第十五章 オメデトウ
今日は晴夜くんの大会の日。
私の部屋には、今までにはないくらいたくさんの人が来ていた。
お父さん、お母さん、晴夜くんのおばあちゃん、近所の人たち……。
きっと、今日が私の命日になるかもしれないからかな……?
もし私が死んだら、晴夜くんとの約束を破ることになっちゃう。
もう2度と会えなくなっちゃう。
そんなの、いやだよ……。
お父さんとは昨日の夜仲直りしたけど、まだ何となく気まずい感じになってる。
だって、いくら2人が仲直りしたって、晴夜くんに会える訳じゃないから……。
「ねぇ、お母さん……」
私は、昨日書いた手紙をお母さんに託した。
「もしも、もしもだよ?私がこの世から去ることになったら、この手紙、晴夜くんに渡してほしいんだ。お願いしてもいい?」
「……わかったわ」
お母さんは少し涙目になりながら手紙を受け取った。
もう身体はほとんど自力では動かせなくなっていた。
視界もかすんでる。
もうここにはいられないのかな……。
でも、確実にその時刻は近づいてるんだ。
晴夜くんのおばあちゃんによると、晴夜くんが出る試合は、午前9時からが第一試合らしい。
10時に、会場にいる晴夜くんのお母さんから第一試合に勝ったとの報告があった。
第二試合は11時から。
たった今、その試合にも勝ったと連絡が来た。
残るは3試合。
次の準々決勝、準決勝を突破し、決勝を勝ち抜けば、晴夜くんは優勝。
そして私との約束を守ったことになる。
それに引き換え私は、症状が悪くなる一方で……。
晴夜くんに迷惑をかけるだけじゃなくて、裏切りもするの……?
そんなこと、したくなんかないのに、どうしても身体は言うことを聞かない。
ああ、神様助けてください。
せめて、晴夜くんに会うまではこの命が続いてください。
……できることなら約束を守らせてください……
……苦しい……
ちゃんと呼吸器をつけてるはずなのに、身体が酸素を拒んでるみたい……。
――晴夜くん、準決勝も勝ったんだ……。
次勝てば優勝だね……。
私はずっと時計を見つめた。
時間を刻む秒針に、ダンクを決める晴夜くんを連想する……。
小さい頃、よく見せてくれたダンクシュート。
華麗に宙を舞い、高らかにボールを掲げ、力強くリングにたたき付ける。
――ほら、今、輪をすり抜けたボールが地面で跳ね上がった……。
晴夜くんが着地するのと同時に、ブザーが鳴り響く。
試合終了
沸き起こる歓声が私の耳にも届くようだった。
晴夜くんのお母さんから報告を受けたおばあちゃんが、病室に駆け込んだ。
「晴夜、優勝したって!!!!」
喜び合うみんなを薄れていく意識の中で見ていた。
なんだかおかしいな……。
眠くなってきた……。
それでも私は声に出して言った。
「晴夜くん、おめでとう……。それと、……約束守れなくて……、ごめんね……。でも、晴夜くんのこと、……ずっと好きでいるから…………」
一生懸命言葉にした、晴夜くんへの想い。
それが、私の最後の言葉となった。
《第十五章・終》