其の一
ある日の出来事。
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床にごろごろと2人転がって何をしているのかと思えば、どうやら子供向けのボードゲームの様です。お正月に家族で良くやるイメージの。
洗濯籠を抱えたまま横目で見ると、やはりというかなんというか、勇者様の駒の方が優勢でした。
……随分子だくさんですね、勇者様。
ゲームを挟んで喧々諤々なお2人から目を離し、見上げた空は、とても奇麗に晴れ渡っていました。
庭園に置かれた石の上では、二股しっぽの黒猫さんが、のんびり欠伸をしています。
お昼寝にはちょうどいい天気かもしれません。少し羨ましくなってしまいます。
お仕事が終わったら、少しだけ休憩するのもいいかもしれませんね。
……などと思っていたら、足下に何か感触が。おや犬神君、お手伝いしてくれるのですか?
何処かの誰かさん達と違って殊勝ですね。
洗濯物も終わり、戻って来たのは良いですが、お2人とも先程と姿勢が変わってませんよ?
気が付けば子鬼達が周りを取り囲んで、まるでサッカーのサポーターの様に応援し始めている始末。
気勢を上げ、勢いで乗り切ろうとする姫神様の陣営は、こちらもソウルフルな熱いノリの子鬼達が応援を。
対して冷静に戦術分析などしているのは、勇者様陣営の子鬼達。
……彼らにも個性というものがあったんですねえ。
ただ悪戯好きなだけでは無かったという事ですか……。
「というか仕事しなくて良いんですか?勇者様」
勇者様がここに来てからもう半年以上経ちます。
その間、まともに仕事をしたのを見たのは最初の姫神様との対決と、例のお見合い事件の……2回だけ。
後は、例の聖地巡礼の件などもそうですが、私達の護衛という事でいつもそばにいらしたのと、姫神様がやらかしてしまった事の後始末だった様に思います。
修業、というのもありましたね。
こんな風に彼が訪れてからこの島を離れる事はあまり無く、下手をすればこの大社から出る事さえもまれでした。
「『勇者』ではなく『名前』で呼んで下さいと言っているじゃありませんか。それと、貴女に心配されるのは嬉しい限りですが、ちゃんとしていますからそこはご心配なく。というか、他の人達も少しは仕事した方が良いんですよ」
それが本音ですか……。
真面目な勇者様らしくない言葉にも思えましたが、普段はお忙しい方ですから、きっとご本人はここにいる間バカンスにでも来ている気分なのでしょう。
今まで無休でお仕事されていたと考えれば、纏めて休みを取ると半年くらいは行くのかもしれませんし。
それが罷り通るかは別として。
勇者様ほどの方になると、お仕事上もきっと色々あるんですねえ。
などと他人事の様に考えていた時でした。
「それより」
むくりと起き上がってこちらに来る勇者様。
その表情に何か嫌な予感がして、全力で逃げ出したいのに、何故か足下が縫い付けられたように動きません。
一体何をしたんですか勇者様!?
いつの間にか周りにいた筈の、サポーター低級妖怪達は1匹残らず居なくなっていました。
彼等の洗練されたエアリーディングスキルは、私もそろそろ見習うべきかもしれません。
いっそ修行するという手も…。
思わず現実逃避をした私に構わず、勇者様は決定的なひと言を口にしたのです。
「ここしばらく考えていたんですが、真帆路さん、そろそろ私と結婚しませんか?」
なお勇者が本気を出した模様。




