01.プロローグ
お久しぶりです!新作です!
今日以降、毎日12時と20時に更新予定を入れてあります。
完結済みですので安心してお読みください。
「初めまして皇帝陛下。どうぞ離婚してくださいませ」
私は大衆の前で言い放った。
私は輿入れしてからこの方、彼に結婚式も放り出され、その後三年も放置された。
そうしてようやく皇帝陛下が凱旋したのだ。
だから、私は彼に離婚を切り出した。
──ねえ? こんな婚姻、いりませんよね?
◆
そうしてその夜、私の部屋に皇帝陛下が訪れた。
帝国皇帝ことヴォルフと、その后である私の部屋は両隣に位置しており、その部屋同士は扉ひとつで繋がっている。その扉を通って、さも当たり前のように皇帝陛下が悠々とした態度でやってきた。緩やかなローブ一枚を羽織った姿で。
彼が私に語りかける。
「お前、私と離婚しようと言ったな。なら、ひとつ条件を設けようじゃないか」
私の部屋に、なんの断りもなく訪れた皇帝陛下がそうおっしゃった。
「条件……ですか?」
私は警戒しながら陛下に向かって答えた。
ときは夜。
そしてここは私の寝室で、私は薄い寝衣だけを纏っていて、さあ寝ようと思っていたところだ。なので、私は男性の訪れを受け入れるような姿をしていなかった。ただし、陛下は形式上は私の夫なのだから、私の寝室を訪れても不自然ではない。ただし、通常の夫婦であればだけれど。
陛下とは三年もの間、白い関係を続けてきた相手である。結婚式すらまともに執り行っていない。他人も同然である。
私は、そんな相手の来訪に慌てて手探りでガウンを探す。だが、残念ながらそれは手近になく、恥じらいを紛らわせるために、私は寝衣の合わせを重ね合わせた。
陛下はだんだん私のベッドに近寄ってきて、やがて、ギシ、とベッドのきしむ音を室内に響かせて、私に覆い被さるような姿勢をとる。
「ああ、条件だ。一年子作りをして子が出来なければ、望みどおり離婚してやろう」
そう言われると私は一瞬あっけにとられ、それから相手を睨め付けた。
「私は子が必要だ。お前は自由が欲しいらしい。ならば、互いにその身を賭して、欲しいものを得ようじゃないか」
「……子作り! 結婚式にも現れず、三年も妻を放置しておいていまさらですか! 私はいらない妻じゃなかったんじゃなかったんですか!?」
私は怒りに打ち震えて、皇帝陛下に口答えをする。
それに、見たこともなかった、愛してもいない男に肌を許すことに抵抗を覚えた。冗談じゃないわ!
──まして子供など! 世継ぎが必要だとしても、命を何だと思っているの!
「皇帝である私にとって、子供は必要に決まっているだろう。そして、お前は私の妻だ。皇后であるお前には私の子を産む責務がある」
──三年も放って置いた私に、いまさらその立場を主張して責務を課すなんて!
言いかけたけれど、私は言葉をかろうじて飲み込んだ。私はこの皇帝陛下が統べる帝国に属する国のうちの、一国から嫁してきた公爵家の娘に過ぎず、明らかに立場が低い。人質にも近い存在だし、陛下の命令は絶対だった。
そもそも花嫁として嫁してきた身。この男に純潔を散らされることなど、覚悟してきたことではないか。
抵抗を覚えていた感情が、諦めにも譲歩にも似た気持ちに変っていく。
それに一年。中々子が出来ない夫婦であれば、二年、三年経っても子が出来ないと聞く。それに彼は帝都に戻ったのだ。数多いる他の女に気が向くかもしれない。そうすれば私など相手にしなくなるだろうし、そうすれば、私に陛下の子など出来ないに違いない。
そう分が悪い賭けでもないかもしれない。
そんな希望が微かに湧いた。
「……一年、ですからね。必ず守ってくださいませ」
「ああ、分かった。なんなら帝都の大教会に宣誓して、私のサインを入れた宣誓書をしたためてやろう。神の名にかけた契約だ、嬉しかろう」
「では、本当にご用意していただけますのね?」
「ああ、明日にでも教会に用意させよう」
「私は、一年何もなければ、そのあと、自由に生きて良いのですね?」
「ああ、どこへなりとも行くがいい。必要ならば離宮でも、好きな土地に館でも私が建ててやると約束しよう」
そう言われて、私はほっとする。
約束どおりなら、明日にでも宣誓書が作られるだろう。拘束されている今の私は、ひとまず解放されるのだと。そして賭けは明日以降から実行されるのだろう。
私は解放されるのよね?
そう思って、私がほっとした矢先。
私は、クイ、と頤に手をかけられる。そして唇を軽くさらわれた。
初めての、口づけを奪われた。
「では合意と取らせてもらおう。……さあ、今から初夜といこうか」
「きゃあっ!」
だが、力は男のそれには敵わない。
私の抵抗もむなしく、陛下は片手で私の両手を私の頭の上で掴んでまとめ上げられた。そして、他方の手で易々と寝衣の合わせを曝いてしまう。
「誓約書をしたためてからではないのですかっ!」
私はむなしい抵抗をする。しかし、相手の男の瞳には獣性の色が感じられて、それも無駄な抵抗なのだろうと感じられる。
「……今だ。今、お前が欲しい」
耳元にそう囁かれると、ぞくり、と体が震えた。
さらに、夜の寒さだろうか、この男の手によって純潔を散らされることへの恐れだろうか。
ふる、と続けて体が震えた。
私は足と足を絡めるようにして体をいくらかでも隠そうとする。
しかし今夜は満月。カーテンの開いた窓から月明かりが皓々と差し込み、その光が私の体を否応なしに照らし、余すところなく曝く。
「……美しい体だ。肌は月明かりを透すかのように透明でいて白く、腰のくびれは細くくびれている。足首も折れてしまいそうに細い。それでいて、胸や腰は豊満でなまめかしい。さぞや、アッヘンバッハ王国の王太子を喜ばせてきたのだろう?」
──どういうことかしら?
アッヘンバッハ王国の王太子を喜ばせるってどういうこと?
あられもない姿を、上から下まで舐めるように観察されながら、私は思案に耽る。
王太子って、もしかしてもしかしなくても、私を厭って婚約破棄した挙げ句、この国に放り出したあの国の王太子!?
──とんでもないわ!
私は脳裏で憤慨する。
あの王太子は私のことなど、ちっとも顧みなかったのだから。
「そんな、ちがっ、私は……っ!」
否定しようとした唇を、唇で塞がれた。私を黙らせると陛下は唇を解放した。
「……うるさい、黙れ」
皇帝陛下の冷たい瞳は、私にそれ以上弁明することを許さなかった。
「何、酷いことはしない」
私は体を陛下の自由に曝かれる。
「淫らで甘い体だ。はあ、その顔もたまらない。……アッヘンバッハの王太子もさぞや手放すのが惜しかったことだろう」
「ち、が……」
違うと言いたかった。
けれど、激しく乱される私は反論する余地もなく、ただ、翻弄されていく。そして、嬌声をおさえられなくなり、私はひっきりなしに甘い声を上げる。
「好きなだけ貪るが良い。……私にも、お前を愉しませてもらうからな」
そう言って、ひときわ深く陛下が私に覆い被さってきた。
こうして、三年越しの初夜はゆっくりと長い時間をかけて過ぎていくのだった。
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