羽
小さな鳥籠は、私の世界の全て。
窓から覗く小さな月に、この世界がまだ生きている事を知る。
篭った金属音と、錆が擦れる音。
それは、今宵の夢が始まる事を突き付ける。
それが良い夢なのか、悪い夢なのか、私にはわからない。
過ぎるのを待つだけだから。
着飾られた、夢見る人形。
それが、私。
微笑んでいれば、これ以上は何も起こらない。
私は、望まれた事だけをしていればいい。
人形に求められているのは、人形である事だけだから。
そう教えてくれたのは、鳥籠の中で起きた、これまでの記録。
それは、長い年月と共に、痛みという物語で、私に刻まれた事実。
ただ、夢を見る。
それだけの為に、存在している。
私が、アンティークショップに並ぶ日まで。
使い古せば誰かに売ると、そう言われてきた。
品定めに来る無数の目に、それが近い事を悟る。
その事にさえ、何も感じない。
騒がしい朝。
でも、世界の様相が鳥籠に届く事はない。
だから、それに気づく事はなかった。
いつもと違う時間、いつもと違う足音、いつもと違う勢いで、鳥籠の扉が開かれる。
驚く私の眼に写ったのは、私の知らない人。
荒れる呼吸と、赤く汚れた服と、手に持つ刃。
あなたの佇まいを見た私は、私の足跡の終わりを感じた。
ここで、壊される。
でも、そうなる事に、恐怖も覚悟も無かった。
初めから、私には何も無いから。
そう思っていた。
なのに、あなたの言葉に、私の胸の奥にある小さな塊が、大きく揺れ動いたの。
あなたの口から紡がれた言葉は、とても温かくて、とても力強くて、私に心がある事を思い出させてくれた。
助けに来た。
あなたの目を見る度に、思い出す言葉。
私と鳥籠を繋ぐ枷は、あの日、私の両手足を手放した。
あなたの優しい想いによって。
私は、これから羽ばたける。
この大空の下で、私は自由を得た。
だけど、私は飛び方を知らない。
行き交う人々の笑顔の彩りを知り、虚無な私との違いに、雫が頬を伝う。
私にも、涙がある事を知った。
そして、それを拭ってくれる優しい手の温もりを知った。
あなたがくれた、たくさんの贈り物。
飛べない私を、背負ってくれる。
大空の下で、想いのままに生きる幸せを教えてくれる。
世界が、こんなに綺麗だと見せてくれる。
そして、何より大切な事に気づかせてくれた。
あなたは、私の王子様。




