第十一章 サヨウナラ
やがて自力で呼吸ができなくなり、私は呼吸器をつけなければならなくなった。
晴夜くんとはあれから会っていない。
定期的にお医者さんや看護師さんが来るだけで、家族は誰も来なくなった。
身体も重くて、簡単には起き上がれない。
――あの日から、3週間は経っただろうか。
もう会えないのかな、……一生…
コンコン
窓をノックするような音が聞こえ、私は驚いて視線をそちらに向けた。
恐る恐るカーテンを開けると、近くの木にカラスがとまっていた。
「なんだ、カラスか」
カーテンを閉めて横になろうとすると、また同じ音が聞こえた。
「もう、うるさいな」
勢いよくカーテンを開けると、カラスは飛んでいった。
が、そこにいたのはカラスだけではなかった。
「晴夜…くん…?」
後ろを向いていて顔は見えなかったけど、間違いない、晴夜くんだ。
私は窓を開けた。
すると晴夜くんは横を向いたまま、私に紙を渡した。
「手紙…?」
呆気にとられていると、晴夜くんは既に立ち去ろうとしていた。
「あ、待って!!声を聞かせて!!!顔を見せて!!!!お願い!!!!!」
晴夜くんはこっちを振り返らずに言った。
「俺とお前は、会っちゃいけねーんだよ、…二度と…」
強い風が吹いてきて咄嗟に目を閉じると、もう晴夜くんはいなくなっていた。
私はベッドに戻って晴夜くんからの手紙を読んだ。
白い便箋に並ぶ、達筆。
めぐへ
俺のせいで家族と気まずくなったみてーで、悪かったと思ってる。
俺はもうお前とは会えない。
ま、別に会う必要ねーけど。
そういえば、今週の日曜に部活の大会がある。
絶対優勝するから、お前は病気治せよ。
さよなら
瀧澤晴夜
気がつくと、真っ白い紙のほとんどが濡れていた。
さよならなんて、そんな言葉、知りたくなかった。
頑張って病気治すから、だからお願い、さよならなんて言わないで…。
私は震える手で晴夜くんに返事を書いた。
自分の気持ちを素直に…。
晴夜くんへ
晴夜くんには、本当に感謝しています。
花火大会も、この前のことも、それから、普段も。
晴夜くんが私の幼なじみで、本当によかった。
いつもありがとう。
また、晴夜くんと会える日を待っています。
諸星愛萌
私はそれを大事に引き出しにしまった。
どうせ、渡す術がない。
この手紙がとどかなくても、私はさよならなんて思ってないからね…。
って、それすらも伝えられないんだから……。
《第十一章・終》