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20.

「皇后陛下が新しい食器を開発なさいました。その売れ行きはすこぶる上々で、新しい産業として定着し、仕事が増え、帝都の民が喜んでいるそうです」


 宰相のライマーがヴォルフに進上する。


「……新しい食器? 陶磁器があるだろう」


「いえいえ。あれは子供には危険だと、皇后陛下は憂えまして。落とせば簡単に割れますし、子供の手には少々重い。ですから、それを補う新しい食器が欲しいと願い、帝都で商会長を務めているベッカー商会に声をかけたのだそうです」


「だが、そんなものどうやって作ったのだ?」


 ヴォルフは不思議そうにライマーに尋ねる。


「皇后陛下の知識からです。南にあるカレドの木。皇后陛下は、この樹脂を熱で硬化させることによって、固めることが出来ることを知ってらしたのだそうです」


「そんなもの、どうやって知っていたのだ」


「本、です」


「本か……」


 確か、コルネリアは三年の間に図書館の本を読み、それを覚えているのだと前に聞いたのを思い出した。


「彼女の記憶力は計り知れないな」


「はい、全く。陛下、一年限りなどとおっしゃっていないで、こんな逸材、さっさと誓約を無効にして永久に皇后陛下とお決めくださいませ!」


 そう言ってライマーがせっついた。


 美貌、才知に次いで、商才まであるとは。


 ヴォルフはコルネリアの底知れぬ才能に舌を巻いた。


 そして、「一年子作りをして子が出来なければ、望みどおり離婚してやろう」などと言ったことは失策だったのではないかと悔やむのだった。


 ◆


 その夜は、コルネリアに月のものが訪れていた。


 誓約のとおり、夫婦の営みをとコルネリアの部屋に訪れたヴォルフに、彼女が申し訳なさそうにわびる。


「陛下、今日は私、月のものが来ておりまして……」


 それは、「子供が出来なかった」と告げるも同然だから、なおさら、それに賭けているヴォルフには余計に言いにくかった。


「そうか。だが、今日もお前と寝たい。なに、何も手を出したりはしない。ただ、お前の隣でお前の体温を感じていたいだけだ。良いか? ……痛みや苦痛があるようなら、ひとりにするが」


「……お気遣いありがとうございます。大丈夫です」


 賭けがあるので、そのことで当たられるかとコルネリアは思っていた。しかし、実際は、ただふたりでベッドに入り、ヴォルフがコルネリアの体を温めるかのように抱きしめ、そうして話し出した。


「樹脂食器とやらの開発が上手くいったようだな」


「はい。これで子供たちに食器を扱わせても一安心です」


「……お前は優しいのだな」


 ヴォルフにしみじみとそう言われ、目的はそれだけではないとは言えなくなるコルネリアだった。


 ──お優しいのは、陛下、あなたじゃないですか。


 コルネリアの心が揺れる。


 独り立ちするお金が欲しいだなんて願っている自分が卑しく思えてくるのだった。


 そんなコルネリアに、ヴォルフは穏やかな声でいつものとおりにこう告げた。


「今日もこのままお前の部屋で休んでいく、良いな」


「はい」


──陛下の体温で暖かくて、安心する。


 だけど、私はどうしたら良いのかしら。


 コルネリアは、ヴォルフに寄り添うようにして彼の温もりを求めた。


 心は揺れ動いて、ちっとも眠りにつけなかった。


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