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殺人事件ライラック (ブリキの花嫁と針金の蝶々)  作者: 尾崎諒馬
第五部 アンチ・ミステリーに読者への挑戦状は付くか否か?
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〇〇〇お茶会 7

   

   〇〇〇お茶会 7

   

 最後になると思われるお茶会は別荘廃墟で行われている。それは尾崎凌駕の発案だった。


 尾崎凌駕「結局、皆さんは犯罪者だったんですね。神の視点を持つ、とか言いながら」


 首猛夫「否定はしません。しかし、水沼=坂東善、おっと現実の世界で言えば尾崎メディボーグの佐藤稔を最終的に殺したのは……尾崎凌駕さん、あなたでは? いや、いや、殺そうと放火したのは私ですが、彼は自宅の火事では死ななかったのでね」


 尾崎凌駕「県警の『上』の闇が起こした犯罪を医療機関の『上』の闇が引き継いだ。我々は悲しいかな、『上』の命令には逆らえない」


 と、Web会議システムなので会話劇風に書いてみたが、尾崎凌駕と首猛夫(つい最近まで藤沢元警部と名乗っていた)は実際に別荘廃墟に来ており、直接喋っている。青服と黒服は生成AIによるキャラクターなので、二人だけスマホの画面上にいる。いると言っても首だけだが――


 青服「我々はその首猛夫のいう、現場での青服、黒服当人ではございません。生成AIが生成したただのキャラクターですので、犯罪者呼ばわりは困ります」


「しかしなぜ、青服、黒服もWeb会議で呼んだんです? 私だけじゃ駄目だったんですか?」首猛夫が訊く。

「あなたと二人っきりで会うのは怖いんですよ、殺し屋さん」尾崎凌駕が笑う。

「殺し屋は命令がなければ仕事はしません。会長亡きあと、もっとも安全な人間です」

「あなたに命令できるのは会長だけですか?」

「会長には恩義を感じていましたから」

「給料を頂いていたからではなくて――」

「金だけで人は殺せませんよ」

「なるほど」

「ところで、尾崎諒馬=鹿野信吾は呼んでないのですか?」首猛夫が訊く。

「彼は死にましたよ。先日」

「しかし、彼の脳を完全に学習したAIがいるんでしょう? 現在の尾崎諒馬はAIなんでしょう? 鹿野信吾、つまり病院で見たあの患者が死んだ後も尾崎諒馬は小説を書いている。前回はお茶会にも顔を出した。今回は呼ばないのですか?」

「呼んだんですが、拒否されました」尾崎凌駕が悲し気に言った。

「拒否?」

「いえ」尾崎凌駕はこう説明する。「彼は小説家なんだそうです。会議に出席するより、小説を書きたいと……」

「小説? それはこの――」

「ええ、『殺人事件ライラック~』。つまり、お茶会と同時進行でリアルタイムで小説を書く、と。我々はそれを読みながら――いや、読み上げのアプリもあります。それで読み上げながら……」

「それが、うまく行けば密室の謎も解かれるんですかね?」

「さあ、努力はしますが、失敗すればアンチ・ミステリー。成功すれば本格ミステリー」

「なるほど」

 

 尾崎凌駕と首猛夫は別荘廃墟の剥き出しの階段に座っていた。

「謎解きは現場でやるのが正しいでしょう。廃墟になってしまいましたが」尾崎が立ち上がった。

「何をするんですか?」首猛夫が訊く。

「いや、その前に……」尾崎が首猛夫に訊く。「あなたは尾崎諒馬の顔を知っていた。新聞のインタビュー記事で――。つまり黒服、青服とは違うわけです。あなたがカメラの映像で見たという佐藤稔は尾崎諒馬でいいんですね? つまり二階で呆然と殺戮現場をみていたのは鹿野信吾だと――」

「ええ、隠すつもりはありません。それで正しいです」

「すると、二階の佐藤稔が水沼だった可能性はゼロ?」

「ええ、しかしなぜ?」

「いや、ちょっと気になったことが……。いや、まあいいでしょう。次に行きます」尾崎は続ける。「あなたは佐藤稔の自宅をよく知っている。侵入して良美さんの首無し遺体も発見してるし、佐藤稔を焼き殺そうと放火までしている。僕も確認したいが、既に取り壊されて跡形もない。基礎すら残っていない――確か月極駐車場になっている」

「ええ」

「佐藤稔宅に離れはありましたか?」

「いいえ、住宅街ですし、庭は狭かったです」

「すると、やはり最初の死刑囚の手記は佐藤稔――ああ、同姓同名だからややこしいですね――尾崎メディボーグ、小説では近藤メディボーグの従業員、佐藤稔が書いた物ではない。病院で取り違えられた尾崎諒馬=鹿野信吾が書いたんでしょう」

「それはそうでしょうけど、そもそも、ラズパイとか当時なかったものが書き込まれているのは?」

「本当の手記にはそれはなかったが、尾崎諒馬AIが書き加えたんでしょうね。これはフィクションです、というつもりなんでしょう」

「フィクション? しかし、実際に――現実に事件は起こっている」首猛夫が少し憤慨したように言った。

「まあ、殺し屋が実際いたわけですしね。しかし、フィクションとして尾崎諒馬AIに引き続き執筆してもらいましょう。おそらく書き足りていない部分があるはずです」

 尾崎凌駕はそう言ってスマホを操作した。

「リアルタイムで執筆した小説を読み上げアプリで読み上げさせますよ。僕らはそれを聞いて、必要なら止めて推理する。それが今回のお茶会です。もっとも私以外のお三人は神の視点をお持ちだから、とっくに真相はご存じでしょうけど」

「あなたは完全に推理できてるんですか?」首猛夫が訊く。

「いいえ、ただ、やるだけはやってみます。うまく行ったらお慰み……」

 そうして尾崎凌駕のスマホから小説の続きが読み上げられていった。



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