第三章 センバヅル
いつもと同じ朝がやってきた。
ただ、異常な程に咳が出ること以外は。
「今日は学校休みなさい」
「やだ、行く」
私は学校に行きたかった。
というより晴夜くんに会いたかった。
お母さんの反対を押し切って、私はマスクをして家を飛び出した。
「あ、めぐ、風邪?」
「ううん、ちょっとね…」
晴夜くんがどうでもよさそうな顔で声をかけてきた。
大丈夫と言い張ったけれど、体調は悪くなるばかりだった。
そしてとうとう――
「ゲホゲホゲホ…」
歩けなくなってしゃがみ込んでしまった。
「おい、めぐ、しっかりしろ」
私は遠退く意識の中、必死で晴夜くんの服を掴んだ。
見捨てられたくない、という思いで…。
気がつくと病院のベッドの上にいた。
「あ、めぐ!!気がついたのね!!!!」
お母さんが抱き着いてきた。
「晴夜くんが救急車を呼んでくれたのよ。まったく、だから休みなさいって言ったのに」
「ごめんなさい…」
お医者さんが病室に入ってきてお母さんを呼んだ。
しばらくして戻ってきたお母さんは、暗い顔をしていた。
私には説明されないことと、お母さんの表情から、私には言えない難病でも患ったのだろうと悟った。
きっと、治療法は存在しない…。
「大丈夫、すぐに治るからね」ってお母さんも看護師さんもいうけど、もう私は子供じゃないから、そんな気遣いが逆に胸を痛くする。
入院してから2週間が経った。
今頃、晴夜くんは友達といるのかな、とか何食べてるのかな、とか、気づけば晴夜くんのことばかり考えていた。
会いたいよ…晴夜くん…
自然と溢れてくる涙は止まることを知らない。
「うえっ……ひくっ……んくっ………」
部屋に響く嗚咽がますます私を虚しくさせる。
泣いたって、どうにもならないのに…。
「また泣いてんのかよ、泣き虫だな」
聞き覚えのある声に顔をあげると、そこには晴夜くんの呆れた顔があった。
「晴夜くん……会いたかった…!」
私は涙を擦った。
「ふん、どーでもいーけどこれ、クラスの奴から」
渡された袋の中を見ると手紙と千羽鶴が入っていた。
今までいくつも千羽鶴はもらってきたけど、晴夜くんから渡されるのは初めてで胸が高鳴った。
「ありがとう」
「ったく、仕方なく俺が持ってきてやったんだから、このカステラくれよ」
晴夜くんは、机に置いてあったカステラの箱をあけながら椅子に座った。
「うん、いーよ」
なんで私泣いてたんだろ。
晴夜くんはちゃんといるのに。
確かに俺様で、周りのことはお構いなしだけど、私にとっては、私の家の隣に住んでる優しい幼なじみなんだ――
いつも近くにいたんだから……。
《第三章・終》