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其の五

改めて。


この作品は現実の宗教関連とは


一切!


関係ありません!




という事で、

今をときめくあの方々が(それ以外にもいろいろ)登場するよ!!


 あれから、オフ会は解散させられたそうです。

 観光客として僅かに残った人達もいたそうですが、騒ぎに加わった方々には島外退去が命じられました。仕方ありませんね。


 姫神様自身も勇者様や重金先輩にがっつり叱られ、だいぶ凹んでいる様でした。

 私は説教に加わろうとして、言いたい事他の2人に全部言われちゃいましたから、あまり厳しくは言っていません。

 それよりも何よりも気になるのが、姫神様が人間不信に陥っていないかどうかです。


 あれ以来、生放送も動画投稿ですら行っていません。

 …………余程、恐ろしかったのでしょう。


「姫神様、……あれもまた人間の一面です。……怖くなりましたか?」

 余りの落ち込みぶりに、見かねて問いかけてみました。

「いつもの貴女なら『あれくらいわらわにとってはたいしたことないわ!』とか言いそうですけどね」

「勇者様!」

 それはフォローっていうより追い打ちですよ!


「……怖かったのじゃ。人間というものがあんなに恐ろしいモノじゃったなぞ、わらわは今まで生きて来て、初めて知ったのじゃ」

「多くの人が集まれば、そこには個人の意志とは別に大勢の意思というものが生まれるのですよ、邪神。そこには常識や良識に囚われない、人間の欲が剥き出しになって表れる事もある。“皆が良いと言うのだからそれは正しい”のだと、許されてしまうのだと思い込む事さえあるのです」

「今回の事が人の行いの全てではありませんが、それは確かに人の一面なのです」

「……一番怖かったのは、“あれ”に対して何も出来なかった自分自身じゃ」

 語りかける私達に、そうぽつりと姫神様は言いました。


「人は、あんな風に大勢の人間が集まって暴れるもので、それに巻き込まれてしまえば、何の力も持たぬ個人はただ飲み込まれるしかないのじゃな。わらわは人の恐ろしさも、人の無力さも初めて知ったのじゃ」

 しばし沈黙が落ちました。

 今の姫神様は、それこそただの人と何も変わりません。

 しかしそのおかげで、人というものと神である自分の違いを知り、少しだけ成長出来たのかもしれません。


「それで、どうしますか?」

「どうする、とはなんじゃ?」

「このまま怖いと、恐ろしいからと逃げ続けますか?」

 それとも、と勇者様は言外に言いました。

 姫神様もその事は分かったのでしょう、すっくと立ち上がり、こう宣言されました。

「2人とも、放送、するぞ!用意せよ!」


 こうして姫神様は、生主としての活動を再開させる事を決意しました。

 手続きをして、放送開始を待ちます。

 姫神様は何時になく緊張している様でした。



 心配は杞憂に終わりました。

 画面の向こうはフォローで埋め尽くされ、

「ごめんね、人間がごめんね」「ロリ神様大丈夫?無理しなくて良いんだよ」「あんなの一部の連中の暴走だから」「キニスンナとは言えないけど、これ以上人間を嫌わないでほしいな」「ロリ神ちゃんおかえりー!心配して待ってたんだよ!」「あいつら幼女にも容赦が無いな」「我等ながら怖いよねー」「今度は気を付けるからさ、また会いに行っても良い?」

 など、他にも多くのコメントで迎えられたのです。


 姫神様はその埋め尽くされた言葉の数々に、ぼろぼろと泣き出してしまいました。

「みんなありがとうなのじゃ!」


 画面の向こうからならば自由に好き勝手言えますから、この中の何処までが本当に心からなのかは分りません。

 でも、今はこの応援とフォローが必要だったのは確かです。

「実に単純なものですねえ、人も、神も」

 そう、勇者様が苦笑した時です。

『実にその通りだな、勇者よ』@amaterasu


 え?


 気付いたのは私だけでは無かったらしく、この動画放送の一件でローマ字もなんとか読める様になった姫神様は、おかげで大ハッスルです。

「アマ……アマテラス?アマテラスがコメントしてくれたのじゃ!」


 その言葉に、画面の中からも「アマ公!?」「アマ公キター!!」の弾幕が。

 しかし半信半疑、というかタイミングが良すぎて疑ってかかっていた私は、この状況に慌ててしまいました。

「いえ、あくまでコテハン、自称ですから、本物とは限らないのでは?今すぐ電話して来られるなら話は別ですけど」

 大社、特に奥殿直通の電話番号は秘匿とされています。

 生放送関連の個人情報も、その為に取得したり態々でっち上げたりしたものです。

 と、そこへ背後で電話の電子音が鳴り響きました。

 まさか……。


 画面内もざわざわしていますが、とりあえず取らなければなりません。

「はい、本殿です」

『わしじゃが』


 まさかの本人降臨でした。


 私が硬直したのに気付いた勇者様がスピーカーに切り替え、生放送用のマイクでも音が拾えるようにしました。

『これで信じたか?』

 にやりとする様子が目に浮かぶような声音でした。

 一気に過熱する画面。もう収拾が付きません。

 「アマ公」コールが起こる中、「アマ公って言うな!」とご本人からツッコミが入ります。

 同時に電話からも声が聞こえたって事は、もしかしてスカイプですか?主神様。


「あれではただの犬じゃからなあ。まあ普段から“わし”とか言っておるし、どこぞでは男扱いだったじゃろ?今さらじゃな」

「貴様、その事を今ここで言うのか!?」

「あー、あれなー、まほが持ってきたゲームとやらの中にあったぞう。最初はなかなか上手くいかなかったが、映像は奇麗じゃったし結構楽しめたのじゃ」

 何というか姫神様、この国の主神に対してすごく、すごーく、気安い気がします……。

 おちょくっている様にも聞こえますよ?その言い方だと。


「む、そうか…」

 楽しめた、という言葉に怒りをひっこめたあたり、アマテラス様も姫神様に一目置いていらっしゃるのでしょうか……?というか、

「もしかしてアマテラス様ご公認ですか?それにしては“無礼技”、器用に片足上げていらっしゃいましたね」

「その話はするな!」

 画面が草で埋まりました。


「アマテラス様、今度是非大社の方にも顔を出して下さい。この前姫神様が山で摘んだヨモギで草餅作ったんですよ」

 主神様に対して不敬かもしれませんが、何となく近しい存在の様に感じられて、気付けばそんな事を口走っていました。

 聞いていた姫神様も、そんな私の言葉に嬉しそうに続けます。


「わらわが摘んだのじゃ!がんばったのじゃ!それにまほの作る餅は、とおってもうまかったのじゃ!」

 えへん、と胸を張る姫神様。あ、画面が萌え死んでいますね。日本が沈没するのもそう遠くない気が、おや、沈みましたか。


「ほう、それは良い事を聞いた。……天界の甘味は上品すぎて好かぬ。近々そちらに向かう故、新しい物を用意して待っておるが良い」

「そのような物言いをするから男に間違われるのじゃ」

 姫神様が呆れたように言いました。

 画面では「漢だw」とか、「天界住まいなのに味が上品ってwww普段何食ってんだ神様www」などというコメントが流れています。

 本当にそうですね。どんな食事が出るのか興味が湧いてしまいます。


「美味い草餅と聞いて」と乱入して来たスサノオ様を皮切りに、次々に乱入して来たのは日本神話の御偉い神々。

 スサノオ様、オオクニヌシ様あたりは、リア充爆発弾幕が発生していましたね。

 特にスサノオ様は美人なお嫁さんがいらっしゃいますから。

 ツクヨミ様はファンの方がいるのか「キャーツクヨミサーン」とコールが。

 ああもう、本当にカオスです。


「何が言いたかったかというと、これが人間というものだと言う事だ。清濁併せ持つこの生き物を守り導くのが我らの役目」

「それを理解したのならば、むやみに力を使い暴れる事もあるまい、神力を返そう」

「己が為すべき事をせよ」

 そう告げる3貴神に姫神様は嫌そうな表情をしました。

 そこはホッとして感謝するところでは?

 などと思っていたら、とんでもない発言が姫神様の口から飛び出して来たのです。


「なんじゃいなんじゃい、わらわよりも後に生まれたくせして偉そうな顔しおって。昔からその態度が気に食わんかったのじゃ」

「「えっ!?」」

 3貴神の、前……?


 まさか、「ロリババア!?」「ババアではないわっ!!」

 ロリババコメントはどうでも良いとして、

 もしかして……、

「姫神ちゃんって、もしかして本名ヒルコって言ったりしない……?」

 それです!!


「え?知らなかったんですか?」

「うふふ、日本最大最強の邪神様ですから、おいそれと情報漏らせないんですよ。だからそうやって封印している間に、誰を封印しているのか皆忘れちゃったんですよねー」

 知らない方がおかしいとでも言いたげな勇者様に、後ろから重金先輩の声が掛かりました。


「良かったですね、姫神、いえ、ヒルコ様」

「オモカネ!さっさとその玉を寄越すのじゃ!」

 水晶の様な磨かれた透明な玉を持った重金先輩に向かって、姫神様がぴょんぴょん飛び跳ねます。

 悶えているコメントの中に不意に、気になるコメントが流れて行きました。

「オモカネってもしかして、オモイカネノカミ…?」

 途端に画面内がざわざわします。


「先輩……?」

 あまりの事に吃驚していました。

 もしかしたらぽかんとしたまま、口も開きっぱなしになっていたかもしれません。

 先輩はそんな私を見て、小さく「ごめんね?」と舌を出しました。


「む?なんじゃこやつらは!」

「他国の主神どもが何用か」

 気が付けば、画面内はさらにカオスになっていたようです。


「何やら騒がしいので来てみれば。ふん、常日頃のほほんと呆けておるから、この様な事態になるのだ」@ZEUSU

「全知全能の我に出来ないことなど無い」@やーうぇ

「ちょ、父さんw僕に「コメントするにはどうしたら良い?」って聞いて来たの父さんじゃないか」@大工の息子

「友人に誘われて来ました。あ、アマテラスさんお久しぶりです、いつもお世話になってます」@さとりびと

「おうHIRUKO、たまにゃあちっと顔出せやア。いや、こっちから顔出した方が早いかア?まアた一緒に花見酒と行こうぜ!」@O-DIN


 余所の宗教の方々まで混ざって来ましたよ……?

 これ、どう収拾付けたら良いんですか。


「てけり・り」

「ふたぐん」

 おや?

「あっ、お前等出てきちゃいかんと言うておろう!!大人しく海の底に帰れ!!」

 このコメは、まさか……。


「姫神?もしかして知り合いですか?」

 嫌な予感がしたのか勇者様が聞いています。

 私も嫌な予感がビンビンです。こうしている間にもSAN値が下がりそうです。

 しかし姫神様にはこの戸惑いは良く分らない様でした。


「うむ、人には分らんらしいが、何故かわらわ達には言いたい事が分かっての。元々は祖を同じくする者らしいのじゃが、わらわにもよく分らんのじゃ。こう、ぬるっとするあたりは近しいものを感じない事も無いのじゃが……。行くあてが無いと言うのでな、地上や空は人目につくからまずいが、海の底深くならば問題無かろうと言う事で、そこから出んという条件で棲みかとする事を許したのじゃ。たまーーーに地上に出ては街1つ荒らしたり、たまーーにぷかーっと浮いている事もあるようじゃがのう」


 その呑気な発言に、カッときた私は悪くないと思います。


「だから貴女は!そうやっていつもいつも簡単に拾ってはダメだと言っているでしょう!野生はほっといても自分で生きていけるだけの力があるから野生なんです!それを勝手に手を出せば独りで生きていけなくなる、野生じゃなくなってしまうんですよ!そう私に教えてくれたのは他でも無い姫神様じゃないですか!」


 ふと画面を見ると「宇宙的恐怖がまるで捨て猫か何かの様だwww」「何という冒涜的な扱いwww」「つーか三十路巫女さんもいい加減慣れたよなwww」


 などと流れて……。

 冒涜的なのは今更ですが、これだけは言わせて欲しいので言います。


「“三十路”ではなくて“四捨五入して三十路”です!!」


「ツッコむ所はそこか」

「はいはい、テンプレテンプレ」

 アマテラス様と勇者様の、非常に呆れた声が背後から聞こえました。




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