生首が三つ
生首が三つ
会長宅に生首三つを持ち込んだ。
テーブルにバスタオルを敷き、三つの生首を並べた。
会長は嗚咽していた。慟哭とも言える泣き声を上げた。
そして今なら、こう書ける。
まず、娘良美の生首を愛おしく抱き寄せ、頬刷りをした。数分間そのまま泣きじゃくっていた。
次に、息子勝男の生首をじっと睨みつけていた。しかし、はやり最後はその頬を撫でて「すまん、親の責任としてこうするしかなかった。許してくれ」そう言って泣いた。
最後に、嫁の良美ちゃんの生首にそっと触れ、「悪いことをした。本当に申し訳ない」それだけ言った。
この時のことを文章にすると何もおかしなところはない。読者もそう思うだろう。
しかし、これだけは書いておく。
この時、首猛夫は妙な違和感を感じていた。
小説を読んでいる今はその違和感は消えているのだが、その時は確かに違和感を感じていたのだ。
首猛夫は二人の良美の生首を――その耳の形をじっと見比べていた。
それから黒服にも手伝わせ、佐藤稔を彼の自宅に運んだ。生首三つは冷蔵庫に入れ、意識のない彼を床に寝かせ、ガソリンをぶっかけた。
そうして、ライターで火を付けた。
同時に会長から電話が来た。青服からの連絡で別荘でも火の手が上がり、消防が向かっているという。
それで、すべてが終わった。尾崎諒馬のカルディナはナンバーを外し、後日、山奥に遺棄した。
もちろん、県警の「上」には会長から連絡が行っている。カメラの映像も見せたかもしれない。それでも首猛夫に捜査の手が迫ることはなかった。
県警の「上」の闇は健在だった。
これで坂東善――尾崎メディボーグの佐藤稔がすべての罪をかぶることになる。
いや、彼はおそらく良美を殺している。殺した相手が悪かった、そういうことだ。何人も闇の力には勝てやしない。
しかし――
二人の佐藤稔は火事で焼死しなかった……
焼け出されて救急搬送された。
一人は意識があった……
しかし彼は……
――この世界の悪意のすべてを一身に引き受ける――
それを貫いた。




