第十三章 ワカラナイ
次の日も、晴夜くんのおばあちゃんは私の病室に来た。
晴夜くんからの手紙を持って。
「あの子から、めぐちゃんにって」
前と同じく、純白の便箋には、晴夜くんの字が並んでいた。
元気でやってるか。
ばーちゃんからいろいろ聞いた。
とりあえず、すぐ泣くのやめろ。
別に俺は遠くに行ったりしねーから。
ただ、大会を応援しろって言ってるだけだ。
だからお前も治せって、俺との約束だからな。
破んじゃねーぞ。
おばあちゃんに大事に引き出しにしまってもらった。
「晴夜くん、絶対優勝すると思うんです。だから、私もがんばって病気治さないと…。まぁ、治る見込はないんですけどね」
「そんな暗いこと言わないの。希望を持っていれば、絶対明るい未来が待っているわ。晴夜だって、それを望んでいるよ」
「……私だって、長く生きていたいんです。そして、ずっと晴夜くんのそばにいれたらなって……。でも、身体は重いし、言うこと聞かないし、呼吸はできないし……。もう、先が短いってわかってるから、晴夜くんには迷惑かけられないって……」
私、何回泣けば気が済むのかな……。
おばあちゃんにだって迷惑かけてるのに……。
「こんなとき、晴夜ならなんて言うかしらね……。素直じゃないから、ほんとに迷惑だって言うかしら。……いえ、きっと、だったら甘えればいいって、言うんじゃないかしら」
おばあちゃんの目にも涙がたまっていた。
私に気を遣っているの?
それとも……。
「おばあちゃん、私、もっと晴夜くんに甘えたい……」
「うん、うん……」
おばあちゃんは、泣きじゃくる私の額を優しく撫でてくれた。
晴夜くんを思い出す、あの感覚……。
私は晴夜くんに返事を書きたかった。
でも身体が思うように動かないので、おばあちゃんに代わりに書いてもらうことにした。
晴夜くんとの初めての約束だから、絶対に守るよ。
ずっと応援してる。
それしか、私にすることはないから。
私が病気治したら、また会ってほしいな。
そしてまた、一緒に学校に行きたいな。
晴夜くんなら、絶対に勝てるって信じてるから。
おばあちゃんは帰っていった。
もう今頃、手紙は晴夜くんの元に届いたかな。
晴夜くんはどう思ってるのかな……?
私の手紙を
私の想いを
私のことを……
まだ夕方で、夕日が西に傾いているだけ。
晴夜くんはまだバスケの練習やってるのかな。
晴夜くんはどう思ってるのかな……?
世の中、わからないことだらけだ。
自分の気持ちも、好きな人のことも、自分の人生も、……いつまで生きていられるのかも……。
死んだら、全てがわかるのだろうか……。
《第十三章・終》