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殺人事件ライラック (ブリキの花嫁と針金の蝶々)  作者: 尾崎諒馬
第五部 アンチ・ミステリーに読者への挑戦状は付くか否か?
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しばらく経った頃、外にいた

 

   しばらく経った頃、外にいた


 しばらく経った頃、首猛夫は外にいた。少し前に黒服と合言葉を交わし、彼を先に帰らせた。かわいそうに黒服はすっかり怯え切っていて何の役にも立たなかったのだから。

 外で事の成り行きを窺っていると、母屋から男が一人出てきた。顔を知っているその男がそのまま母屋の裏に回り、しばらくして手にナタを持って帰ってきた。

 ――チェーンを壊すのだろうか?

 果たして、その男は二回の打撃でチェーンを破壊したらしく、ふらふらしながらも離れのドアを開けて中に入っていった。

 そのまま少し時間が経過した。離れには何の動きもない。中を覗いて見ようとしたが、もう一人の顔を知らない男が母屋からやってきたので、再びライラックの茂みに身を隠した。

 顔を知らないその男は妙に落ち着き払っていてそのまま離れに入っていった。

「尾崎さんがバケツの花嫁になって死んでます! 更に母屋で良美ちゃんが首を切られて死んでます!」

 その大声は確かに外まで聴こえてきた。そしてしばらくすると、顔を知っている男に肩を貸しながら外に連れ出してきた。

 続いて再び中に入り、ゴミ袋を抱えて外に出る。

「気が付いて警察に電話されるとまずいからな」

 確かにそう言って顔を知らない男は顔を知っている男の(たもと)から携帯電話を奪ってしまった。そうしてゴミ袋を手に持って母屋に戻っていく。

 顔を知らない男は気絶しているようなので、思い切って近づく。そしてわかった。

 ――尾崎諒馬だ!

 首猛夫は尾崎諒馬の新聞のインタビュー記事で顔を知っていた。その尾崎諒馬が気絶して座り込んでいる。

 と、尾崎諒馬が苦し気な声を出した。

 意識を取り戻しそうだったので、慌てて茂みに身を隠す。

 尾崎諒馬は再びナタを手にし、ふらふらと母屋に戻っていった。


 さて、二人が母屋に戻ったので首猛夫は離れの中を確認する。

 奥のベッドに浴衣姿の首無しの遺体。仰向けで胸には深い傷があった。心臓を抉るとまではいかないが、明らかに抉ろうとしたような傷だ。少なくとも少しの肉片と心臓の一部、胸骨の欠片(かけら)くらいは抉られていたと思われる。

 首無し遺体は勝男に違いないが、念のため、会長に電話をして、勝男の身体の特徴を聞き出そうとした。会長は本当に勝男を殺せたのかどうか? それとも間違って別の男でも殺してしまったのか? と不安げに聞いてきた。勝男の顔をしっかり憶えていたんだろう? と責められもした。

 仕方がないので、遺体の浴衣の裾を捲ってショーツもずらし、臍のかなり下、男性器のすぐ上に特徴のある傷を発見し、それを会長に告げた。

 ――勝男に間違いない。

 絞り出すように会長がそう言った。更に泣くような声で「ありがとう。ご苦労だった」と感謝の言葉を掛けてくれた。

 ――首は持って帰ってくれ。

 会長はそうも言った。

 勝男を成功裏に始末できた際、その証拠として首を持ち帰ること――それが会長の命令だった。勝男の首を探す必要があった。

 会長への報告電話を切ったあと、簡単に離れの中を調べた。遺体はベッドの勝男だけで、生首はどこにもなかった。勝男が持ち込んだ生首も勝男自身の生首も。おそらく――


 あのゴミ袋……

 

 床にドレスとバケツ……

 そして鬼の面……

 それに凶器と思われる牛刀が……

 バスルームには胸が血だらけの首のない人体模型とポリ袋。

 

 と、外が騒がしくなったので、慌ててベッドの下に隠れる。

「本当に社長も殺されたのか? バスルームのあれは? 死体が全部で三つ? え?」

 顔を知らない方の男の(わめ)く声がする。離れの中に入ってきたようだ。だが、すぐに出ていく。外で尾崎諒馬と何やら怒鳴り合っていたが、最後鈍い音がして静かになった。

 ベッドの下から這い出し、外に出てみると尾崎諒馬と顔を知らない男が二人とも倒れていた。ハンマーとナタが転がっていることから、二人で殴り合い、相打ちになったようだ。

 二人の手首に手を当ててみるが、両者とも脈はあった。

 首猛夫が殺し屋でなければ救急車を呼ぶところだが、それはできなかった。すべては秘密裏に処理しなければならなかった。とりあえず、顔を知らない男の浴衣の袂から携帯電話を二個取り上げた。

 ――警察に電話されるとまずいからな。

 それでどうするか? 最終的に会長に伺いを立てるつもりだったが、その前に状況の把握が必要だった。それで母屋の二階も確認することにした。


 

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