~ランチは宙を舞い~
「はぁ~やっと追いついた・・・。ナノ早すぎ!」
マキはまだ愚痴っている。
ここで、詳しく説明しときたい。
アンドリンナ・ラウ・ナノは、金髪に赤色が混ざった、オレンジ色の髪に天然パーマが掛かった、ショートボブヘアの、元気な十四年生(中学二年生)の少女だ。
いたずら運動、戦闘、破壊が得意の体育会系で、頭は究極に悪い。
「あっはは、まあそう愚痴るなって!」
「まあそうだね、うちはナノより何百倍も頭いいし。」
グサッ
「う、なんか心に刺さった」
「冗談だって!いや、冗談じゃないか、ナノバカだし。」
と、かわいい顔でドスい事を言うシャルル。
「うぐっ!またなんか刺さった」
シャルルは、ボイスラインのS級に入るのが夢だ。そのため、きつい事をズバズバと言う。
「嘘嘘!でも嬉しいな、効果があって。」
「いくらボイスライン目指してるからって、あたしを実験台に使うなよぉ」
「あはは、うちも新アイテムを作るのが夢だから。ナノも色々と実験台になってね。」
と、マキ。
「ひど! 何ちゅー極悪人だ! でも・・・二人ともがんばってね!」
ナノは笑顔で言った。
『ボイスライン』とは、声色や言葉で相手を騙し情報を得たりする。
とても頭を使う仕事。ナノには、まず無理な仕事だ。
『アイテム』とは、小型トランシーバーなどの物。
追跡や戦闘にやくだつ物。不器用なナノには、これも無理な仕事だ。
「あたしは戦闘系の仕事に就く!でも、武器派のは無理。」
「あれ難しそうだもんね。」
「うん。あたしは少しアイテムを使いながら、自分の力で戦うのが好きなの。」
「まあそれだと、至近距離しか戦えないけどね。」
「う、キツイとこさしてくるね・・・。」
「あははは」
ナノ達は、朝食を食べるため、部屋を出た。
一時間目は数学。 スパイでも、常識的な勉強はしなくちゃならない。
午後からは、自分の進む仕事の勉強。
シャルルだったらボイスラインの勉強。
マキだったら、新アイテムの研究。
ナノは、戦闘と、アイテムの使い方の勉強。
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リリリーンッ
朝食の販売を知らせるチャイムが鳴った。
「早く朝食食べようよ~もうお腹ぺこぺこ。」
ナノは、お盆にのったランチを、五セット買った。
「相変わらず、ナノのお腹は構造が違うね。」
「うんうん、ナノはきっとおかしいんだよ。」
マキとシャルルが、五つのランチを器用に持っているナノを見て言った。
「違うよ、マキとシャルルがおかしいんだよ朝はお腹減るじゃん。」
ナノは、少し遠い席まで、歩きながら言った。
そのとき、気取った顔のレオがランチルームに入ってきた。
面白くないナノ。
するとレオと目が合った。レオはナノが見ているのに気が付いて、ふんっと鼻で笑った。
「何だよっあいつっ」
ナノが不機嫌な顔をしてレオの近くの席に座ろうとしたときだった。
レオの方ばかり見ていたものだから下を見るのを忘れていて、椅子に足を引っ掛けてしまった。
「うわわわーっ!」
ナノは、顔面から倒れた。
ナノの五つのランチは宙を舞い、確実に、レオを狙った。
「うわ!」
レオが、避け切れなく、声を上げた。
スープや麺にプリンなどがレオに襲い掛かった。
「あっ・・・。」
ナノは立ち上がってレオを見た瞬間、全神経を顔に集中させ、笑わないよう我慢した。
レオは頭に豆腐や麺、ご飯などをのせて、呆然と立ち尽くしていた。
なんとも言えない無様な姿だ。
「大丈夫?」
ナノは笑いをこらえ、震える声で言った。
レオは、ナノを思いっきり睨んだ。
「大丈夫な訳がないだろ・・・。」
レオは、ナノの胸倉を掴んだ。
「あはは・・・やっぱり?」
「あたりまえだっ」
レオはすごく怖い顔をしている。
(あらら、完全にキレちゃってるわ・・・。)
「お前・・・俺に何の恨みがあるんだ・・・。」
あくまで冷静を装っているが、レオの声は怒りで震えている。ナノは、チラッとレオの顔を見た。
その瞬間、我慢していた力が一気に抜けて、ナノは笑い出した。
「ぷっ!あっはははは!ほんっと変!」
そんなナノを、レオはぽかーんと見ていた。
「お前っ」
レオが我慢できなくなって、ナノを殴った。が、レオが殴ったのは、何もない場所だった。
「あっははは、パンチ遅っ!ほんと面白い!」
ナノは、レオが殴った場所の二メートルも離れた場所で涙が出るくらい、お腹を抱えて笑っていた。
そのとき、ゴスッ ナノのわき腹をマキが蹴った。
しかしナノには、くすぐったかっただけだった。マキは呆れ顔だ。
「ナノ、笑いすぎ。」
マキが、ナノを立たせた。
「あ、ありがと。でも本当に面白かった。」
ナノはそう言って、深呼吸をした。少し心が落ち着いてきた。
ナノは、レオを見た。とても冷たい目で、ナノを見ている。
「最低だ・・・。」
レオが、髪についた、麺や豆腐などをうっとうしそうにはらいながら言った。
「ごめん、でもあんただって悪いよっ」
「なんでだよっああ、コートが・・・。毎回そうだ・・・お前は、俺の邪魔ばかりするっ」
「はっ?何言ってんのっ」
「とぼけるなっ!お前は今まで、ずーっと同じクラスで、オレの実験や勉強を全て邪魔してきただろっ」
レオが、拳を握って言った。
「うわぁーナノすごいね、全部邪魔するなんて。」
「そんなに嫌いだったんだ。」
隣でマキとシャルルが言う。
「違う違うっそんなのやった覚えもない!」
ナノは両手と首を思いっきり横に振った。
「嘘を付くなっ七年生(小学一年生)の時、俺がもうすぐでE級に上がれるってとこで、お前が俺のわき腹を、くすぐったりしなければ・・・。」
「そんな事やったっけ?」
「他にもある!十年生(小学四年生)の時、ライアン試験の前日に、オレを試験に行かせないようにと、ボコボコに殴ったのは、今でも忘れないぞ・・・。」
「あ、そ、それは、イメージトレーニングをしていて・・・。」
ナノが言っても、マキとシャルルは驚いて、聞いていない。
「そんなに、レオ君の事嫌いだったんだ・・・。」
「試験に行かせないために、ボコボコとは・・・ナノもやるな。」
「違う!わざとじゃないって。」
ナノの声も、二人に届くはずがなかった。
「今日こそは許さない・・・こっちに来い。」
レオが、ナノの手を掴んだ。
「バイバーイ!」
「どんまい、うちらはゆっくりランチでも食べてるよ。」
「そうだ、まだランチ食べてないんだった・・・。」
ナノは、がっくりと頭を垂らしてため息をついた。
読んでくださって、ありがとうございました。