂は、こんな辺境の邪神の島までちゃんと届いていました。
良い意味の噂も、あまりよろしくない噂も。
こういう肝心な所での言動と過去の行いが一致しないから、今一私が信用出来ないんじゃないですか。
困ってるのは私だって同じなんです、もう。
膨れた顔で説得力が無いですよ、と言うと、勇者様は何故か情けない顔になって…。
「斬った所で植えた種が芽吹くとは限らないんですよね……」
出て来たのは溜息でした。
「え?」
「ほら私って霊力物凄く強いじゃないですか」
「え?はい、そうですね?」
突然の講釈に、それまでの苛立ちも忘れて素直に頷きます。
「だから逆に、私の子供を妊娠出産できるほど霊的な耐久力が無いと、そもそも受精しても卵が育たないんですよねえ」
なんという、事でしょう……!!!
つまりはあれだけ浮名を流して置きながら、恋人と嫁は別物だと……!?
今更!今更!!
そもそもですよ!?
「……あの、それだったら私なんかとてもじゃないけど無理なんじゃ…」
「それがそうでもないんですよ。最近、妖怪見ても驚かなくなりましたね?」
「え、まあ、はい。慣れましたから」
ここへ来てもう半年以上、次の季節が過ぎればもう1年になります。
お見合い事件からこっち、気が付けば辺りは妖怪だらけ。
いえ、元々この大社にはたくさん生息している事は知っていましたが、ずっと見える様になったのはその頃からです。
子鬼や犬神君をはじめ、仲良くなった妖怪さんも増えました。
意思の疎通もスムーズです。
「それですよ。その慣れが問題なんです。貴女、霊力上がってきていますよ」
「えっ!?」
見ない様にしてました。気づかない振りをしてました。
でも本当は分かっていたんです。
確実に霊能スキルが上がって来てるという事に。
「姫神様との相性が良いんでしょうねえ。見たところ余剰分の神力吸い取っているみたいです。その証拠にほら」
勇者様が指し示した先には、私と勇者様の話し合いが終わらないと思ったのか、テレビゲームの準備を“一人で”始めた姫神様が。
…………随分大人しくしてると思ったら。
妙な所で空気を読む技術は覚えなくて良いんですよ!?姫神様!!
「特訓の、成果では?」
ぎぎ、とぎこちなく顔を勇者様に向けます。
「押さえつけるだけではどうにもならない現実という物があるのは、貴女もよく知っているでしょう?例のお見合いの件だって、むしろあれだけで被害が済んだのは貴女のおかげと言うほかない。あの時貴女が叫んだだけで姫神様を止められたのは、貴女に相応の霊力が備わっていたからですよ」
え
ええええええええええええええええっ!!??




