第六章 クリカエシ
「おばあちゃん、ありがとうございました」
「いいのよ、これくらい。楽しんで来なさいね」
「はいっ」
私と晴夜くんは、おばあちゃん家を後にした。
「晴夜くん、浴衣……どうかな…?」
車椅子を押している晴夜くんの方を振り返ってたずねた。
「…さっきの病院の服よりはいんじゃね?」
晴夜くんは真っ直ぐ前を見て言った。
「もう、素直じゃないんだから」
口をぷぃと尖らせるも、なんだかだらしなく緩んでしまう。
会場に着くと、私たちは一番見晴らしの良い席に座った。
見晴らしが良いにも関わらず、人があまりいなく静かで、まさに穴場だ。
「…腹減ってねぇか?」
不意に晴夜くんが口を開いた。
「うん、ちょっと」
実際はかなり空いてたけど、本当のことは言わなかった。
「……買ってきてやるよ。何がいい」
私は驚いた。
いつも他人をコキ遣う晴夜くんが、他人のために動くなんて…。
「うーん、じゃあ、晴夜くんとおんなじのが食べたい」
「食事制限されてねぇの?」
「うん、今のところは」
すると晴夜くんはくすっと笑って屋台の方へ下りて行った。
無意識のうちに晴夜くんの姿を目で追っていた。
人ゴミに紛れてても、晴夜くんは一目でわかる。
それ程私は晴夜くんが好きなのかなって思ってちょっと恥ずかしくなった。
頬に冷たいものが当たり、私は目を覚ました。
いつの間にか寝てしまっていたのだ。
「寝てんじゃねぇよ」
晴夜くんは私の前にオレンジジュースの缶を差し出したまま言った。
頬に当たったのはこれだった。
「ごめん…」
私は缶を受け取った。
私が大好きなオレンジジュース……。
晴夜くん、覚えててくれたんだ…。
そして晴夜くんは、私の膝の上に焼きそばの入ったパックを乗せた。
「ありがとう」
晴夜くんは焼きそばが大好物だった。
なんか勿体なくて食べれない。
美味しそうに焼きそばを食べる晴夜くんを見つめていると、それに気づかれて睨まれた。
「冷めないうちに喰えよ」
「う、うん」
私はゆっくり焼きそばを口に運んだ。
凄く美味しかった。
晴夜くんが買ってくれたんだと思うと、さらに美味しく感じた。
食べ終わった頃にアナウンスが流れ、一発目の花火が大きく優雅に、そして華麗に、深い星空の中で弾けた。
昇っては美しく花を咲かせ、一瞬のうちに散ってゆく――。
その繰り返しが人の心を掴む。
花火は、私たちまでキラキラと明るく照らし、爆音を轟かせて2人を震わせた。
《第六章・終》




