それが真相です…… 了
それが真相です…… 了
しかし良美ちゃんは飛び出してこなかった。そのまま離れに引き籠り、ひっそりとしていた。
水沼が母屋の二階を確認に行ったあと、私は恐れていた。良美ちゃんが罪の重さに耐えかねて自殺したかもしれないという恐れ……
私は胸が張り裂けそうだった。
第二部の私の混乱ぶりはあのままだ。
私はずっと夢を見ていたが、結局のところ、神の視点を持つ青服、黒服の証言でブリキの花嫁は勝男だったと判明している。であれば、離れから良美ちゃんが飛び出してくることはないわけだ。
良美ちゃんは既に二階で死んでいたのだ!
勝男に殺されて……
首を撥ねられて……
ブリキの花嫁の勝男――近藤社長は生首を一つ離れに持ち込んだ。
あの時……
水沼と二人で離れの玄関の前にいた時、ちょっとでもドアを開けて確認していれば、私は夢からは醒め、すべてが氷解していたはずだ。代わりに首猛夫が中を覗いてそれを書いている。
ただ、あの時、私はずっと良美ちゃんが中で生きている、そう信じていた。それでドアを開けることはできなかった。すべては中の良美ちゃんに任せるしかなかった。離れの中で手筈を整え飛び出して来る――それを待つしかなかった。
水沼と二人で離れの中を確認し、近藤社長の生首を確認した時、ブリキの花嫁は良美ちゃんだったと再び確信したはずだ。やはり良美ちゃんが近藤社長を殺して首を撥ねた、その夢を再び信じた。
現実には違うが、ほんの僅かの間に近藤社長が殺されて首を撥ねられるわけはない、そう思ったのだろう。
奥のベッドには良美ちゃんが横になっている。生きて横になっていると思っていた。
ああ、しかし、母屋の二階で良美ちゃんが首を切られて死んでいる、それがわかったとき、再び混乱したのだ。夢――非現実と現実がごっちゃになって混乱していた。
自分の多重人格は自覚があった。別の人格が現れている時、主人格は夢を見ている。それも自覚があった。
自分は訳がわからなくなった。ブリキの花嫁は良美ちゃんではなく近藤社長だったかもしれない。自分は夢を見ていたのかもしれない。近藤社長が生首を離れに持ち込んで……
でも、その近藤社長も離れの中で首を撥ねられ、その生首はウェディングドレスの上に飾られていた。
僅かな隙に誰かが――ああ、その時は誰が犯人だかわからなかった――誰かが社長を殺して首を撥ねた。そして離れは密室だった。水沼に犯行を行える余裕は確かにない。いや、既に首猛夫が犯行を自白している。彼は会長の命令で会長の息子勝男を処分している。本当に僅かな隙をついて、勝男を殺して首を撥ね、離れで密室を構成してみせた。
ドアチェーンという少し不完全な密室だが、人の出入りはできない。しかし、殺し屋は本当に僅かな隙をついてそれを完遂したのだ。
離れの密室に突入し、現場が密室だったことは自分が確認している。バスルームの首無し遺体も最終的に人体模型だったと自分で確認している。ベッドの上には本物の首なし死体があった。
それは確かに密室殺人……
自殺はあり得ない!
しかし――
僕にはそのハウダニットを解くことはできない。
僕はミステリー作家失格――
これはアンチ・ミステリー……
それでもう僕が書くことはない……
すべては僕が悪い……
まるで探偵小説のようなこの世界において――
世界の悪意のすべては私が引き受けます。
ああ、読者は不満かもしれない……
しかしだ……
最後どう纏めるかは作者が決めることだ。
良美ちゃんを守ろうとしたのは事実だが……
前に書いた通り……
私は良美を愛していた。
離れのバケツの中の生首は良美だった。
良美ちゃんではなく良美だった。
その重さに私は耐えられなかった。
私は水沼を憎んだ。
良美を殺したのは近藤社長か水沼。
近藤社長は死んでいる。
殺し屋が始末してくれた。
しかし、水沼は――
それは私が何とかしないと……
それでナタを手にした。
それが真相です……
まだまだ書きたい事が、あれこれとあるような気もするが、これでだいたい語り尽した気もする。作者は虚飾を行はない。読者をだましはしない。読者よ、命あらばまた他日。元気で行かう。失望するな。では、失敬。幸運を祈る。その幸運が仮に「偽りや嘘」だったとしても……
(気障に一部旧仮名遣い)
了




