序ノ三
舞台には一人ずつ上がって貰い、選定の為神に捧げる舞を舞うのですが、その際巫女候補達には特別な羽織を着せて向かわせます。
薄い透ける衣装、千早ですね。
衣装の柄は様々で、1枚として同じものはありません。
中には素材からして違うものもあります。
駐車場に待機していた1台の車の中から禰宜さん達がそれを取り出すと、私と先輩も後に続いて子供達に配り始めました。
「あ、これ…」
中に1枚、とんでもない物が混ざっていた事に気付いたのは、丁度件の金髪美少女に手渡そうとしたその時でした。
柄の模様は艶やかな「牡丹灯篭」
この島では、その昔有名な花魁が好んで着ていたとかで、今でも芸者さんなどに人気の、ある意味伝統的な柄です。
ですが、少なくとも清らかさの求められる巫女候補達に着せるものではありません。
そもそも、牡丹柄の千早なんて初めて見ましたよ。
派手で明るく美しい一品ではありますが、一体どこで紛れ込んだんですかね、この衣装。
親御さん達の中に、コスプレか何かと勘違いされた方がいらっしゃったのでしょうか?
別にして置くにも今は手がふさがっていますし、この件については後で先輩に確認するとして、とりあえず今は仕方なく肩に掛け、衣装自体は別の物を少女に渡そうとした時でした。
『この、無礼者!そんなものを着てわらわの前に姿を現そうと言うのかや!?』
突然幼い少女の怒鳴り声が、辺りに響き渡りました。
急いで周囲を見回しましたが、……誰も、いない……?
「い、いたたたたたっ!?」
と、今度は突然後方にぐいぐいと髪を引っ張られました。
な、何なんですか突然!?
髪を引っ張られながらも、どうにか後ろを振り向きますが、自身の髪が引っ張られているのは分かっても、いるべき筈の引っ張っている犯人の姿が見えません。
とにかく痛いです!
「ちょっ、止めて下さい!!」
こんな事になるんだったら髪の毛切りに行くの来週で良いや、とか思うんじゃありませんでした。
確かに床屋(ヘアサロンなどという高級ショップなど、この島にはありません!)に行くのが面倒臭かったのはありますが、神事もあるし、と思って延ばし延ばしにしていたんですよね。
背中まで伸びた髪は、今はなんちゃって巫女らしく結っていますが、正真正銘地毛なんですよ。
言っても止めてくれない奇妙な怪現象に困惑しつつ先輩に助けを求めると、先輩は驚いた表情でこうのたまってくれました。
「貴女、姫神様の傍仕えの巫女に選ばれたわ」
次回より第1章です。