尾崎諒馬=鹿野信吾による独白
尾崎諒馬=鹿野信吾による独白
そうだった。水沼と相撃ちで気絶したあと、私を助け起こしてくれた彼は「首猛夫」と名乗った。会長がサイコパスの息子を始末するために送り込んだ殺し屋……
確かにそうだった。
その後のことは……
いや、先にこれを書かねばならない……
良美ちゃんにとって私が初恋の人……
しかし、私の初恋は良美だった……
良美ちゃんは私を愛してくれた。
しかし、良美は私を愛してはくれなかった……
良美ちゃんは私のミステリー執筆を心から応援してくれた。
しかし、良美はミステリーそのものを毛嫌いした。
良美は人殺しの話が心底嫌いだった。
私は殺人の起こらないミステリーを書いた。
良美に嫌われないために……
でも良美は私を見捨てて……
ミステリーを捨てたあいつと結婚した。
酷い女だ……
でも……
私は良美を愛していた……
そして良美ちゃんを愛してはいなかった……
それをあの時ハッキリと思い知った。
あの時……
離れのベッドで近藤の仰向けの死体の……
バケツを外したあの時……
予想され、期待される光景……
確かにおぞましい切断面がそこにあった。
しかし、何かがほんの少し予想及び期待からかけ離れていた……
それはバケツの重さ……
バケツの中に生首が入っていた……
その生首が誰であるのか?
私はずっと良美ちゃんを助けたいと思っていた。
まだ良美ちゃんは生きている、そう信じていた。
しかし――
バケツの重さを腕で感じた時……
私は悟った……
そうして諦めた……
この生首は良美ちゃん……
勝男が二階で殺した良美ちゃんの生首を……
離れに持ち込みバケツに入れていた。
そう予想し、期待した……
そう「期待」したのだ。
その生首が良美ちゃんであることを「期待」したのだ。
それが良美ちゃんであれば、良美は生きている可能性もある。
良美ちゃんから「水沼が姉良美を殺したかもしれない」それは聞いていた。
母屋の二階で……
そのことを聞いていた。
……助けて……
良美ちゃんはそう言った。
私は良美ちゃんを助けたかった……
でも、私の本当の心は「良美」の方に向いていた。
「良美」が本当に殺されたのか? それが気がかりだった。
良美ちゃんの言う通り本当に「良美」は殺されたのだろうか?
あのクーラー・ボックスに本当に……
二階のクーラー・ボックスの中を確かに見たのかもしれない。
しかしそれを信じたくはなかった。
私はあのクーラー・ボックスの中を覗いて……
ショックで立ったまま気絶したのかもしれない……
そこに何を見たのか?
それを信じたくなかった……
気絶した私は見た物を拒絶していた。
それまでずっと……
これは何かの間違いで……
「良美」は生きている……
そう思っていた――いや、思いたかった……
しかし……
「良美ちゃん」と予想し、そう期待したバケツの中の生首は……
「良美」だった……
良美ちゃんではなく良美だった……
私は水沼を憎んだ。
良美を殺したのは近藤社長か水沼。
近藤社長は死んでいる。
殺し屋が始末してくれた。
しかし、水沼は――
それは私が何とかしないと……
それでナタを手にした。
それが真相です……




