第九章 ツナイダテ
お願い…誰か来て…っ
ギュッと目をつぶったその瞬間――
「めぐ……?」
ガラリとドアが開けられ、晴夜くんの整った顔が覗いた。
晴夜くんっ、て言おうとしたけどやはり声は出なかった。
晴夜くんは私の泣き顔を見て何か察したらしく、私の額を優しく撫でてからナースコールを押した。
「どうしたんだよ」
晴夜くんは私の頬を伝った涙を拭きながら私の瞳を見つめてきた。
「身体は動かないし、声もでないの…」
声にならない声で必死に伝えようとした。
「…もう泣くんじゃねぇよ。ホントに動かねぇのか?」
そう言って晴夜くんは私の腕を軽く動かした。
痛くも何ともない。
でも、辛かったのは……晴夜くんの体温が感じられないってこと…。
神経が麻痺してるんだ。
私は何かを訴えるように晴夜くんを見つめた。
「自分じゃ動かせねぇみてーだな…。じゃあ、俺の手握ってみろ」
晴夜くんは私の手の上に自分の手を重ねた。
初めて触った晴夜くんの手も、今はその感覚すらない。
その手を握ろうとしたものの、うまく力が入らず、もどかしさが私を焦らせる。
――握りたいのに……
私はまた泣いてしまった。
それでも依然として、自分の手は言うことを聞かない。
「お前は身体は弱くても、心は強い…。少なくとも俺はそう思ってたぜ…、昔から……」
晴夜くんの手が私の手を握りしめた。
その瞬間、身体中の力がフワッと抜けた。
――あれ…?
戸惑って晴夜くんを見ると、晴夜くんは安心した顔で微笑んだ。
「…握れたじゃねぇか」
「…えっ」
驚いて握られていた手を見てみると、自分の手はしっかり晴夜くんの手を握り返していた。
初めて感じた、晴夜くんの温かい手…。
「晴夜くん、ありがとうっ」
無意識のうちに呟いた言葉が声になっていた。
「声も出たじゃねぇか」
そう言って晴夜くんは手を離すとふう、とため息をついた。
その直後、看護師さんが駆け付けてきた。
晴夜くんは状況を全て説明してくれた。
その後、お医者さんも来た。
私に話があるらしい…。
「ちょうど今日話そうと思っていたのだが…」
私は何故か胸がドキンと脈打った。
「昨日外出したのかね?」
驚き、焦り、そして、やっぱりって気持ちが駆け巡った。
「隣の部屋の千葉さんが、男の子がめぐちゃんを背負って出ていくところを目撃したと言っているのだが、本当かね?」
お医者さんの視線は真剣で、嘘はつけないと思った。
はい、私が我が儘を言ったんです、と言おうとした瞬間――
「…俺です。俺が無理矢理連れだしました……」
《第九章・終》