表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きって言うまでそばにいる  作者: 華月AKI


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/17

言えなかった言葉

 番組へのメールを送ってからというもの——

 史狼は、落ち着かなくなった。


 朝、顔を洗ったあと。

 昼、調査に向かう前。

 帰ってきて着替えたあとや、寝る前のソファの上で。


 


 「なあ、海都さん。ラジオから……まだ、返事ない?」


 


 決まって、その言葉を口にする。


 


 海都はそのたび、スマホを取り出してメールボックスを確認し、微笑みながら首を横に振った。


 


 「まだ、来てない。でも大丈夫。送ったばかりだし、週に一度の更新みたいだから、返事もそのタイミングかもね」


「……そっか」


 


 返事はわかってる。


 でも、どうしても聞きたくなる。


 テープを聴いてからというもの、少女の声が頭の中に残っていて、ふいに耳の奥で囁くような気がする。


 あれは“ただの声”じゃなかった。


 


 誰かに届いて、やっと意味を持つもの。


 史狼には、それが痛いほど分かっていた。


 


 けれど、日が経つにつれて少しずつ、不安も膨らんでくる。


 


 “もしかしたら、読まれないかも”


 “迷惑なメールだと思われたかも”


 


 ある晩。


 ソファに座ってスマホをいじる海都の隣で、史狼が呟く。


 静かなウルフネストのリビング。


「……やっぱ、オレが送るべきだったかな……そしたら、もっと気持ち伝わったかも……」


 画面から目を上げた海都は、そっと史狼の肩に手を置いた。

「十分伝わったよ。ふたりで書いたメールだったから、あの声も“ふたりで見つけたもの”って、ちゃんと伝わったはず」


 その言葉に史狼は黙って頷く。

 けれど胸の奥では、メールのことだけじゃなく、もっと別の“伝えられていない気持ち”がざわめいていた。


 ◇


 数日後の夜。


 静かなウルフネストのリビング。

 調査メモをまとめていた史狼のもとに、海都がキッチンから戻ってくる。


「——シロくん」

「ん?」

「……メール、届いたよ。ラジオから」


「っ……!!」


 その瞬間、史狼は弾かれたように立ち上がった。


「マジで!? 見せて!」

「うん、ほら。これ」


 海都がスマホの画面を傾けて見せる。


 ——『心を打たれました。ぜひ次回の放送で紹介させてください』——


 その一文を見た瞬間、史狼の肩が小さく震えた。


「……やった……! ほんとに……!」


 勢いのまま、海都の胸に飛びつく。

 驚いたように目を見開いた海都だったが、すぐに優しく腕を回して受け止める。


「すごいね、シロくん」

「や、やばい……なんか、変な汗出てきた……」

「よかったね……本当によかった」


 嬉しさと安心が、混ざり合って胸に広がる。

 海都のシャツに顔をうずめたまま、史狼は小さく、ふっと笑った。


「……これで、今度こそほんとに“声”が届くんだな……」

「うん。君が見つけた声、ちゃんと世界に届く」


 クリームソーダの甘さよりもずっと深くて優しい“安堵”が、今、ふたりのあいだを満たしていた。


 ——けれど史狼の胸の奥では、まだもうひとつ。

 いつか“届いてほしい声”が残っている。

 それを言葉にするのは、もう少し先のことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ