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其の七



引き続き触手警報(以下略)




「貴女へのお説教は後回しです。今は“アレ”をどうにかしませんとね」

 お、お説教、ですか?いえその、今回の姫神様の暴走が元を正せば私が原因と言うのは分かるんですけど。


 動揺する私に構わず、勇者様の視線はすでにホテルへその触手を伸ばそうとする姫神様に向けられていました。

 睨みつける様なその表情に、状況は決して楽観視出来ないのだと知ります。


『グ、グウッ、勇者、勇者だと……!?オノレ忌々しい!!』

「そんな単調な攻撃、本当に当たると思ってるんですか?」

 姫神様の振り上げた触手を、事も無げに叩き斬り落とす。

 それが始まりの合図となりました。


「真帆路さん、危ないから下がって!」

「はい!!」

 言われたとおりに距離を置きます。

 とはいえ、姫神様が邪神モードで暴れている限りはホテルの壁が飛んで来るかもしれないし、かといって勇者様から離れ過ぎてもいけませんから、位置取りには気を付けなくてはいけません。


『グ、ググッ……所詮はニンゲン。勇者などと言われ、ヒトの分際でいかに崇められようとも結局はその程度カ……』

「言ってくれますね姫神、……いえ、今は邪神そのものでしたね。まったく、人の気も知らずに呑気なものだ!こちらは討伐したくても、出来ずに苦労しているっていうのに!!」

『グ、グググッ』

 勇者様自身は、基本的に討伐の是非を勝手に判断する事は許されていません。

 それでも、緊急災害時にはその限りでは無いと聞いています。

 ならばこれは……、今の状況は、勇者様にとっては凄く不都合なのかもしれません。


 このままの状態が続けば、勇者様はそう遠くない内に姫神様を手にかけなければならなくなるでしょう。

今の勇者様はきっと、姫神様を討伐したくないんだと、……そう、思いたいです。


「くっ、このっ!!調子に乗るんじゃありません、このバカ邪神!!」

『グ、ググッ』

 押し寄せる触手を剣1本でいなす勇者様。

 それがいかに異常な事であるのか、素人の私から見てもそれは明らかでした。

 そして、それでも劣勢には違いないのだという事も。


「いい加減目を覚まさないとお尻を叩きますよ!!」

『わらわを、子供扱いするなと言うに!!』

「くあっ!!」

 いつものノリに戻ったかと安堵した瞬間、姫神様のツッコミで、勇者様が弾き飛ばされてしまいました。


「勇者様!!」

「来てはいけません!!」

「っでも!」

『二人纏めて仲良くあの世へ送ってヤル……』

「くそっ!!」

 勇者様が顔に似合わない乱暴な言葉を吐いた時です。


『わらわの養分となるが良イ!!』

 にゅるりと触手がこちらへ向って押し寄せ……、


「いい加減にしなさい!!そんなふざけた事言っていると、晩御飯は抜きです!!」


「そっ、それだけはいやじゃ!」


 思わず本気で叱りつけた私に、姫神さまが素で返されたのです。


「「え?」」



 後に残ったのは、何とも言えない気まずい空気だけ。


「とんだ止め方ですね」

 ………私も、そう思います、勇者様。




 あれから、慌てて飛んできた重金先輩に後始末を押し付け(主に勇者様が)、私達は大社に戻って来ました。

 と同時に電話連絡が高天ヶ原(・・・・)…から入り、姫神様は取りあえず厳重封印、との沙汰が下されました。

 あの口ぶりでは、他にもまだ何かお仕置き(・・・・)がありそうですが……。

 それとお留守番だった筈のエトワール様は、重金先輩が後始末に回る前に一度ご実家に戻されたそうです。

 姫神様があんな事になってしまったので、エトワール様ご自身の身にも何が起こるか分りませんでしたから。


 いつもの幼女姿に戻った姫神様は、疲れたと言って早々に眠ってしまいました。

 あれだけ大暴れしたら、そりゃあ疲れますよね。

 勇者様も何とも言えない表情で見送っています。

 ………勇者様もお疲れなのでしょう。


「あの、それで」

「ああそうそう、貴女へのお説教の件でしたね」

「…………」

 どうにも忘れていてくれた訳では無いようです。





警報解除されました。


繰り返します、触手警報解除されました。


次回より幼女モードに復帰します。



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