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田坂とキヨ

高校の同級生は、私とめぐが同居することにそれほどにもかと思うほどに驚いていた。

私たちが昼休みだけ共有する間柄だと知っている友人たちには、何度か再考を提案された。

良く知りもしないのに一緒に暮らして上手くいくわけがないと、入学した頃からの付き合いである慶子には何度となく諭されたけれど、正直言っていつも一緒にいた慶子の四角四面の物言いなんかの方がずっと私の生活には向かないと思えた。

それが悪いわけじゃない。慶子は向き合うべき素晴らしい友人だと思える。だけど、私とめぐは違った。

上手く形容は出来ないけれど、いつだって二人が同じ方向を向いているような、そんな感じがするのだ。


そして、現に二人の生活は思った以上に快適だった。もしかしたら私の一方的な感情かもしれないけれど、不安がなかったといえば嘘になる私が、両腕をおっぴろげて寝られるようなおおらかさだった。


お互い自由に講義をとっていたこともあって、行き来が一緒になることもなかったから、大学の友達も私たちが一緒に住んでいるということを聞くと意外だと口を揃えた。

ならば前と精神的な距離が縮まったのかと言われれば、特段そんな気もしない。ただ、一緒にいる時間は多少増えた気がするだけだ。

一緒にいる時間といってもするのは前と同じようなバカ話だし、大概は同じ部屋で音楽を掛けながら私がゲームをやっていて、傍らでめぐがレポートを書いているという風に、一緒に暮らす前に言った「イヤホンが壊れない」程度の生活だった。


だけど、少なくとも私にはそれが快適だった。

どちらかに恋人が出来たりしても、私は恋人を自分の生活に引き込むことはしなかったし、私にとってはめぐの恋人はめぐの前を流れていく人に過ぎなかったから、わかれると聞いてもそれについてどうこう言う事もなかったし、めぐもめぐで事後報告をするほうが多かった。めぐもそうだった。


誤解を受けるといけないと思うから言うのだけれど、私は自分の恋人に壁を作っていたわけじゃない。ただ、私にとって二人の生活はすっぴんよりも丸裸で、血管を取り出して血の流れを見せるような心持ちだったのだ。

そうそう、あるいは母の裸を他人に見られるような気分にも似ているかもしれない。


とにかくそんな感じに、私たちは過ごしてきた。短大を卒業して社会人になってからもそんな生活は当たり前のように続いていった。


微妙にそれが変わっていったのは、めぐが田坂と付き合い始めた頃だった。

私はどういうわけか、めぐが誰と付き合っても、その恋人と私が一生の付き合いになるとは思えなかった。おかしな話だけれど、めぐの人生はいつだって私の見えるところにある気がしてならず、つまりは私の人生にこの恋人が干渉することなどありえないと思っていた。


社会人も七年目になった春に、田坂という人と付き合っていると打ち明けられたときも、私にとってはいつもと同じめぐのただの恋人だった。


初めてめぐに連れられてきた田坂は、いかにも体温の低そうな気だるげな面持ちで、私にあったからといって愛想を良くする様なタイプでもなく、どちらかというと私などに余り興味がなさそうだった。


会社の友人の知り合いに紹介してもらったとか言う説明をめぐにされても「どうも」と一度頭を下げたきりで、何だかこっちの方が気を遣ってしまっていつもより饒舌にさせられてしまい、田坂が帰った後めぐが私を心配したほどだ。


何度会っても、田坂には中々慣れなかった。今までめぐの彼氏を気にすることのなかった私なのに、どうしたって居心地の悪さが拭えない。要するに、苦手だということだ。


めぐがコンビニなんかに出かけて、部屋に二人きりにされるともうだめで、それとなく電話をするように装って自分の部屋に逃げたり、お風呂に入ったりして誤魔化していた。

向こうもそれを察しているのか、それとも極度の鈍感なのか、私に干渉することはなかったから、それについては気を遣うことがなくてほっとした。


ただ、めぐが私に田坂を会わせることに遠慮がなかったので、きっと田坂は私が田坂から逃げているということを伝えたりすることはなかったのだと思う。


「大内さん」

だから、あの日めぐがなくなったボディーソープを買いに出かけた後、突然話しかけられたときには肩を跳ね上げるほどに驚いた。


「何?」

きっと私の声は微妙に上ずっていたに違いない。

「俺のこと、苦手でしょ」

めぐと田坂が付き合い始めて一年、私と初めて会ってからも同じような時間が過ぎていたが、今更何を言うのだろうと呆気にとられ、返す言葉がなかった。


「図星だ」

僅かに笑うと田坂は缶ビールのプルタブを引き上げて私に差し出した。


「何でそんなこと思うのよ」

「否定しないんだ」

いつもとは逆方向に私の気持ちを察していく田坂からビールを受け取ることもなく、私は飲みかけのペットボトルのふたを開けてお茶を流し込んだ。残り少ないお茶だったけれど一気飲みする必要はなかったはずなのに、田坂のただ一言で私の口の中はカラカラと渇きを訴えていた。


田坂は差し出したビールを引き戻してそのまま口をつけると、喉の出っ張りをニ三往復させる。

「いや、大内さんさ、俺がいると避けるでしょ」

「誤解だよ。だって、友達の彼氏と仲良くするなんて必要もないかなあと思ってさ。変に勘違いさせるわけにいかないじゃん」

「それだけ?」

「それだけ」

「ふうん」


失敗した。話すごとにカラカラと口ばかりか喉も渇いていくのに、無計画にお茶を飲み干したせいで、見透かしたように笑みを浮かべる田坂への苛立ちを誤魔化すことが出来なかった。



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