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其ノ六

「と、とにかくイエス・ロリータ、ノータッチ!姫神様に指一本でも触れようものなら、ア○ネスとバックベアード様(このロリコンどもめ!)召喚しますよ!!」

「……ほう?」

 勇者様が険しい目付きでこちらを睨みました。


 う、そう言う表情をすると本気で怖いです。

 しかし、ここで引く事は出来ません!


 そこへ待ったをかけたのは、姫神様自身でした。

「待てまほ!こんなやつ、わらわの力でひとひねりなのじゃ!」

 え!?


「ちょっ!?それ逆効果です!!ストップ姫神様!人殺し駄目絶対!」

 ぱちん、と姫神様の合わせた小さな手のひらの間から、ばちばちと小さな雷の様な閃光が漏れ出して行きます。


 止める間もありませんでした。

 見ただけで、ただの人間なら一瞬で黒焦げになりそうだと分かる程の雷の玉があっという間に出来上がり、「とりゃっ」という響きだけなら何とも可愛らしい掛け声と共に、勇者様に向かって放り投げられてしまったのです。


 しかしそこで私は、話に聞く勇者の力がどれ程のものなのか、今まで全く分かっていなかった事を知るのです。


 轟雷が勇者を打ち据える、まさにその瞬間でした。

「神力の流れも洗練されていないこんな力任せの攻撃、避けるまでもありません。受け流すくらい余裕ですよ」

 勇者様は、その美しい筈の顔に何の表情も浮かべる事無く、気が付けばいつの間にか手にしていた剣で、至極あっさりと雷球を弾き飛ばしてしまいました。

 弾かれた雷球は、轟音と共に奥殿の一部、いえそれだけでは済まず、飛んで行った先にあった山の一部も破壊して行った様です


「やれやれ、本当に子供の児戯の様ですね」

 つまらないといった声音を隠す事無く言い放ち、勇者様は剣を収めました。

「え……?」

 討伐するのではなかったのか。剣を納めてしまって本当に良いのか。

 勇者様の行動が今一つ分からない私は、混乱のまま説明を求めて口を開こうとしました。


「ぬ、ぬぬ?」

 しかしこの状況は、まだ収まってはいなかったのです。

「い、いかん、神力(ちから)が、溢れて…っ」

 がらがら、びしゃーーーん!!

 どさーーーーーーーーーーっ


 雷鳴が轟き、凄い勢いの雨が降って来ました。

「邪神!?何考えてるんですか!?」

 さっきまで余裕だった勇者様が慌てています。

 これは……。


「ちょ、ちょっと力を込めすぎただけじゃ!」

「勢いあまって豪雨が発生したんですね!?まったく、何て事してくれたんですか!」

「元はと言えばお主が喧嘩吹っかけて来るから悪いんじゃーーー!!!」

「仕事なんだから仕方ないじゃないですか!良いからさっさと止めなさい!!」

「出来るものならとっととやっておるわーーー!!!」

 勇者様が幼女の肩を揺さ振って、脅迫している様にしか見えません……。


 急激に発達して行く雨雲は、どうやら島全体を覆っている様子。

 この島の山から市街地にかけて、ほぼ中央を縦断する様に川が流れています。

 海までそれほど大した距離がある訳ではありませんから、このままの状態で降り続けば、すぐにでも川は氾濫、無限土石流状態は間違いありません。


 麓の街の壊滅の予感に、私は血の気が引いて行くのが分かりました。

 いくら対策をとっていても、人の力には限度と言う物があるのです!

 神様みたいに何でも出来る訳じゃないんですよ!?

 街には両親もいます、友人知人だって……。


「どうするんですかこの事態!?姫神様!?」

「むむう、やってはおるが全然こんとろーるきかんのじゃ」

「姫神様ーーーーーー!!」

「仕方ありませんねえ。真帆路さん、避難指示を。私は川の流れを変えてみます。一本支流が増えますが、仕方ありませんよね。出来るだけ街には被害を出さない様、努力はしますが」

 勇者様が頭に手をやりながら溜息を付きました。

 顔を顰めている辺り、片頭痛でも発症しているのかもしれません。

 後で鎮痛剤でもお渡ししようかと思いながらも、優先すべきは地元の方です。


「役所に手配を!」

「お願いします。邪神、何してるんですか行きますよ」

「む!?どこへ行こうと言うのじゃ!?こ、こりゃっ、わらわの首根っこをつかむでない!!く、苦しいわっ!!」

 私が了承の声を張り上げて電話に駆け寄り、役所に電話を掛けたのを見届ける様に、勇者様は姫神様を連れ、嵐の中外へと飛び出して行きました。



 結局……、勇者様に脅されたらしい、泣きべそをかいて帰って来た姫神様の根性で、雨自体は数時間で止み、想定された災害も勇者様の機転により未然に防がれたものの、姫神様の邪神認定にまた磨きがかかった模様です。


 その上、どういう訳か、

「貴女を花嫁に迎える準備は着々と進んでいますよ。……逃がしませんからそのおつもりで」(にこ)

 なんて、勇者様がしつこく迫って来るようになってしまったのです。


 私今回、何もしてませんよね?

 原因も結果も、全部勇者様のおかげじゃないですか!


「釣り合いとれませんよ!冗談じゃないです!私は姫神様のお世話で手いっぱいなんですから、帰って下さい!!」

 腕を掴み放そうとしない勇者様に、何とか逃げ出そうともがきながら、涙目で睨み付けます。

 ああもう、どうしたら帰ってくれるんですか!?


 何でも、勇者様自身に本気で姫神様の討伐の意思は無いそうです。

 勇者様の方でも、今回の依頼が一部の暴走、勝手であったのはご理解頂けていた様です。

 ただあくまで仕事で来ているので、一度は剣を交えた、と言う事実が必要だったとか。


 それでも、今回の様に姫神様が暴走した際、私だけではどうする事も出来ないのは確かで……。

 重金先輩にも相談してみましたが、殿方が1人いてくれるなら安心、それが勇者様ならなおさら良い、と太鼓判を押される始末。


 結局、「何かあったら困るでしょう?」とばかりに、勇者様がこの大社に居候する事が決定したのでした。

 本当にコレ、どうしたらいいんでしょうか……。






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