世界の見方
ムンエラうちの子の後日譚的なもの。
勢いで書いてるので文章の甘さはユルシテユルシテ....
あの一件から、アタシは能力を使わなくなった。見たくないと言うよりもむしろ、今はあの光景を見ていないことにほんの少しの寂しさすらある。でも、見ない。前と違って一瞬見るだけに済まないってこともあるけれど、それ以前にケジメとして。
アタシは梓馬先輩にロクな言葉をかけられなかった。あの展示会で真相を問い詰めた時、あの絵を見てどう思ったか聞かれてすぐに答えられらなかった。言葉が出なかったわけじゃないけど、どういえばいいのかが分からなかった。アタシは梓馬先輩と違って、常時人の頭がガス状に見えてた訳じゃないし、声も聞こえなかったから、同情や慰めはできても理解には程遠かった。
今なら──薬を飲んで最後の一線を超えたからこそ、分かる。梓馬先輩が感じていた孤独が、よくわかる。こんなのを1人で抱え続けていたら、気が狂うに決まってるよ。むしろよく猫殺すだけに留めていたなぁって思う。猫好きの松城さんには悪いけど、正直ある種の尊敬を持ってるんだよね。まぁ、あんまり良くない尊敬の仕方だけど....。
「梓馬先輩、今頃何をしてるかな。また猫を殺して春草ちゃんに追いかけられてるのかな。それともひっそりと、誰も近寄らない場所で静かに暮らしているのかな?」
誰に言うでもなく、独りごつ。
最近、先輩のことを思う日が増えてる気がする。恋とかそういうんじゃなくて、同類への興味みたいな感じかな?先輩がこれからどう生きるのか、どう死ぬのかとかそういう興味。
先輩は、今アタシの創作への原動力になってるんだと思う。前はもちろん、ほんの一瞬だけ見える真実の世界。それが変わったのは、多分いいこと。恐ろしく、おぞましく、それでいて人を惹きつけるあの世界は普通の人には刺激が強すぎるからね。だからきっと、今のアタシの絵は前に比べたらつまらなくなってる。講評で褒められることも前より更に減ったし。
けど、真実の世界を見ながらもあえてそれを見ないアタシには、この世界がとても煌めいて見える。あの世界は確かに見えないものが見える人によっては面白い世界だろうけど、狂気の世界でもある。それに比べて、なんて平和な世界だろうか。前はつまらないと思ってたけど、比較対象ができるだけでこうも見えるものが変わるなんて、思わなかった。
「うーん....どうしようかな。もっと色調を明るくしたら綺麗かな。」
独り言を言いながら課題を進める。
今回の課題は、『あなたの世界の見方』というもの。前のアタシなら、間違いなく能力を使っていただろう難しい課題だ。けど、今のアタシには明確なイメージがある。アタシは普通の世界から飛び出してしまった異常者だ。言うなれば、境界があるって事。アタシが見てるのは、窓の内側だ。アタシが外にいて、内の世界に縋っている。そんなイメージ。
今日は筆が乗る。梓馬先輩のことを考えたからかな?最近そういうことが多い気がするし....。
「───よし、こんなものかな。」
窓枠に縋りついて人の家の中をじっと見ている絵。これはこれで少し不気味な感じがするかもしれないな、と思いながら道具を片付ける。もしかしたら、いい評価貰えるかも。
この世界に、アタシと皆の居場所は無い。アタシたちはエラーだから。でも、異常者同士支え合いながら窓の中を見ていこう。
今日も内側の世界はキラキラと輝いている。