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ダンジョンにはTSがつきもの  作者: 炭水化物は飲み物
邂逅

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2/2

目覚め

 意識が戻ったのは、冷たい床の感触の中だった。


 石の硬さでもない。土のざらつきでもない。

 もっと人工的で、均質で、整いすぎた感触。


 何より、湿気がない。


 ゆっくりとまぶたを開く。

 最初に視界へ飛び込んできたのは、白い天井だった。


(……天井?)


 上体を起こす。


 痛みはない。

 疲労も、傷も、何も残っていない。


 むしろ妙に軽い。身体の感覚が、どこか根本から違っていた。

 呼吸ひとつ取っても、肺の動き方が妙に滑らかで、馴染みがない。


(……どこだ、ここ)


 周囲を見渡す。


 そこは見慣れているようで、決定的に違う“自分の部屋”だった。

 畳ではなくフローリング。真新しいベッド。壁に掛けられた複製画。

 配置そのものは前世の自宅によく似ているのに、細部だけが微妙に噛み合っていない。


 窓の外には東京の街並みが見えた。

 高層ビルの影が、午前の光の中で静かに伸びている。


「俺の部屋……か?」


 独り言は、そのまま静かな室内に溶けていった。

 自分の部屋にしては、綺麗すぎる。


 だが、それ以上に違和感を覚えていたのは、自分の身体だった。


 呼吸の深さ。

 重心の位置。

 筋肉の反応。

 皮膚の感覚。


 すべてが微妙に違う。


 そして――細い。


 布団をめくった瞬間、視界に入った脚は、しなやかで、妙に艶めいていた。


(……女の脚?)


 次に気づいたのは、胸元の違和感だった。

 明らかに、膨らんでいる。

 何もつけていないはずなのに、肌の質感そのものが違う。


「……は?」


 ベッドから降りる。

 少し足元が頼りない。だが転ぶほどではない。

 そのまま洗面所へ向かい、鏡の前に立った。


 目の前には、見知らぬ少女がいた。


 黒と赤の混じる長い髪。

 小さな顔の中に、整いすぎた輪郭とパーツが静かに収まっている。

 白く、透けるような肌。

 濃く長い睫毛。

 深く吸い込まれそうな黒い瞳。

 ほんの少し口角が下がった無表情気味の顔立ちが、かえって凛とした印象を強めていた。


 ノースリーブのニットが肩と胸の線をくっきりと拾い、

 その下には、細いだけではない、しなやかに引き締まった脚が続いている。


 無言のまま、鏡の中の“自分”と見つめ合う。


 数秒。


 やがて、唇がわずかに動いた。


「……可愛いな、俺」


 鏡の中の少女が、ほんの少しだけ口元を緩めた。


 頬を指先でなぞる。

 肌理の細かさに、思わず感心する。

 鼻筋も、輪郭も、耳の形まで妙に整っていた。


「俺が今まで見てきた女の中でも、このレベルはいなかったぞ」


 さらりと零れた言葉に、恥じらいも躊躇もなかった。

 照れるという発想自体がなく、ただ客観的な事実として評価しているだけだった。


 鏡の前で髪を片手にまとめる。

 高い位置で結い上げ、簡単なポニーテールの形を作る。


 首筋が露わになり、黒の中に混じる赤がちらりと揺れた。


「ふーん。こっちの方が戦いやすそうだな。……見た目も好きだ」


 動きやすさを理由にしながら、視線は自然と首筋から鎖骨へ落ちていく。

 その途中で、鏡に映った自分の表情が、わずかに綻んでいることに気づいた。


「……うん、いいじゃん」


 乾いた声でそう言って、ひとつ笑う。


 誰に向けたものでもない。

 それでもその微笑は、まるで世界でいちばん気に入るものを見つけた人間の顔だった。

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