第八章 イキルカチ
花火が終わると9時を回っていた。
私たちは、晴夜くんのおばあちゃん家に向かっていた。
ちょっと、浴衣脱ぐの残念だな。
けれども、私はいつもの病服に戻ってしまった。
おばあちゃんから借りたカーディガンを羽織って車椅子に乗り、今度は病院への帰路に着く。
「おばあちゃん、優しい人だね」
「……」
「晴夜くん、おばあちゃんに似たんだね」
車椅子を押す晴夜くんの手が一瞬止まった。
「…晴夜くん?」
私は思わず振り返った。
でも晴夜くんは何事もなかったように平然と車椅子を押しながら、「お前、病気で頭までやられたか」と言っただけだった。
私はくすっと笑って前を向いた。
「ねぇ、どうして私を連れてってくれたの?」
これはかなり気になってたことだ。
「…見つからないように抜け出すとか、そういうスリルが楽しそうだったから。別にお前のためにとか、そーゆーんじゃねぇからな…」
「そっか」
私は今の時間がすごく幸せだった。
特に面白い会話があるわけでもない、この状況がすごく……。
私たちは、なるべく誰にも見られないように病室へと歩いた。
ベッドに横になると、どっと疲れが身体を襲った。
眠気でぼやける視界の中で晴夜くんの後ろ姿を見つめながら私は言った。
「私、毎日晴夜くんに会いたい…」
晴夜くんはチラリと私を見て、黙ったままドアへと歩いた。
いつもと違うのは、今日は睨まれなかったってこと。
私はその背中に「またね」って声をかけた。
「おぅ…」
小さな返事が私の耳元へ響いて、ドアが閉まった。
『絶対、明日も晴夜くんは来てくれる』
なぜかそんな気がした。
次の日。
私は目を覚まして焦りを感じた。
(身体が動かない…)
ナースコールさえも押せないのだから誰も呼ぶことができない。
声を出そうとしても掠れた音しか出ない。
(どうして…?どうして私の人生ってこうなの?)
ただ涙だけが頬を伝って枕を濡らす。
私が我が儘を言ったから?
規則を破ったから?
晴夜くんに迷惑をかけたから?
それの罰なの?
他の女の子はみんな、彼氏とかに我が儘言ったり迷惑かけたりしてるのに。
私はダメなの…?
私は普通の女の子みたいに普通の生活どころか、恋さえもすることが許されないの…?
こんな人生で……、私は生きてるって言えるの……?
もしも私に生きる価値があるのなら、誰か…誰か来てください……。
これが最後の我が儘です……。
《第八章・終》