其ノ三
姫神「ロリの本気、見せてやるのじゃ!」
勇者「あんまり調子に乗らないでくださいよ」
姫神「うるさいわ!黙って見とれ!!」
それから数日。
どうにか神力を取り戻す方法を考えてはいますが、これといった有力な方法が思い浮かびません。
罰として取り上げられたのですから善行を積めば戻してくれるのかとも思いましたが、勇者様曰く、それほど簡単な事でも無いそうです。
逆に良い事もありました。
無駄な力を垂れ流さなくなったので、家電に触れても壊さない様になったのです。
神力が無い状態がだるいのか、日がなゴロゴロしていて相変わらず元気の無い姫神様を元気づけようと家からテレビゲーム機を持ち込んでみた所、その時ばかりは勢いよく立ちあがり、「おおおおおおおおッ!?」と奇声を上げられました。
見聞きした事はあっても、多分初めてですよね?実際に触るのは。
「見ても良いのかや!?さ、触っても良いのかや!?」
「どうぞお好きになさって下さい。ただし強い力を加えると壊れてしまいますから、くれぐれも乱暴に取り扱わないで下さいね?」
「ふおおおおおおお!!」
初心者にも出来る簡単アクションを始めてみましたが、そこは姫神様と言いますか……お子様と言いますか……。
最初は上手く行かなくても、数分、数十分もすれば操作に慣れ、すいすい進んで行きます。
「こうして見ると、今までにも増してただのお子さんですよねえ」
はしゃぐ姫神様を見ながら、勇者様がそうのんびり呟きました。
お茶を片手に少し遠くから見詰めるその姿は、まるでお父上様の様ですよ、と言おうかとも思ったのですが、すんでで飲み込みました。
……何となく私にまで被害が来そうな気がしたので。主に母的な意味で。
気分転換の出来た姫神様については、取りあえずこのまま現状維持で良いでしょう。
問題は神力の方です。
せめて信仰心をどうにかすれば、おいそれと神の位から追い落とされる事も無いだろうと思うのですが……。
「某大型掲示板でも群を抜いて評判悪いですね、うちの神様」
「まあ、邪神ですからね」
姫神様が戻られて以来、深夜にこっそり勇者様とミーティングを重ねています。
ここ、実はネットも繋がるんだそうで、パソコンを持ち込んで色々調べているのですが……。
姫神様は邪神だけあって、一般の人、特に島外の方々にはあまり好かれていない様子です。
邪魔者、厄介者、災害の元凶認定。
言いたい放題ですね。中には明らかに無関係な事象についても姫神様のせいにされているらしいコメントも見かけました。
でも、ちょっと待ってください。
そうですよ、これを利用しな手はないのです!
私はふと気付き、目の前の“箱”を見つめました。
島を離れ、都内の短大に通っていた頃、私はとある文系サークルに所属していました。
他大学(僧侶系)とも交流のあったそのサークルで、当時の彼と知り合ったんですけどね。
……話が逸れました。
そこでの活動の一部には、動画を投稿する事も含まれていました。
将来が決まっている人も多い学校でしたから、鬱憤を晴らすかの様に派手に活動していた人もいましたし、実際それに巻き込まれた事もありましたっけ。
……先輩後輩関係無く振りまわされることも多いサークル活動でしたが、今振り返ると、案外楽しかった想い出しか残ってないみたいです。
それはともかく。
「引き籠り系ロリ邪神としてネットアイドル化、ですか?」
「そうです!姫神様はこんなに可愛らしいんですから、きっとすぐにファンが付きます!最初は信仰とは違うかもしれませんが、あの容姿と性格、話す内容や行動など、姫神様の事を知ればきっと皆彼女の事を想ってくれると思うのです!」
説得にも力が入ろうというもの。
確かに神なのですから、自分の力は自分で管理しなければならないという意見は正しいと思います。
それが出来ない姫神様は、神としては落第寸前と言われても仕方ない事なのでしょう。
でも少なくとも姫神様のあの無邪気さに触れ、時に人を思いやれる優しい心もきちんと持ち合わせているのだと知れば、そう簡単に悪し様に言えなくなる筈。
それは、何より自分が一番良く知っていましたから。
「そう上手く行きますかね?」
「何事もやってみなければ分かりませんよ」
半信半疑な勇者様はさておいて、こうしてネットの海の片隅に「引き籠り系ロリ邪神を愛でる会」というコミュニティが立ちあがりました。
「何やらバカにされている気がするのじゃが……」
「多少ネタっぽくても、こういうのはインパクトがある方が良いんです。皆に見て貰わなければ意味がありませんから」
「真帆路さんが普段邪神をどう見ているのかが良く分かるネーミングですね」
「まほー!?」
「余計な事言わないで下さい、勇者様!!」
ともあれ自宅から機材を取り寄せ、生放送動画の配信は最初は静かにスタートしました。
放送に気が付いたユーザーの中には荒らしやアンチもそりゃあたくさんいましたけど、告知サイトを立ち上げ、そこから私自身動画投稿者だった事を知った元視聴者の方々が話を聞きつけ見て下さったりだとか、ロリ邪神、もとい姫神様自身の毒の無さに、やがてコテハン客やファンになったと言ってくれる方達も出て来た様です。……多分に危険な方向で。
「なあまほー、脱げと言われたのじゃがどうするかのう?」
「運営に怒られるどころか警察に捕まるから、絶対駄目です!!」
ああもう、お願いですから幼女で純粋無垢な姫神様相手に服を脱げとか言わないで下さい!
本気に取るんですよ!うちの邪神様は!!
邪神が警察に逮捕とかシャレになりません!!
日は過ぎ、最近では相手にされなくなったらしい荒らしさん達も、稀にしか見かけなくなって行きました。
生放送では現在、とあるゲーム実況が主体となっています。
「くりあーなのじゃ!やったのじゃー!見よ、わらわだってやればできるのじゃ!」
その叫びに画面が「おめでとう!」とか「やったね!」などのお祝いコメントで埋め尽くされました。
「むっふっふ~、どうじゃ勇者、これで少しは見直したかのう?」
「ヌルゲー1本クリアしたからと言って、偉そうにされましてもねえ」
呆れた様な勇者様の態度に、画面の中で今度は勇者様をたしなめたり非難したりするコメントが流れます。
「ふん、神たるものこれくらいの事でいちいち怒ったりはせぬのじゃ。まほー?次は何をするのじゃ?」
「そうですねえ、せっかくですから皆様にもご意見を伺ってみてはどうでしょう?あ、法に触れない範囲で、という条件で、ですが」
途端に流れる「ちっ」という弾幕。……まったく、世の殿方共はこれだから……。
……もしかしたら女性も含まれているかもしれませんが。
最近ではこの様に、姫神様と視聴者の垣根は少しづつですが取り払われて行った様に思います。
最初はぎこちなかったやり取りも、回を重ねるごとに滑らかなものになって行きました。
「さて、そろそろ違う事にも挑戦してみましょうか」
「何をするのじゃ?まほ」
「とりあえず、歌うのと踊るの、どっちが良いですか?」
「その衣装は、一体いつの間に……?」
夜なべして作った衣装を手に姫神様に迫ると、何故か勇者様が引きました。
これってもしかして、対勇者様対策になりますかね?……その分人としての尊厳とかが無くなりそうですが。
次の段階として考えたのは、生放送の合間に収録した「ロリ邪神が歌って踊ってみた」や「ロリ邪神によるゲーム実況」、時には「ロリ邪神様に読み聞かせ」などを投稿する各動画群でした。
「こうして、お姫様は王子様と末長く幸せに―――」
「これでこやつらは、本当に幸せになれるのかのう?だって―――」
「そこはお約束ですから。でも、そうですね―――――」
特に読み聞かせは姫神様特有の視点もあり、数ヶ月後には視聴者間で宣伝され、それなりの再生数を叩き出すまでになっていました。
生放送で経験のあったゲーム実況や歌って踊ってみたについては言わずもがな。
……ロリ邪神、恐るべし、です。
生放送の回には私や勇者様も保護者代理として出演し、(私は身元バレの関係上、覆面を被らせて頂いていますが)本題から離れそうな時や話題の転換が必要な時など、そのつど口を挟んでいます。
私もそうですが、勇者様はもっぱらツッコミ役ですね。
勇者と邪神の掛け合いは毎回画面一面に草が生えるほどで、本動画でも一番の見所になっている様です。
そのせいかだんだんネット界では「ロリ邪神」「おかん巫女」「じゃあ勇者がパパだな」などという認識になりつつあるようです。
「おかん巫女……。確かに私は母になってもおかしくない年齢ですが……」
「邪神が娘扱いなのはどうかと思いますけど、真帆路さんと夫婦の様に見られるのは悪くない気分ですね」
「いや、そういう意味じゃないと思いますよー…?」
「だったらどういう意味なんです?」
「言いながら迫らないで下さいってば!!」
「まほをいじめるなー!!」
「やれやれ、これをどう見たらいじめている様に見えるんですか。スキンシップ、愛情表現ですよ」
「む?むう?なんじゃ、違うのか。まあそれならば良いのじゃ!仲良き事は良い事なのじゃ!」
「簡単に丸め込まれないで下さい!!」
まさかの引きこもりネットアイドル(幼女)化。




