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真相(首猛夫による小説) 佐藤稔宅での斬首事件

         

   真相(首猛夫による小説)

   

 ここで首猛夫が書いた小説を挿入する。小説ではあるが固有名詞は現実のものを使う。

 尾崎グループに尾崎メディボーグ……

 それはアンチ・ミステリーで終わらせようとした尾崎何某に対する抗議の意味合いも持つ。

 実際に事件は起きたのだ。そしてそれはミステリーになるはずだ。

 小説なので若干、現実とは違うのかもしれないが、神の視点を持つ、首猛夫が書いているので現実に肉薄しているはずだ。

 なお、視点は尾崎勝男――サイコパスの殺戮魔……

 

 

    佐藤稔宅での斬首事件 

    

 その日、尾崎夫妻――尾崎勝男と妻良美は、姉夫妻の自宅を訪問している。

 尾崎夫妻と佐藤稔はその日の別荘でのパーティに稔の妻の良美も参加するよう説得していたが、良美は頑なに参加を拒否した。

 勝男もその妻の良美も、姉良美のパーティ参加にはそこまでの執着はなく「まあ、いいでしょう」で引き下がったが、佐藤稔は執拗に妻の良美に参加をするよう説得をしていた。

 恐らく――

 佐藤稔は妻の良美が今回の弟夫婦のパーティに参加することで、彼女と尾崎家の関係が少しでも修復されることに期待していたのだろう。佐藤稔は尾崎メディボーグの一従業員であったが、尾崎グループの創始者、会長尾崎睦美の長女良美の婿――つまり義理の息子であるのだ。なので良美が少しでも尾崎家と寄りを戻せば、自分の会社内での地位も必ず上がるだろう、そう思っていたに違いない。

 しかし、良美は夫のそのような女々しい考えを見透かしていた。当然のように二人は口論に……

 いがみ合う二人が手に負えなくなり、尾崎夫妻は佐藤夫妻の自宅を早々に引き上げたが、勝男と良美は別々の自分の車で来ていたので、勝男は良美に先に別荘に行くように促し、自分はちょっと用がある、とか何とかで別行動を取った。

 勝男は妙な胸騒ぎがしていた。ちょっとばかり、姉の良美の身を案じていた。

 一時間ほどして勝男は単独で佐藤夫妻の自宅に舞い戻った。

 玄関の鍵は掛かっていたが、勝男は合鍵をもらっていた。姉からかもしれないし、佐藤稔からかもしれない。佐藤稔は自宅にちょっとした研究室を持っており、そこで小動物の脳髄を使った実験を――

 勝男はそれに興味があり、また、佐藤稔もそうした実験を勝男に見せてくれていた。いや、勝男は会社では絶対的な上司――社長だ。いつでも研究室に出入りできるよう合鍵を渡したのは佐藤稔なのかもしれない。

 いや、やはり普通に弟ならいつでも歓迎と姉が渡したのかもしれない。

 とにかく合鍵で玄関を開け、中に入った勝男は中で姉良美が倒れているのを発見する。

 

 通常であれば、すぐに救急車を呼ぶところだが、倒れている姉を見た勝男の中で何かが発露しかかっていた。

 ――死んでいるのかもしれない……

 勝男はすぐにそう感じた。勝男は死に対して異常に敏感だった。

 

 今夕のパーティで……

 どうしても生首が……

 リアルな生首が欲しい……

 

 勝男は考える。もし、姉が死んでいたら……

 本物の生首が手に入る……

 

 勝男は姉の手首の脈を診る。果たして脈はあったのか? なかったのか?

 勝男は父親――尾崎会長に電話する。

「パパ、姉さんが死んでるかもしれない……」

 それに対する、父親の第一声、

「まさか、お前が殺したのか?」

 それが一つの引き金になったかもしれない。

「本当に死んでいるのか? お前が殺したのか?」

 畳みかける父の言葉が勝男の中の何かのスイッチを入れたのかもしれない。

「ハッキリ答えろ! 本当に死んでいるのか? お前が殺したのか?」

 狼狽えながら勝男はあるキーワードを発した。

「勝男! お前! すまん、やめろ! やめるんだ」

 勝男は電話を切った。

 ――本当に死んでいるのか?

 一瞬正気に戻りかけ、救急車を呼ぼうかとも思った。

 しかし、救急隊員も「お前が殺したのか?」そう尋ねるかもしれない。

 ――本当に死んでいるのか? 

 勝男の中で完全にそいつが発露した。本当に死んでいるのか? その嫌な質問を断ち切るにはこうするしかない。

 勝男はキッチンに行くと包丁を取り上げた。そして――

 倒れている姉良美の胸に――

 

 ――これで本当に死んでいる。

 

 果たして勝男が包丁を胸に突き刺す前に既に姉良美が死んでいたのか? まだ息があったのか? それはわからない。ただ勝男には妙な安心感があった。

 目の前に生首――本当に欲しいと思っていた生首が――

 まだ切り落としていないが、仮に切り落としてもそれで殺したわけではない。死体という物体を二つに切り分ける、ただそれだけのことだ。

 勝男は平然とそれをやってのけた。

 切り落とした姉の生首をクーラー・ボックスに入れて蓋を閉めた。

 姉に恨みはない。あるのは……

 嫉妬……

 姉は父に溺愛されていた。

 男の自分には厳しく接する父が、姉には恐ろしく優しかった。良美という名は父の初恋の女性……

 それを勝男は知っていた。勝男は姉が羨ましかった。自分も女性になりたかった。

 小さいころから勝男は姉の服を――お下がりで貰った服をよく着ていた。それでいつも父に烈火のごとく怒られていた。

 勝男は幼いころ自分の男性器を切り落とそうとしたことがある。股間が姉と同じでないのが死ぬほど嫌だった。

 幸い切り落とされることはなかったが、その傷跡は消えずに残っている。

 勝男はクーラー・ボックスを大事そうに抱えると、玄関に鍵を掛け、車で佐藤稔宅を後にした。そして別荘に向かった。

  


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