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29.

 そうして、ふたりでテラスに出る。


「私のステップについてこれるとはさすがだな。教授たちが絶賛していたとライマーたちが言ったとおりだった」


「お褒めいただき光栄です」


 私は謙遜気味に受け取って答える。


「何、謙遜することはない。今日の主役はお前だった。それは真実だ。……コルネリア」


 名を呼ばれ、腰を引かれる。間近に陛下の顔があった。それがだんだん近寄ってくる。


「……美しかったぞ、我が后」


 そう言って、陛下は私の唇を奪う。それは最初には浅く、やがて強く押しつけるように。そして、舌が私の口腔のの中に滑り込んできて、深い口づけに変っていく。


「……コルネリア、このあと、付き合え」


 そう、陛下に言われた。


 口づけのあと、私は陛下に手を取られて、会場の外へと連れ出された。


「陛下、どこへ?」


「良いから、こっちだ」


 そうして連れてこられたのは、庭園に作られた温室だった。夜なので、真っ暗で、今こんなところに用はないはずの場所。


 そこに、陛下はためらいもなく私を誘い込む。


「……お前と口づけをしたら、お前が欲しくなった」


 そう言われて、私は首筋に口づけを受ける。陛下は興奮した様子で私の肌のあちこちに口づけを落とす。


 ベッド以外の場所でするなんて、そんな経験もなくて私は動揺する。陛下はそんな私にはお構いなしの様子だった。


「陛下ぁ……っ」


 泣きそうな声になりながら、彼を呼ぶと、ふと動きを止めて陛下がじっと私を見下ろした。


「お前を愛している。……ダメか?」


 ──愛しているって……?


 陛下が? この私を?


 混乱する私に、陛下が唇に、頬に、額に、瞼に。優しく雨を降らすかのようなキスを落としていく。その間にも、邪魔だと言わんばかりに、陛下は嵌めていた手袋を脱ぎ捨てる。


「お前ほど愛しい者はいない。それに、皇后にふさわしい者も。……私はお前が欲しい、コルネリア。もちろん他に抱いた女はいる。だが、女を愛したのは初めてなんだ」


「でも、一年の約束は……」


「ああ、一年経って子が出来なければ、お前は自由だ。自由になりたいんだろう?」


「……」


 私は、答えに詰まってしまった。愛されていると知ったら、私の答えは変るのだろうか。私の恋心にも似た思いはどうしたらよいのだろうか。


「今は何も言わなくていい。だが、賭けは賭けだ。私の賭けが有利になるよう、今、抱かれてくれ。……私はお前との子が欲しい。そしてお前自身が欲しい、一年後も、その先も」


 それを聞いて、体のどこかが熱くなった気がした。


「──ッ、コルネリア、愛している」


 何度も、何度も揺さぶられて。


 私は、最後には意識を飛ばしてしまった。


 気付いたのは、翌日の朝のベッドの上でだった。


 きっと、陛下が運んでくださったのだろう、私はそう思った。


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