第十章 トドカナイ
私は耳を疑った。
何言ってるの、晴夜くん…?
悪いのは全て私なんだよ…。
って言おうとしたけど、晴夜くんの鋭い視線に刺されて、言葉が出せなかった。
「その男って、俺です。だから、責任は全て俺にあります。めぐは何も悪くない。だから、めぐを責めないでください」
「君はどんなに重大なことをしたのか分かってるのかね!?めぐちゃんの命を削ったことになるんだぞ」
「分かってます。…でも、あんなに羨ましそうに外を眺める奴をほっとくなんて、できますか。少しは普通の女みたいな生活をさせてやりたいって思うのは罪なんですか」
私は目を丸くして晴夜くんを見つめた。
そこまでして私のことを…?
もういいよ…、と言いかけたそのとき、
「めぐ!!?」
勢いよくドアが開き、お父さんとお母さんが飛び込んできた。
「どうしてこんなことに…?」
お母さんが私を抱きしめて泣いた。
お医者さんがチラリと晴夜くんを見遣った。
その視線に気づいたお父さんが突然大声をあげた。
「晴夜くん、君か!!!!めぐを殺しかけたのは!!!!!」
晴夜くんの胸倉につかみ掛かろうとしたお父さんをお医者さんと看護師さんが慌てて止めに入った。
「違うよ、お父さん!!!」
懸命に声を張り上げるも、お父さんの耳には届かない。
「お前のせいでな、めぐは、めぐは…」
「止めなさい、お父さん!!」
お母さんの声すらも届かないほど、お父さんは興奮しているらしい。
「もう、お前はめぐの前に現れるな!!!!!!!」
「止めてって言ってるでしょ!!!!!!!!!!!!」
私は声が掠れるほど叫んだ。
やっとお父さんに届いたらしく、落ち着きを取り戻した。
「晴夜くんは何も悪くないの…。悪いのは――」
「すみません、帰ります…。…じゃあな、めぐ……」
晴夜くんは私だけに視線を送って、静かに出ていった。
バタン、と閉まったドアと同時に私は絶叫した。
「どうして!!!!!!!!?晴夜くんは私が悪いのにかばってくれたんだよ!!?それなのに…!!もう私の部屋に入らないで!!!!!!!」
私は布団に潜って、皆を睨んだ。
お父さんは申し訳なさそうな顔をして部屋を出ていった。
それにつづいて、全員が部屋を後にした。
静けさだけが残った部屋で、私の嗚咽だけだ響いた。
皆わかってない…。
私の一番の支えが晴夜くんだったってこと。
その支えがなくなった私はもう…。
私の症状が悪化したのは、その数日後のことだった。
《第十章・終》