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墓前

作者:

 こうして墓の前に立つのは初めてだ。

 線香と花の臭いだけが漂う。

 

 あの人はここに眠っていると口を揃えて云う。

 

 石に水をかけ、線香に火を着け、祈り、去る。

 哀しくなどない。

 ここにあるのは石だ。花だ。線香だ。骨だ。

 哀しくなどない。

 どこかで見ていてくれているならそれでいい。

 こうしてあなたの仮の姿を見ているのだから、どこかで見ていてくれてもいいだろう。

 

 曇り空に猫がどこかで鳴いた。

 

 なぁご。

 

 そろそろ、ざっと一雨きそうだ。

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