例えば雨の日
例えばの話をしましょう。
あなたは雨に濡れている見知らぬ人を見つけたら、どうしますか?
心優しく傘を貸せば、あなたは濡れる。
見知らぬふりをすれば、誰かが濡れる。
僕なら……どちらも面白い。
傘を貸して、僕に頭を下げる姿を楽しむこともできる。
無視して、じっと濡れて震えるのを見届けることもできる。
でも、もしその人が……自分の恋人だったら?
たぶん……僕は手を伸ばすだろう。
優しく、傘を差し出すフリをして。
けれど、その手に握られているのは、安易な優しさではない。
僕の意志だ。
愛する者のすべてを掌握するための……意志。
雨は止むことなく、心はざわつく。
濡れた体の震えが、僕の胸を熱くする。
迷いはない。
傘が開いた瞬間、すべては僕の支配下に置かれる。
優しさの仮面をつけた瞬間、僕には見える。
恐怖と愛情は、紙一重。
僕の手に握られる傘は、守るものでも、逃がさないものでもある。
濡れるのは僕だけではない。
二人で、雨の中、互いの存在を確かめる――そんな気分で。
愛情とは時に、残酷だ。
相手を思う気持ちが、所有欲に変わることもある。
僕は傘を差し出す。
手を伸ばすその瞬間、支配も愛も、同時に握りしめている。
そして知るのだ。
誰かを思う気持ちは、時に、恐怖よりも強く、絶対的であることを……。
雨はまだ降っている。
でも、もう恐くはない。
恐怖は僕の味方だから。
歩み寄る距離。
雨粒が肩に落ちる感触。
互いの視線が絡み合う瞬間、胸がざわつく。
この静けさの中で、僕は考える。
どこまで近づけば、相手の心を完全に掌握できるか。
どこまで見つめれば、恐怖を与えつつ愛を伝えられるか。
傘の下で、濡れた髪が額に張り付く。
息遣いが混じる。
その混ざり合う湿気に、僕は興奮する。
手を差し伸べたまま、そっと距離を詰める。
相手は一瞬、戸惑う。
その瞬間が、僕にとってはたまらない。
愛は、僕にとって、ゲームだ。
支配する楽しみ。
恐怖で支配しつつ、愛で縛る。
そして、絶対に離さない。
雨はやがて強くなり、地面に叩きつける。
でも、僕らの世界はその音に覆われない。
傘の下に閉じ込めた時間が、全てを支配する。
僕は笑う。
傘の中の小さな世界で、二人は僕の意志に従っている。
濡れるのは身体だけではない。
心も、少しずつ、僕に染まっていく。
この雨の夜に、僕は知る。
誰かを思う力は、時に愛よりも恐ろしいほど強くなることを。
そして、恐怖さえも、愛の一部になることを……。
雨はまだ止まない。
でも、僕の胸は、確かな満足感でいっぱいだ。
支配も、愛も、恐怖も――
すべて、僕のものだから。
さて、今日は雨の話でした。
傘を渡すか、渡さないか。
濡れるか、濡れないか。
あれは、誰もが抱える心の雨のようなものです。
恐怖や不安、嫉妬、愛情――
私たちは日々、その雨に濡れながら生きています。
誰かに優しく手を差し伸べると、自分も濡れる。
時には痛みや迷いも伴う。
でも、差し出す手は、必ず心を少し温かくする。
そして、時には私たちの心の中に潜む“影”と向き合う必要もあります。
自分の弱さ、欲望、怖れ……
その影に向き合い、受け入れることで、人は少しだけ強く、優しくなれるのです。
雨は止みます。
傘を差すか迷ったあの日も、
結局、あなたの手に握られたのは、ただの愛と気づきです。
だから、思い出してください。
傘は、ただの傘。
雨は、ただの雨。
でも、どちらも、あなたが選ぶことで、世界を少しだけ変える力になるのです。
この作品は朗読会、Lunask Act3で使用した台本です。
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