表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺人事件ライラック (ブリキの花嫁と針金の蝶々)  作者: 尾崎諒馬
第五部 アンチ・ミステリーに読者への挑戦状は付くか否か?
79/144

いちりとせ

 

    いちりとせ 

    

「ちょっとやってみませんか?」アプリの読み上げを止め尾崎凌駕が首猛夫に言った。

「何をです?」

「いちりとせ」

 尾崎凌駕は何かを探すようにウロウロと辺りを歩き回った。そしてバケツを二つ見つけ出すと、埃を吹き払って一つを頭に被りながら階段を上まで上がった。

「僕が良美ちゃんをやるので、あなたは鹿野信吾をお願いします」

 頭にバケツを被り、手にもう一つのバケツを提げていた尾崎凌駕は「いちりとせ」を始める。

 

 いちりとせ♪

 やんこやんこせ♪

 しんからほけきょ♪

 は ゆめのくに♪

 

 尾崎凌駕はそう歌いながら階段を四段降りた。

「あなたもお願いします。ほら、いちりとせ♪」

 尾崎凌駕に促され首猛夫もしぶしぶ歌に合わせて階段を一歩ずつ上がっていく。

 最後の「は ゆめのくに♪」で尾崎凌駕が一段階段を降り、首猛夫も一段上がると二人は同じ段になった。

「ふむ、これが第一部の二章。次は――」尾崎が階段を再び上がっていく。

「尾崎さん、これが何だというんです。ふざけないで……」首猛夫はいらだってそういう。

「まあ、じゃあ端折(はしょ)ります。あなたはそのままで――」

 尾崎凌駕に言われて首猛夫はそのままの段に留まる。

「OK、そのまま」

 尾崎凌駕は一旦上まで上がると、そこから四段階段を降りてきた。

「この位置が第一部の十章です。私がブリキの花嫁。あなたが鹿野信吾。さあ、どうです?」


挿絵(By みてみん)


「どうです? そういわれても――。前にも似たようなことをやりましたが、ただ、こうして下から覗き込めばバケツの中の顔はわかります。顎のあたりとか……」

「いえ、第一部の十章で鹿野信吾は『まっすぐ手を伸ばしそのバケツを引っ張った。そして、顔が少し見えた。バケツの中に見知った顔があった』そう書いている」

「しかし、頭のバケツには届かない。あ……」

 手を伸ばした首猛夫の手はバケツに触れていた。尾崎凌駕が頭に被ったバケツではなく、手に提げているバケツに……。

「そうなるはずだったんです。鹿野信吾はブリキの花嫁が手に提げたバケツを奪い取るつもりだった。そういう夢を見ていた。それを小説に書いた……」尾崎凌駕が頭のバケツを外しながら、笑って言った。

「しかし、実際には……」首猛夫がポツリと言う。

 尾崎凌駕は再びアプリに読み上げさせる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ