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無情の無垢 リィン

白い影の主は、サーキアの心臓に弾丸を撃ち込むことができたことで、命からがら逃げおおせることはできた。まさか念のために持って出た物を使う羽目になるとは思いもしなかった。遠い遠い昔に、たった一つの銃弾しか無い物を持たされ、気がつけば知らない場所へと辿り着いていた。それはリィンにとっては御守りのような物だった。

突然の、あの恐ろしい攻撃から逃げ延びることができたのはよかった。

ただ問題は、修復だった。

サーキアから受けた攻撃で、顔面の破壊どころか、頭部が大きくえぐられてしまっていた。極限状況での本能なのか、サーキアは頭部を狙って集中的に拳を撃ちつけてきた。頭部を破壊されると致命傷であることを知られていたことに、リィンは驚愕した。

まさか、予見を知らせる行為である、欠片石(ペル)を授けに行っただけなのに、こんなことになろうとは。

ーーとにかく、生気を吸い取らねば。

リィンは剣が置いてある広間へ行くと、(ひつ)を開け剣に手を添えた。少しだけ、少しだけ…能力(ちから)が戻れば、これくらいの損傷ならすぐに治せる。

ところが、剣は一向に反応しない。欠片石(ペル)はまるでただの石ころ同然だった。生気を吸い取ろうと能力(ちから)を込めれば込めるほど、それはどこかへ消えてしまうように手応えがなかった。

ーー生気が吸い取れない。

「ウ、ウアアアァァアーッッ!!!」

突然のことに混乱し怒り狂ったリィンは、剣を持つと氷の柱へ打ちつけた。そして思い切り振り回した。

バキッバキバキッ……ガチガチ、ガチガチガチガチャーーッッッ!!

氷の柱は、次々と破壊され倒れていった。

中に入っていた者達もまた傷だらけになり、血と共に肉塊が広間に散乱した。

駆けつけたセグネードは、リィンへの加護なる気で惨状を一時的にでも隠すしかなかった。時が経てば、起源(ル・ルディーア)の者達なら気がつき傷も治すだろう。

それよりも…リィンのこの傷は…

リィンは飢えていた。近頃は、まともに空腹を満たすことさえできない日々が続いていた。長年、ずっと少しずつ、少しずつだけ分けていただく立場に甘んじてきた。それさえも、許されないとでもいうように、邪魔立てが入るようになった。

ーー私は、生きることさえ許されないのか?

苛立ちが高じて、遠くから聞こえてくるソナの歌声をやめさせようと、(アウィル)(ドゥレイフ)で話をしようとした。あの人魚はもう守り人はやらないと言って意味ありげに笑って言った。欠片石(ペル)はもういらないと。

そう、まるで自分の弱みを見つけたとでも言うように嘲笑った。

リィンはソナの不遜な態度とほくそ笑む表情に我慢がならず、両方の頭の髪を引っ掴むと力任せに海から引きずり上げた。悲鳴さえあげる暇を与えず、バッサリと喉をえぐるように裂いてやった。思わず血をすすりたい欲求を抑えて、爪に残った喉の肉を食べることで良しとした。

こんなことなら、半身ごと切り裂いて喰っておけばよかった。そうすれば少しは飢えから解放されたやも知れぬ。

皆、喜んで守り人をやってくれていたではないか。

ーーだから、私は、悪い生気を吸い取ってやった。

皆、何もせずばとうに失われていた命ではないか。

ーーだから、殺してくれと縋る者は楽にしてやった。

「わ、わたし…は、何か悪いことを…したのか?」

氷の床に我が身が映る。醜く崩れた顔面、もうまともに修復する力さえ残っていないのか、床に俯して呻くしか成す術がなかった。もういい、このまま朽ち果てても。

そうだ。やっと、『死』を迎えられるのだ。しかし、本能がそれに抗う。そんなに、簡単には死ぬことなど叶わないのだ。

手を伸ばせば、そこには起源(ル・ルディーア)の魔力に満ち溢れた血肉があった。

「おやめください。それならば、我々を思う存分食してください」

そこには一角獣(サイラス)族の者達が皆揃っていた。彼らはもう何千年とリィンに付き従い、リィンの苦しみを見てきた。

「もう、良いではないですか」

若い1頭が、横にいたもう1頭へ目配せした。

ーードスッ!!

鈍い、何かを貫く音と共に、リィンの目前へかぐわしい血肉が供せられた。リィンは完全に理性が消え失せた。無垢なる少女は、ただただ飢えを満たす純粋な存在となった。

一角獣(サイラス)族の者達には、一切の迷いがなかった。こうなる運命を予期していたかのように、次々とリィンの前へと向かって歩み寄っていった。血と肉の海の中でリィンはひたすらに貪り食べ、みるみるうちに美しく輝きを取り戻していった。

生まれたばかりの純真な赤子のように、ただひたすら乳をせがむよう、飢えを満たしていった。

「これで最後となります。存分にお召し上がりください」

立派で一際長く鋭い角で、自らを傷つけリィンの前に歩みでたのはセグネードだった。リィンはこれ以上ない至福の表情で最後の1頭を、無我夢中に食し続けた。

「リィン、私達は、あなたの血となり肉となり、力となって一緒に生きていくのです。あなたは孤独(ひとり)ではありませんよ」

セグネードは知っていた。リィンの嘆きを。無論、セグネードだけではなく、意識を共有する一角獣(サイラス)族すべてが。リィンの生まれ落ちてからの悲しみと優しさを知っていた。

リィンは生粋の魔鬼(クスラィル)だった。気がついた時には、乳の代わりに血を飲み肉を喰らい、生気を吸った。美しい花々も手に取ればすぐに枯れてしまった。愛した森の生き物達でさえ、触れることは躊躇われた。

ただ唯一、彼女が触れる時は、これ以上の苦しみを取り除いて、安らかな死を迎えさせて安楽の時を与える時のみだった。何も怖くはないのだと、今までよく生きたと、褒めながら儚く尊い命の終わりを見守ってきた。つぶらな瞳が信じ切って我が身を彼女に任せる。そうして、彼女の心は張り裂けんばかりに泣き叫びながら、辛い記憶も一緒に吸い取り、安らかな死を与えた。

リィンはいつも独りだった。大きな戦争があった。母と思しき女性は自分を守って戦いに巻き込まれていった。魔鬼(クスラィル)の自分を隠れて育ててくれた人狼(ブレィジン)の女がいた。彼女はある日、自分を逃がすと二度と帰らなかった。戦争は何も、魔鬼(クスラィル)人狼(ブレィジン)とばかりではなかった。凡庸者(カノ・クディオ)もまた、自分達だとて生きているものの命を刈り取り生きているのに、魔鬼(クスラィル)だと知れるとまるでおぞましいものを見るような目つきになった。

ただ、これだけは……。

「私は一度たりとも、自ら望んだことはなかった。誰かの命を奪うことなど…たとえ花一輪であろうと、手折ったことはなかった」

無情にも、それは許されない。手折らねば、生きてはいけない。

一角獣(サイラス)族が身を呈して護りたかった無垢なる生き物が、血の海の真っ只中でひたすら泣きながら、最後の一雫までも指先から吸い尽くしていた。


真っ先にサーキアの死を感じ取ったのは、《竜の島》に一人残っていた祖母であった。それから後に、起源(ル・ルディーア)にいる母親が気づいた。

サーキアの胸を撃ち抜いたのは、手製の銀の弾丸だった。追いついた仲間達に担がれて、事切れたサーキアの遺体はひとまず《昼闇の森》のサーキアのテントへと運ばれた。

いくら塞ごうとしても胸の傷口は塞がることはなく、おびただしい血が流れるばかりだった。物見の女はすがりついて号泣していた。沈痛な重い空気が森を覆っていく。

そこへ、《竜の島》から元首長であるサーキアの祖母がやってきた。彼女はサーキアの胸の傷と、取り出した銃弾を見て、大きなため息を吐いた。

魔鬼(クスラィル)かのう。古い、古い銀の弾丸だ。いくら不死身とはいえ、これを心臓に撃ち込まれては助からん」

「サーキアが死に際に掴んでいた髪の毛です」

サーキアと共に白い影を追っていたうちの一人、又従兄弟の男が、首長に髪を渡そうとすると、彼女は首を振った。

「おまえは、それを持ってシムルグの元へ行け。赤子と妻の様子を見て来い」

すると、そこへサーキアの母親が到着した。

取り出された弾丸を見せられると、彼女は膝から崩折れた。それが意味するところを瞬時に理解したからだった。

サーキアの胸から取り出された弾丸は革の袋に入れられ、まずは首長が預かることにした。これはアクシーへ報告しなければならない事件であった。

まさか、この(くに)魔鬼(クスラィル)がいようとは、だがそれはまだ憶測でしかなかった。

次元(リム)(ドフ)に向かったワーウルフは、まず子供と妻の無事をタケルに感謝した。その姿は、革製のプロテクターには血痕を拭いたのだろう赤黒い染みがあった。同じように鬣にも血を拭った跡があった。

「サーキアは?」

真っ先にタケルの口から出たのはサーキアの無事を確認する言葉だった。

男の手に握られていた髪の毛を見て、タケルは嫌な予感がしていた。

「これは、死に際にサーキアが掴んでいた…」

「なん…て?」

ーー今、なんて言った?

「サーキアは魔鬼(クスラィル)との戦闘で…」

「ウソだっ!!」

ーー死?

あのサーキアが、死んだ?俄かには信じ難く、タケルは茫然と座りこんだ。

ちょうどそこへアクシーが戻ってきた。《昼闇の森》での騒動で、その周辺へ避難してきている他種族に動揺が沸き起こっていた。それを収めて、ワーウルフの元に寄ってから、アクシーは来ていた。

アクシーはワーウルフの男から髪の毛を受け取ると、一目でリィンのものだとわかった。ただただ沈痛な面持ちで、すまないと一言返すので精一杯だった。

男は首を振った。物見の女との話し合いを重ねていくうちに、サーキアは覚悟を決めていたようだった。だからこそ、タケルに赤ん坊と母親のことを頼んでいた。

すると、サーキアの死を聞かされ、茫然自失となっていたタケルが動いた。

立ち上がるとともに、凄まじい気のようなものがタケルを取り巻いていた。

「ウ…、ウ…、ゥワアアアーーッッ!!」

次元(リム)(ドフ)が大きく揺らいだ、まるで地面の底から力が湧き上がってくるような激しいものだった。シムルグが瞬間その力を抑えようとしたが弾き飛ばされ、アクシーもまた飛ばされつつ力を止めようと必死だった。

ーーサーキアッッーー!!!!!

そのタケルの力を、割れたフィンディの玉石(ペル)が吸い取るように飛び回ると、やがてすべてを吸い取り尽くし丸く元の玉石(ペル)となり、スポッとタケルの掌に落ちてきた。玉石(ペル)は光り輝き、まるで新しく生み出された魂の輝きを醸し出していた。

タケルはギュッとその玉石(ペル)を握ると叫んだ。

「フィンディーッ!!サーキアに、これをくれっ!!」

フィンディはシムルグにつかまりながら頷いた。

そこへディスカージェが来た。ヴァルも帰ってきて合流した。二人は谷中が大きく揺らいだ力の放出に驚きながら走ってきたのだ。それがまさかとは思いつつタケルのものだと知って押し黙った。

サーキアとリィンの戦闘による異常は、すでにクアドラルとラグナルダにも伝わっていた。誰がどう動くのか。それを見極める段階に入っていた。それよりも、二人はタケルの力の爆発を驚いていた。このまま放っておいてよいものか、ただ我が子達も一緒だろう、見守ることもまた大切なことだと、シムルグ同様動じずにいた。

サーキアの死を伝えに来た男は、あまりのことに思わず自分の妻と子を守っていたが、ハッと我に帰ると首長からの言伝をタケルに向かって大声で言った。

「一族の掟によって、魔鬼(クスラィル)との戦闘で死んだ者は今夜中に火葬にする」

「火葬…って…」

無言で髪を持つアクシーの手首を掴んだ。

「コイツがサーキアを…」

「タケル」

タケルから再び怒りが爆発しそうになった時、シムルグが声をかけた。ずっとシムルグからの視線を感じていたタケルは、爆発して暴走しそうな力を必死に抑え込んでいた。タケルはシムルグと目と目を合わせて強い口調で言った。

「二人を頼みます。行ってきます」

タケルはワーウルフの男と一緒に(ドフ)を後にした。アクシー達3人も顔を見合わせると、とにかくタケルの後を追った。その中、シムルグはヴァルを呼び止めた。

「これを持って行きなさい。やるべきことを成し遂げられるよう」

ヴァルはシムルグの鱗の袋に入った3個の欠片石(ペル)を預かった。これで母親(ラグナルダ)玉石(ペル)は取り戻せるかも知れない。

タケルはワーウルフの男に聞いた。

「火葬はすぐにやるのか!?」

「まじないをしてからだが、急いだ方がいい」

それを聞くと、タケルは洞窟の出口まで急ぎながら、鳥の形を思い浮かべて呼んでいた。名前は忘れてしまっていたが、谷からはアディロンの方が速い。

出口にはサージャンが待っていた。タケルは一人飛び乗ると、サーキアの所まで!と叫んだ。サージャンは心得ていたように、森へと向かうと急降下しながらタケルへ言った。

「真下です、飛び降りて」

タケルは火葬の準備がされているサーキアの元へと着地すると、フィンディからもらった玉石(ペル)を天に向かって掲げた。その輝きを見た首長は、タケルを取り押さえようとする男達を制した。

「それは…」

「サーキアの魂です」

玉石(ペル)を渡された首長は、驚きつつも石をよくよく撫で回して涙を流した。

「こんな…奇跡が…」

そう呟くと、まじないの言葉を唱えつつ、銃弾によって大きくえぐられた胸へと玉石(ペル)を埋め込んだ。サーキアを囲んでいたワーウルフ達は固唾を飲んで見守っていた。サーキアの胸の傷口が玉石(ペル)を包み込み、そうして光が消えていった。

シン……と静まり返る。天からは月光が、サーキアを照らしていた。

タケルがサーキアに近づいていく。

「いつまで、寝てるのさ」

「おまえが来るまで」

サーキアはタケルに飛びついた。

「おまえが呼んだから」

ウオオオオオーーッッ!!

二人を取り囲んで、ワーウルフ達の歓声が森中に響き渡った。首長である祖母も母親も、こんな奇跡が起きるとは信じられないと大喜びだった。代わる代わるにサーキアを抱きしめては、左胸の傷がまったくなくなっているのを見て本当に生き返ったのかと何度も抱きしめ合っていた。

後から遅れて到着した又従兄弟の男も、本当に大丈夫なのか半信半疑ながら、奇跡の一部始終を聞かされて泣きながら喜んだ。

その様子を見ながら、アクシー達3人はお互いに顔を見合わせた。何が起きたのか俄かには信じ難くどうしたものかと佇んでいると、いきなりディスカージェがハイタッチをしてきた。

「なんか、いいこと起きたんだよな?」

「生き返ったようだ…」

アクシーがそう言ってサーキアの方を指差した。ディスカージェは大声を出すと、アクシーが指差した方へ走っていった。サーキアの母親と言葉を交わし、大喜びで抱き合っている。

「まさか、生き返らせたのか?」

ヴァルがアクシーに尋ねる。アクシーは、そうらしいと頷いた。それにはヴァルも驚くというより、恐れ慄いた。ただ、もしかしたら、タケルなら自分が無理でも、母親(ラグナルダ)玉石(ペル)を確実に直してくれるだろうと考えると、なんとも複雑な思いがよぎった。

タケルはすぐにでもリィンの元へ行こうと言ったが、首長に夜が明けるまでは待った方がいいと反対された。また、アクシーからも無策で乗り込んでいくのは無謀だと言われ、少し機嫌の悪そうな顔を見せた。

「タケルは、思い浮かべただけで、なんでもできてしまうみたいだけど、俺達は違うんだ。乗り込む前に、策を練らないと…」

ヴァルが落ち着いた声で、タケルに諭すように話しかけた。その言葉を聞き、タケルはハッと我に返った。

「俺が?思い通りになんでもできる!?」

「そうだな、今のところ…驚かされるばかりかな」

考え込むタケルの背後から、サーキアが飛びついた。

「タケル、本当にありがとうな!!」

死んだと聞かせれたはずのサーキアがいる。そうだ、これは、どうやら自分が生き返らせたらしいと、やっとタケルは実感できてきているところだった。

タケル達4人は、焚火を取り囲んで座りながら、今まで一人一人がやってきたことなど話し合っていた。

「普通は、できないよ。やっぱ、生き返らせるなんて。本人に能力(ちから)があって、それを能力(ちから)使って助けることで、元に戻してやることくらいしか」

「そうだな、じゃあ、タケルがいたら絶対大丈夫じゃん」

軽くディスカージェが言い放つ。アクシーは難しい顔をしてヴァルを見つめた。

「だけど、自分でやらなければならないことや、自分にしかできないことっていうのが、必ずある」

ヴァルもそれはわかっているとでもいうように力強く頷いた。タケルはヴァルの方を見て、ちょっとバツが悪そうに言葉を継いだ。

「俺さ、わけわかんないうちにこうなっててさ、ちょっと自分の能力(ちから)っていうのが、わかってなくて、怖いんだよね…コントロール覚える前に闇雲に使えちゃっててさ」

頭を掻きながら、困った表情をするタケルに、アクシーも続く。アクシーもまた自分の能力(ちから)を持て余していた。どうやって使っていいのかさえ、教えてもらったことがなかった。

父上(シムルグ)が言うには、能力(ちから)は一人として同じではないから、教えてもらったからといってそのように使えるものじゃないって」

「あーっ!!うちのお(クアドラル)も同じよーなこと言ってさ。でも時々はこうしたら?って助けてくれるよ。でも、方法見つけるのは、いつも自分でかな」

「じゃあ、まずは誰が何ができるか、かな」

そう言うヴァルに、肩にかけてる袋を指差してタケルが首を振った。

「っていうか、何をしなくちゃいけないか、じゃないんかな。俺は、いつも真っ先にやれるかどうかより、やらなくちゃ!で動いてたから。そしたら、できてた」

「だけど、それじゃあいざって時にできなかったらどうする?」

アクシーが言うことも一理ある。しかし、いつも先読みして考えてばかりでは、結局実行できず仕舞いで終わってしまう。

「考えるのはいいけど、決断する時は、できる、ってか、やる!が前提じゃね?」

「それでも失敗したら?」

「もう一回やってみればいいじゃん。他の方法で。やり方なんて一つじゃないんだし。それまでに死ぬほど考えてんだろ?」

アクシーは頷いた。自分で考えて、考え抜いて、いざ行動に移そうとすると、全部終わっていたりする。決断に時間がかかりすぎ、結局何もできないでいた。失敗することが怖かったのもあるが、自分の能力(ちから)を考えれば、失敗の代償も怖かった。

「アクシーって、若いんだろ?失敗して当たり前っていうか、そこから学ぶこともあるだろ。俺なんか、失敗だらけでさ。だけど、ヤベェッて時ほど、フォローしてくれる奴がいてさ。結構、なんとかなってるぜ」

「ヘエーッ!?タケルも失敗するんだあ。なになに?誰か、助けてくれんの?それって、いいよねぇ!!」

ディスカージェが羨ましそうに言った。

「なんでさ、みんなでワイワイ助け合えばイイじゃん、3人も揃ってさ、みんな何してんの?いっつもさ」

タケルが、ヴァルやアクシーの顔を覗く。ディスカージェは不思議そうにタケルに問いかける。

「だって、ドラゴンは独りでぇー、独立してんのが当たり前なんだよ?」

「それと、協力し合うのは、また別じゃね?」

グルッとタケルはみんなを見回した。

「だって、今回、ヤヴァいしぃー」

「そーゆー時だけじゃなくって、いつも情報交換してりゃ、今回みたくヤバイことになってねんじゃね!?ナワバリあんのか知んねーけど。子供同士まで、カンケーなくね?」

ヴァルが意を決したように、全員の顔を見渡して言った。

「とにかく、俺は今回、リィンの所へ行ったら母親(ラグナルダ)玉石(ペル)を元通りにして返してもらわなければいけないんだ。そうだろ?アクシーにも関係あるよな?」

「どういうこと?私が悪かったっていうの?」

「すぐそういうふうに言うし、おまえ、いい加減にしろよ。玉石(ペル)揃わねーと、アレどーすんだよ。ヴァルはそれ言ってんじゃん」

タケルが空を指差しながら、アクシーに向かって厳しい口調で言った。そういうことに慣れていないからか、アクシーは顔を真っ赤にして押し黙った。

「おまえ、いつもそうやって黙り込むなよ。言いたいことあったら…」

アクシーを見ると、顔を真っ赤にしてポロポロと、黙ったまま泣いていた。

「…ご、ごめん」

タケルは驚いて顔を覗き込むと、アクシーは立ち上がり向こうへ行ってしまった。タケルは後を追おうとしたところ、ディスカージェが自分が行くとばかりに、タケルを止めた。ヴァルが、フゥ…と軽くため息を吐いた。

「アイツさ、どう言ったらいいのか、能力(ちから)は俺やディスカなんか比べ物にならないくらいあるのに、使えないんだよ。シムルグからもいろいろ任されてるのに、なんかうまくできてないみたいでさ。すぐピリピリすんだよ、チビだし、許してやってよ」

バツの悪そうな顔をして、タケルは謝ると、ヴァルが笑った。

「そりゃあ、生きてる年数だけ聞かされたら、とんでもない年寄りなんだろうけどさ」

「ヴァルは何歳?」

「2000ってとこかな、ディスカも同じくらいかな」

「違う!!1900!!」

ディスカージェが大声で口を挟んだ。その後ろに隠れるように、アクシーが一緒に戻ってきた。

「うちらさ、テント借りてちょっと一眠りするわ」

明日、日が昇ったらリィンの(ネィア)に行く手筈になっている。ヴァルとタケルは一緒に行くと言うワーウルフ達からの申し出を断って、ひとまず4人で様子を伺ってくるということにした。リィンも長い年月をかけてこの(くに)に溶け込み、何かあれば頼りになってきた。ここで、ワーウルフ達と事を構えるようなことにしてはいけない、それが4人の結論だった。

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