其ノ三
私は重金先輩に連絡を入れ、状況を説明しました。後は上層部の結論待ちです。
奇妙な同居生活も折り返しを迎えた、そんなある日の事。
「ハア!?こんな寒い中外に出て遊べ!?何考えてるの!?ハ!さすが邪神様、下々には及びもつかない様な突飛な事をお考え遊ばします事!冗談でしょう!?こんな雪の中で遊んだら服が汚れちゃうわ!ぜーったいに、嫌!お断りよ!」
いい天気だったので、たまには外に出たらどうかと言ったのが間違いでした。
お互いに、少しは良い気分転換になると思ったのですが……。
「何じゃお主、ここへ来てからずっと自分の事ばかりではないか。何の為にここに来とるのか、そこんとこちゃんと分かっておるのかのう」
「何の為?そんなの決まっているわ。邪神を従えて、アタシが世界一強くて可愛いプリンセスになる為よ。光栄に思いなさい、アナタはこのアタシに選ばれた世界最強の邪神なんだから!」
「ふう、くっだらんのう。お主にこのわらわが使役出来ると本気で思うとるのか、馬鹿馬鹿しい。茶番はしまいじゃ。とっとと荷物纏めてこの島から出てゆくが良い」
「「なっ!?」」
ええっ!?ちょっと待って下さい!まだ本土から連絡来てませんよ!?勝手にそんな事言って良いんですか!?
「わらわはまほが良い。まほはの、わらわの言う事何でも聞いてくれるのじゃ。外に出て遊びたいと言えば、雪合戦でも雪だるま作りでも付き合うてくれる。でもわらわが我儘ばかり言うと、そこはちゃんと怒るのじゃ。わらわはそんなまほが良い。こやつはわらわだけの傍仕えの巫女じゃ。お主んじゃないわ。これ以上勝手にこき使うでない」
姫神様……。
「何よ、何よ何よッ!!そんなのただの下僕じゃない、メイドじゃない!言う事聞いて当たり前でしょ!?アンタの物はアタシの物よ!好きに使って何が悪いって言うの!?だってアタシが巫女なんだから!」
「お主に巫女は務まらん」
「どうしてよッ!」
「それはお主がお主しか大事にせんからじゃ。社も森も山も、土が付いたらキタナイと拒否しよる。まほなら一緒に山に入って、散歩にも山菜取りにも付きおうてくれるよ。お主はここには何もないと言いよった。じゃが、それはお主に見えないだけじゃ。そんな者にここの巫女は無理じゃよ」
そう言った姫神様は、少し悲しげに俯きました。
そうです、ここには姫神様の大切なモノ達で溢れている筈なのです。
最近はお客様にかまけてばかりで、その存在をすっかり忘れていました。
……今度お団子でもお供えしましょうか。
「やはり邪神は邪神ね、私達の素晴らしさを理解できないなど。でもエトワールちゃんに支配されれば、その傲慢な性格も少しはマシになるでしょう」
やっておしまいなさい、と母親の合図でどやどやと入って来たのは、黒い服の男達。
妙な符を掲げたり投げたりしながら、一斉に姫神様に向かってぶつぶつ唱え出します。
しかし、
「…………この、痴れ者共がっ!!」
どん、と大きな音と共に黒い男達も、お母様も、エトワール様も、皆壁際まで弾き飛ばされてしまいました。
「何より一番腹が立ったのはな、お主ら親子でまほをこき使ったせいで、わらわがまほと一緒に遊べなくなった事じゃ!!」
ぐらっ、と周りが揺れました。
貧血?いえこれは地震!?おっきいですよ!
「私なら大丈夫ですから、納めて下さい!」
地鳴りの音がします。
これ以上大きくなると危険ですよ!
「いやじゃ!これ以上こんな連中と顔を突き合わせ続けねばならんのは、もー我慢できん!」
ああああああああ、姫神様、いつもの姫神様に戻っちゃっています!!
「このままでは安全を保証できかねます!」
「くっ!!」
「このド田舎の野猿邪神!今に見てなさいよ!!」
結局この騒ぎで親子はそんな捨て台詞を残し、慌ただしく島を出て行ったのでした。
地震は親子が島を出て行くのを見届けた様に治まり、重金先輩の報告によれば、市街の方は特に大きな混乱も無かったそうです。
……まあ、慣れてますから。




