表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺人事件ライラック (ブリキの花嫁と針金の蝶々)  作者: 尾崎諒馬
第五部 アンチ・ミステリーに読者への挑戦状は付くか否か?
63/144

ただ、〇〇には耐えられなかった


   ただ、〇〇には耐えられなかった


 ただ、()()()()()()()()()には耐えられなかった……

 

 すべては()()()()だった……

 それは少しも祝福されてなんかいない……

 僕はふらつき、脚がもつれた。

 

 殺し屋が近藤社長を離れで殺して首を撥ねる。

 近藤社長の首はウェディングドレスの上に――

 ポリ袋はバスルームの人体模型の首に――

 近藤社長が持ってきた生首は――

 ()()()()()()()その生首は……

 そのままバケツに入れて――

 ベッドの近藤社長の首の部分にセットする。

 殺し屋も僕を(もてあそ)んで楽しんでいたのか?

 

 ほら、本格ミステリー作家さん、

 ()()()()()()がここに……

 このバケツの中に……

 殺したのは私じゃないですよ。

 私はあなたに代わって復讐してあげたのです。

 あなたの腕にバケツを抱いてあげてください。

 

 そう楽しそうに最後の仕事をして……

 僕が死体に首がないのを確認する時に――

 頭のバケツを取るときに――

 そのバケツの重さで僕を懲らしめる……


 実際の殺しは本屋の棚に並んでいるような甘いものじゃないんだよ。

 

 すべては夢……

 そうだ――

 僕はただミステリーを書いているだけだ。

 夢の話をしてるだけだ。

 

 密室は殺し屋の置き土産……

 

 すまんな、でも褒美をやろう。

 ほら、お前の考えようとしていた密室を再現してやったぞ――

 これこそ、お前の好きな……

 

 ()()()()()()()

 

 それが真相?

 

 でも、密室の謎は少しも解けていない。

 

 いや、これはアンチ・ミステリーだ。

 密室の謎を解いても死者が生き返るわけでもない。

 すべては僕が悪いのだ。

 僕が「針金の蝶々」なんか書こうとしたのがいけなかった。

 それを会長に話したのがいけなかった。

 良美ちゃんは僕が執筆できるように骨を折ってくれたのに……

 僕は良美ちゃんを助けることができなかった。

 いや、助けるどころか……

 

 この世界の悪意のすべては()が引き受けなければならない。

 

 僕は彼女を見殺しにした。

 僕が良美ちゃんを殺してしまった。

 

 

 少なくとも良美ちゃんが生きている世界を小説にすることもできたはずだ。

 第一部の十二章で終わっていればそうなったはずだ。

 虚無への供物も前半だけで江戸川乱歩賞に応募されている。

 犯罪は何もなかった、で終わって江戸川乱歩をがっかりさせている。

 

 でも僕にはできなかった。

 僕はミステリー作家だから……

 でも……

 殺人のないミステリーはクソだ!

 僕の書いた殺人の起こらない三冊のミステリーは少しも売れなかった。

  

 夢から覚めた僕はこう書いて終わるしかない。

 すまん、やはりこれで勘弁してくれ!

 

 僕はミステリー作家失格……

 これはアンチ・ミステリーだ。

 ただ、僕は読者を責めることはしていないつもりだ。

 悪いのはすべて作者の僕なのだから……

 

 生首はおもちゃではなかった。

 それは水沼も認めている。

 その重さは物理的な重さではなく……

 ()()()()()()()()()()……

 ()()()()()()なんてあり得ない……

 生首の足し算なんて……

 そんなものはどうでもいい……

 

 繰り返す――

 

 僕は読者を責めはしない。

 悪いのはすべて作者の僕なのだから……

 

 僕は彼女を見殺しにした。

 僕が良美ちゃんを殺してしまった。

 

 この世界の悪意のすべては僕が引き受けなければならない。

  

 しかし――

 

 作者は虚飾を行はない。読者をだましはしない。読者よ、命あらばまた他日。元気で行かう。失望するな。

 

 密室は殺し屋の作者に対する置き土産……

 そうであれば……

 アンチ.ミステリー作者の……

 読者に対する置き土産……

 

   読者への挑戦状

   

    密室の謎を解け。

    せめて一つくらいトリックを考え出せ。

    では、失敬。幸運を祈る。

    

               佐藤稔

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ