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地下四階より更に地下に……

   

   地下四階より更に地下に……

   

 尾崎凌駕を尋ねてきた誰か……

「いらっしゃい、良美……」

 尾崎凌駕がそう出迎えて……

 

 そして――

 部屋に大きな音が響いた。

 それは……

 絶望的な悲鳴にも似た……

 鼓膜を突き刺すような……

 

 

 

 その後、どうなったか? それは後ほど語るとして、何とか無事であった尾崎凌駕はその「良美」と呼ばれた人物を伴って、地下二階の下、地下四階より更に地下に階段を降りて行っていた。

 尾崎凌駕は薄暗い廊下を進んで、ひっそりとした薄暗い部屋に「良美」を案内した。

 

 そこは人体標本室……

 

 液体が満たされた広口のガラス瓶に、人体の一部と思われる標本が保存されている。そうした標本瓶が棚にズラリと並んでいる。

 薄暗い、たまに点滅すらする、色温度の低い照明に照らされて不気味なオブジェが並んでいる。

「詳しいことは私にもわかりません。とにかくこちらへ」

 尾崎凌駕が部屋の奥に進んでいくと、それが棚にあった。

 二人の佐藤稔、つまり、尾崎諒馬と坂東善の生首がホルマリンかアルコール、または別の特殊な液体なのかはわからぬが、とにかく液浸標本となってガラス瓶の中で保存されていたのだ。

 生首とは言っても、頭蓋骨には大きな穴が開けられ、顔のパーツもなく、ただその脳髄だけが剥き出しに……

 ガラス瓶にはラベルすらなく、ただ……

 脳髄に突き刺された万単位の金属の電極が……

 電極の多い方が尾崎諒馬で少ない方が坂東善……

 彼らが生きる屍として生きている時には外せなかった頭のバケツが取り外され、その脳髄の現状が露わになると、ナンバリング、ラベリングに失敗しても、その脳髄に突き刺さっている電極の数で……

 ただ、その電極の夥しさの違いでのみ識別できるという……

「喪は明けましたし、私は医者なので今はもう大丈夫ですが、あなたはどうですか?」

 しかし「良美」はただ黙っている。

 

「一旦『殺人事件ライラック~』はアンチ・ミステリーとして終わらせました。それは――、そうしたいという感情はこのガラス瓶を見れば理解できるでしょう? これが祝福された死なのかはわかりませんが」

 そのまま沈黙が続く……

「しかし、いつまでも喪に服しているわけにはいかない。さあ、こっちも――」

 尾崎凌駕は更に部屋の奥に進んでいく。

 

 部屋の奥にも二つの生首の液浸標本があった。その標本の生首には顔があった。ただ、髪の毛は剃り上げられ、性別はよくわからない。少しふやけているせいか、年齢もよくわからない。ただ、子供ではない。

「誰だか? わかりますか?」尾崎凌駕が訊くが、「良美」は答えない。

「佐藤稔の標本とは違って、こちらには顔がある。誰だかわかりますか? 知ってる顔ではありませんか?」

 それでも「良美」は答えない。

「ラベルはありませんが、恐らくは佐藤稔宅の冷蔵庫で発見された生首三体のうちの二つです。実は奥にもう一つおぞましい生首の標本があります。頭に穴が開けられ、夥しい数の電極が突き刺さっていますよ。それに頚髄にも電極が刺してあります。斬首されたあと、脳と頚髄に電極を刺して――」

 あの死刑囚の手記にあった――

 死者の斬首された生首で、何か実験が行われたのだろうか?

「結論から言うと、二人の佐藤稔に対するBMI実験は脳はまだ生きていました、だから、実験は成功したのでしょう。しかし、死んでしまった脳に電極を刺したところで――。いや……」尾崎凌駕は苦しそうに「それでもAIは何かを学習できたかもしれない。この生首は学習済みの用済み……、だからこうして標本になっているのかもしれない。パソコン内、いや、ここからアクセスできるどこかのサーバー上に虚体となった『良美』が……、生成AIによるアバターだけれども、そういう『良美』が……」

 先ほどから尾崎凌駕が独りで喋っている。「良美」はただ黙って尾崎凌駕の話を聞いている。

「この二つの生首は『良美と勝男』若しくは『二人の良美』――どっちでしょう? 私は被害者三人の顔を知らない」

 尾崎凌駕は「良美」の顔を見る。

「二人の良美は顔立ちが似てるんでしたっけ? 会長が娘の『良美』に似た『良美ちゃん』を全国から探してきた。そうですよね?」

「黒服、青服によれば、二人の良美が似ている似ていないの判断は個人の主観もあります、とのことです……、まあ彼らは生成AIによるアバターに過ぎませんが」初めて「良美」が声を出した。

「あなたはどう思うのです? 二人の良美は似ているのか? いないのか?」

「似ていないように思いました」

「私にも似ていない、そう思わせたいのですか?」尾崎凌駕はまじまじと「良美」の顔を見る。

「読者はどう思うのでしょうかねぇ?」そういう「良美」は笑っている。

「そうですね」尾崎凌駕も笑った。「読者は基本文章しか……。いや、この標本になった生首とあなたを並べて写真に撮って、それを――」

「断言しますが、仮にそうしても読者は『似てない』そう判断するでしょう」

「なるほど……。まあ、確かにこの標本で生前似ていたかを判断するのは無理でしょうね」

「一体、何がおっしゃりたいのです?」

「三つあった生首のうち、二つがここにある。もう一つは奥にある電極の差し込まれた……。でもそれがもし……」

 尾崎凌駕は目の前に立っている「良美」の顔と、標本になっている二つの生首を交互にじっと見る。

 と――

 尾崎凌駕の目の前で、首の顔の一部分が僅かに歪んだ。

 ――生きている……首は生きている……

 つまりは生首……

 尾崎凌駕の心を読んだように「良美」が呟く。

「くだらない……」

「くだらない? でも首は生きているでしょう? ほら、今も口が動いている。生きている首――つまりは生首!」

 

 ――くだらない?

 確かにそうかもしれない。

 

 このシーンは後で続きを書くとして、時間を少し戻す。

 喪に服していた尾崎凌駕だが、その間も、このWeb小説「殺人事件ライラック~」のトリックについて、ずっと考えていた。

  

  アンチ・ミステリーにおける迷探偵


 自分でそう書いている。確かに「迷」は付くが、やはりこの世界では尾崎凌駕が探偵だろう……

 謎は……

 トリックは……

 尾崎凌駕が解き明かす!

 但し……

 少しAIの力は借りる……

 

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