第十七章 モドカシイ
晴夜くんは私のベッドに近づいた。
その表情は少し怒っているようにも見えた。
「約束、破ったな…?お前は強い奴だと思ってたが、そうじゃなかったのか?……」
晴夜くんは膝をついて立った。
違うよ……、私は一生懸命……
「わかってるよ、そんくらい。お前はお前なりに頑張って自分の人生を生きようとしてたって…。健康な俺でさえ人生が辛く思えんだから、お前にとってはもっと辛かったんだよな……」
晴夜くん……。
私……。
「……手紙、読んだぜ……。これがお前が一番伝えたかったことか……?手が痺れて字が書けなくなるまでして俺にこれを伝えたかったのか……?」
……うん、そうだよ。
だって……
「実は俺、この前の試合、勝てるかどうか心配だった。でも、めぐが応援してくれてる声が聞こえたから、勝てた。…だからさ、ありがとうって言いたかったのに、何でお前、俺の顔も見ずに……」
晴夜くんは目を伏せた。
泣きそうになったからなのかな……。
私だって、生きてるうちにもう一度、晴夜くんに会いたかったよ。
でも……身体が……
「それともうひとつ、お前に伝えたかったことがある……」
晴夜くんは私の冷たい手を握りしめた。
私はその時、全身に衝撃が走るのを感じた。
……手の平に、晴夜くんの体温が……
私は半透明なその手でそっと握り返した。
優しい温もりが、冷たかった自分の身体に染み渡っていく……。
晴夜くんはその手を自分の額に当てて、言葉を続けた。
「俺も、お前のこと、ずっと前から好きだったって……」
え……?
私は混乱してしまった。
晴夜くんが、私を好き……?
そんなのありえないよ……。
「本当は直接言いたかった……。俺、なんつーか……、素直になれねぇから……、いつもお前のこと嫌いとか言ったり、冷たく突き放したりとかして、すんげー傷つけてたんじゃねぇかと思ってた。嫌われてたらどうしようかと思った……。でも、めぐも俺のこと好きだって伝えてくれて、……安心した……。バカだよな……、何、女から先に言わせてんだよ……」
晴夜くん、すごく悲しそうな顔してる……。
できることなら、手を動かして晴夜くんの頬をそっと撫でてあげたかった。
大丈夫、晴夜くんが私のこと想っててくれたってことだけで十分だからって……。
なのに、それすらもできないなんて、このもどかしい思いはどうすればいいの……?
《第十七章・終》