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贈り物


  

 2026年7月5日 13時45分


 この日、人類の未来が変わる出来事が起こった。

 連日報道される番組では“彼等”の事が伝えられ、それは太平洋沖に昨晩未明、突如出現した事が告げられている。

 その報道ヘリが映し出す映像では、洋上に浮かぶ六角形の人工物が浮かんでおり

 それを指さし、興奮気味に話すリポーターの姿が非常に印象に残っている。

 スタジオに戻った映像の中でもコメンテーターを含めた大の大人達が皆はしゃいで、席から立ち上がるものもいる有様だった。


 更にSNSやネット上も大盛り上がりで

 既に各国政府が接触を図り、交渉を進めているとの情報も散見していた。

 そこでは“未知の技術”や“構造学的に不可能”などといった言葉が行き交い

 その洋上に存在する人工物を指して様々な議論が巻き起こっていた。


「“彼等”は、地球外から来たに違いない——この星を侵略しにきたのだ」

 これはある報道番組に出ていたコメンテーターである、何処かの編集者の言葉だ

 ——何を馬鹿な事を

 その時の俺は、余裕がなくあまり関心が持てなかった。

 仕事、私生活と色々な問題を抱えていたからだ

 その時も直ぐにテレビを切り、身支度を整え部屋を出ていく。

 それから半年後、彼らは去っていったのだが

 その時に残していった爆弾が、その後更に世界を騒がせる事を俺達は誰も知らなかった。




 2027年1月13日 15時20分


 この日、半年前に突如現れた事で世間を騒がせた“彼等”が元の場所へ帰還するという話題

で街は賑わっていた。

 昭和さながら駅前の大型モニターの前では人だかりができており、サラリーマン風の人達の中に奇天烈な衣装を身にまとい、プラカードを持った色物な者達もチラホラと交じっていた。

 だが、目的は皆同じでこれから行われる中継映像を観ようとこうして集まって来ているにほかならない。

 

 これから、その“彼等”からこの時代の人類に向けてお別れの演説が行われる事になっている。

 その場に集まった者達が映し出される映像を見つめる中、ついに演説が開始される。

 

『皆さんご覧ください、今記念すべき瞬間が訪れます——』

 人々を惹きつける前置きと共に映し出された映像は、豪華な式典会場で正面には巨大なモニターが吊り下げられ、その下には多数の椅子に座った各国の要人たちが此方へ向かって座っている。

 そして映った映像は、その中央に置かれた演台へ向かい、一人の男性が歩いて向かっている場面であった。

『おはよう——“未来の我々”』

 通りの良い声で話すのは端正な顔をした所謂ハンサムな40代程の男性で、大衆に向けた綺麗に作られた笑顔を向け、語りかける。

『おっと——皆さんにとっては私達が“未来の我々”ですか』

 そう言う男は周囲を大きく見渡し、最後に背後に座る各国の代表達に目を向ける。

 するとそこで少しばかりの笑いが生まれ、それを確認すると、満足したように再び正面を向き演説を再開し、感謝の言葉を述べ始める。


 その様子を駅前のモニターに映し出される様子を広場で見ていた人達は、大いに盛り上がり

 まるで自らがその場に居て歓声を届けんばかりに歓声を上げていた。

 そんな中、別々の位置に居る2人の男女だけはただ静かにその様子を伺っている。


 男性の方は厚手のジャンパーを羽織っており  ジーンズにキャップを深く被るという身なりで、背筋も曲がり何処かやさぐれたシルエットをしている。

 例えるならフラッと散歩に出かけたついでに通りがかったといった雰囲気の若者だ


 一方変わって、女性の方はというと

 ピシッっときめたリクルートスーツに身を包み、綺麗に伸びた背筋から自信に満ちた様子が漂ってくる。

 そしてメガネを掛け、その奥からは鋭い目がモニターを睨んでいた。


 そんな2人が人混みに混ざり見守る中、モニターに映る演説を続ける男の言葉に、人々がワッと声を上げ始める。

 それは映像に映り込んだ各国の代表と思われる人物達も同様で、思わず席を立つ者、直ぐに秘書に耳打ちを行い始める者

 反応は様々であったが、彼らの目からは共通の感情を読み解くことが出来る。

 

 それもそのはず、未来人を名乗る集団の長が放った言葉は、人々を歓喜させるのに十分なものであったからだ

 この時代の人々は皆目を輝かせ、彼の言葉を傾聴し始める。

「これまでの感謝の気持ちとして私共から、皆さんへ贈り物をする事にしました」

 こう切り出した男は一呼吸置き

 次に少し声量を増して続ける。

「——未来の技術を“無償で”貴方達に差し上げます」

 

 その瞬間、傍聴していた者たちの歓声が最高潮を迎える。

 未来人の代表を名乗る男が説明を続けているもののその声はかき消されて聞き取ることがもはや出来ない

 その場に立っているだけで歓声の圧で倒れ込んでしまいそうな熱気の中、やはり2人の人物だけは冷ややかな視線をモニターに送り続ける。

 そして、離れた場所にいる互いの名前も知らない2人は、タイミングを合わせたかのように同時にボソッと言葉を零す。


「……うさんくせぇ」


 2人の男女から自然と零れ出たその言葉は、誰の耳に入ることもなく、直ぐに歓声にかき消されてしまう

 そして男の方は、大きく口を開け欠伸をしながら歩き始め、人混みを強引に押し分け進んでいく

 女の方も携帯端末で何かを数秒打ち込んだ後、サッと襟元を正して人混みをスルリと抜け駅の中に消えていく


 2人が去った後

 当然そのような者がいることも知らない、モニターに映し出された代表の男は、大きく楕円型の塊を天高く掲げ、救世主如く仰々しくその名を告げる。

「これが“EGG’s”——諸君がいずれ我々に至るための——知恵の卵」

 大きな盛り上がりを見せる中、そこで会見は締め括られたのだった。

 


 2027年5月30日 11時20分

 

 日本政府施設のホールに一人の男が歩いて入ってくる。

 その男はパーカーにジーンズそして頭には、キャップを深く被り、この場所に似つかわしいとは思えない格好で、スーツ姿の者たちが行き来するホールを堂々と歩いて行く

 その足は一直線に受付所へと向かい、到着するやいなやカウンタ—に肩ひじを付く

「——未来技術庁へようこそ本日はどういったご要件でしょうか?」

 驚いた様子で受付の女性が男に告げるが彼は気にするでもなく、気の抜けた様に天井を眺めながら伝える。

「9時に呼び出されてた飯島しゅーごが来たって伝えてもらえる?」

「はい——え〜と……もう11時過ぎなんですが」

 直ぐに返ってきた返事に対し、一度スマートフォンを取り出し時間を確認した後、もう一度天井を見上げながら静かに言うのだった。


「……いい時間だし昼めし食って出直そうかな」 


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